2011/06/29更新

取材・編集協力/CGWORLD.jp リポーター/宮田悠輔 写真/弘田充

インプットを増やす 〜幅広い知的好奇心が意外なところで役立つ〜

専門学校卒業後、アニメーション業界を目指した吉岡さんは、上京してアニメーション制作会社スタジオ・ウォンバットへ入社。動画スタッフとして、TVシリーズ『ツヨシしっかりしなさい』の制作に携わったのが、アニメーション業界での仕事の第一歩となった。しかし、その業務は想像以上に激務だったそうだ。

「適正や職場との相性もあると思うんですが、僕にとっては作画の仕事は凄くハードでした。それでも絵を描くことは好きだったので頑張りましたけど、9ヶ月でギブアップしてしまいました。その後の2年半は燃え尽きてしまった感もあり、飲食業のフリーターをしてました」

厳しい経験から1度はアニメーション業界を離れた吉岡さんだったが、アニメーションに対する強い思いは抱き続けていた。そんな吉岡さんが再びアニメーション業界へと踏み出すきっかけとなったのが、コンピュータ・グラフィックスであった。

「動画の仕事を辞めてから、やはり自分が追い求めたいのは“絵を動かすこと”だと改めて思いました。そんな矢先、『FromA(フロム・エー)』(リクルートフロムエー)で見つけたのが、創業間もなかった株式会社ディジメーションの求人でした。デジタル技術によるアニメーション制作を目指すという方針に興味をもって面接を受けてみたら、採用してもらえました」

ディジメーションは、1996年にデジタルによるアニメーション制作を目的として設立されたプロダクションであり、2002年に株式会社ゴンゾと合併、ゴンゾ・ディジメーションとしてCGを用いたアニメーション制作で業界を牽引してきた会社である(ご存知の方も多いだろう)。その後、紆余曲折を経て2009年、ゴンゾの事業再編にともない、同社デジタル部門が株式会社キュー・テックの傘下に入り、グラフィニカが誕生した。吉岡さんもグラフィニカに転籍し、現在に至る。

ディジメーションに入社した当初は、プレイステーション向けゲームの映像やOP制作に、Animoというアニメーション制作ツールを使用して携わっていた吉岡さん。その後、様々な業務をこなしていく中で、RETAS!、After Effects 3.1(※以降AE)と、多様なツールを使ってきた。現在ではAEをメインツールに撮影監督として、多くのアニメーション作品を手掛けている。

家庭用ゲームという、いわばデジタル・ツールの走りといえる存在との出会いからアニメーション制作に関心を抱き、プログラムで描くドット絵、3DCG、撮影/コンポジットと、様々な形でアニメーションと向き合ってきた。そして近年では、実写作品のVFXも手掛けている。

今回のインタビューで印象に残ったのは、アナログ・デジタルを問わず、その時々の状況に応じて、いつも自然体でアニメーション表現を探求する吉岡さんの姿勢だった。この姿勢こそが、吉岡さんの大きな武器になっているのではないかと感じた。何かに熱中し、その根本まで深く探求していく。CGをはじめとする、デジタル・コンテンツの制作ツールが高機能化し、その一方で複雑化してしまった現在だからこそ、吉岡さんのような深く探求していく姿勢が重要になっているのではないだろうか。

後編では、吉岡さんのこれまでの経験に基づいた、仕事のスタイルをご紹介する。
グラフィニカ 吉岡宏夫さん インタビュー 〜後編 仕様に惑わされず、探求する〜