2011/11/18更新

取材・編集協力/CGWORLD.jp リポーター/宮田悠輔 写真/大沼洋平

人との繋がりから切り開けた道

前述したように、木下さんはWAO卒業後サポートスタッフとして同校に籍を置きつつ、デモリール用動画を制作し、就職活動を開始した。しかし、面接を受けた会社ではモデラーを募集していることが多く、映像やアニメーションの仕事をしたい木下さんの希望とは、なかなか合致しなかったという。

「ちょうどそんな時、僕が生徒の頃にサポートスタッフをやっていた先輩からの『こういう仕事があるんだけどやらないか?』というお誘いがきっかけで、『ゾイドフューザーズ』のアニメーションをやらせていただきました。1ヵ月限定ではありましたが、それが初めての仕事でした」

当時この短期アルバイトのために入った会社は、株式会社ポリゴン・ピクチュアズのフロアの一角を借りて業務を行っていた。このことが木下さんの人生を大きく前進させる契機となった。

「そこで1ヵ月の業務が終わった後、ポリゴン・ピクチュアズから『ウチで働かないか』と声をかけていただいて、そのまま働き始めたという感じです。その後は先輩の八木下さんに誘われて株式会社サテライトで『創聖のアクエリオン』の合体シーンを手がけたり、東映アニメーション株式会社へ出向して『最終兵器彼女』の爆撃機のモデリングなどにも携わらせていただきました。そんなある時、友人から『セガが新しい映像制作部門を作るから来ないか?』と誘われて株式会社セガ VE研究開発部に参加することになったんです。お世話になった先輩や友人との繋がりというのは、とても大きかったですね」

セガ VE研究開発部は、後にマーザ・アニメーションプラネット株式会社となり現在にいたっている。ここで補足をしておくが、業界での実績が少ない人間が企業からダイレクトに誘われるという事例は稀なケースである。それにも関わらず、1ヵ月という短い期間でポリゴン・ピクチュアズから認められる結果を残した木下さん。その仕事ぶりはどのようなものだったのだろうか。

「当時はよく、“手が早い”といわれていました。それなりの物量を短期間でこなせるっていうのが自分の強みだったようで、そこが大きかったと思います」

つまり、実際の業務の中でスピーディーに仕事をこなしていく木下さんの能力に、企業が契約したい人材として合格点を付けたということだ。これはWAOでの学生時代、大好きなゲームにまったく手を付けず、毎日8〜10時間、Mayaに向かっていたと話す木下さんの積み重ねてきた努力が導いた結果であろう。では現在プロとして現場の第一線で活躍される木下さんが、就職活動を行う学生に求める能力とは何だろうか。

「まず、何か1つで良いのでスペシャリストであることです。モデリング、アニメーション、ライティングといったCG作業の中で、『自分はココが得意だ』と自信をもっていえる部分があった方が良いと思います。もちろん仕事をしていく上では、ワークフロー全体に関する最低限の知識や能力は必要ですが、自分の中で売りとなる特化したスキルを身に付けておいてほしいですね」

この“スペシャリスト”という言葉は本連載でも度々登場してきたポイントであり、改めて現場の切実な人材要望として痛感させられるところだ。これからポートフォリオやデモリールの制作に取りかかろうとする学生は、自分がやりたいことや、特化して身に付けてきたことが読み取れる構成にすることを心がけてほしい。

「僕もそうでしたが、まずは“諦めない”ことが大事です。自分がやりたいことに対してハッキリとした芯をもち、それに向け諦めずに頑張ってほしいです」

もちろん頑張れば必ず良いことがあるという訳ではない。しかし、木下さんのケースのように、いつ何処で誰の目に留まるチャンスが巡ってくるかは未知数だ。それを逃さないためにも、諦めることなく日々の努力と研鑽を重ねていくべきであろう。

マーザ・アニメーションプラネット 木下秀幸さん インタビュー 〜後編 CGアニメータの心構え〜