2012/03/07更新

リポーター/尾形美幸

GGJ に参加したOB のプロ開発者と在校生が、同じチームでゲームを制作

ーーGlobal Game Jam(GGJ)を教育に活用しているそうですが、具体的にはどのような形で導入しているのでしょうか?

GGJを使った教育プロジェクトは、同じキャンパス内にある東京工科大学と共同で行っています。学生たちは、10月からGGJが開催される1月ま での間に3本のゲーム制作を経験し、本番に挑みます。正規のチーム制作と同時並行で行うため、GGJプロジェクトに参加した学生は1年間で6本のゲームを作ることになります。3年連続で参加すると、18本のゲーム制作を経験できます。

ーーそれは鍛えられますね(笑)

GGJを経験した学生はたくましくなりますね。普段の教室では出会えない大学生や、大学院生、開発現場のプロと一緒にゲームを制作できるので、後々の人生に活きてくる貴重な経験になっていると思います。今年のGGJでは、本校OBのプロと在校生が同じチームに編成され、一緒にゲーム制作をする事例がありました。今後、この在校生が業界に就職して、同じように戻って来てGGJに参加するといった循環が生まれると面白いだろうなと期待しています。

GGJに参加するような高いモチベーションをもっていて、4年間の間にしっかりとしたプログラミング技術やマネジメントのノウハウを習得した学生は、ゲーム会社の方から高く評価して頂き、就職に結び付く場合が多いですね。

Global Game Jam(GGJ)は、全世界のゲーム開発者や学生が、即席のチームを編成し、48 時間以内にゲームを作るイベントです。

基礎を身に付けることが重要で、実は一番難しい

ーープログラマを目指すうえで、必要な素養は何でしょうか?

色々あると思いますが、数学的な素養は必須ですね。ゲームのプログラミングでは、三角関数や行列を道具として多用します。また、プログラムを 書くという作業は、数学的な考え方を必要とします。数学の文章問題を解くプロセスは、プログラミングのプロセスに近いと思います。数学は問題 の本質を抜き出して、計算式という抽象度の高いものに置き換えます。プログラミングの場合は、対象の本質を抜き出してコンピュータが扱える数 字や式に置き換えていきます。高校数学3年分をマスターしておいてくれると、我々講師としては非常に助かりますね。

さらに、作りたいゲームの完成形をイメージし、必要な要素に分解し、組み上げる力も必要です。ゲームを作るのが上手い学生は、数学的な素養に 加えて、対象を分解して組み上げる力に長けていますね。古い例えになりますが、昔の8ビットのCPU は、「かけ算」の命令が用意されていません でした。だからプログラマは、「かけ算」を「たし算」という要素に分解していました。「かけ算」は「たし算」のループなので、2×3であれば、 2+2+2という命令に置き換えれば良いわけです。これを行うには、「かけ算」の本質を理解している必要があります。プログラミングとは、そ ういう作業の繰り返しです。

ーー入学時点で高校数学をマスターできていない学生には、どういう指導を行うのでしょうか?

プログラマになるためには避けて通れない道なので、地道に再復習してもらうしかないですね。でも、毎年数名の学生が、我慢できずに辞めていき ます。我々講師としては、それを何とか防ぎたいと思っています。その一方で、入学時点では算数すら満足に理解できていなかった学生が、その後 の猛勉強で飛躍的に力を付けて、大手ゲーム会社に就職した事例もあります。高いモチベーションを維持し、自分のやるべきことを見据え、貪欲に 努力すれば、どんなスタート地点からであっても目標を達成することは可能です。学生たちには、諦めないで頑張って欲しいと思っています。

高校数学や、CG の知識、コンピュータの知識といったものは、ゲームのプログラミングの基礎なんです。基礎は凄く重要で、習得するには地道な 努力が必要です。基礎は本質的な部分に直結しているので、理解するのに時間がかかります。「自分は基礎すら理解できないから駄目だ」って勘違 いする学生が多いんですが、実は基礎を身に付けることが一番難しくて、一番時間がかかるんです。そこを乗り切れば、スピードを付けてドンドン 応用的な技術を吸収していけます。基礎が身に付くまで我慢して勉強を続けられるかどうかで、その後の明暗が分かれますね。

教育活動を通して、開発現場に新しい価値を届けたい

ーー最後に、今後の抱負を聞かせていただけますか?

教育を通して、ソースコードレビューやアジャイル開発といった新しい試みや考え方を学生に伝え、彼らが就職することで、開発現場に新しい価値 を届けていきたいです。基礎や既存の技術を教えることも学校の重要な役割ですが、それと同時に、新しいことを試みる場でもありたいと思ってい ます。

知識や技術を総動員して、人間がやってきた作業をコンピュータにやらせることで、仕事を効率化させる。それがプログラマの基本的な仕事だと思 います。学生たちには、過去の伝統や慣習に囚われることなく、効率の良いやり方を提案していく姿勢を伝えたいです。そのためにも、新しい知識 や技術、考え方のインプットと、授業などでのアウトプットを今後も続けていきたいですね。そんなアプローチを通して、日本のゲーム業界の開発 力強化に貢献したいと願っています。