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知識がないと“表現したいもの=作品のコンセプト”は生まれない 加藤良将さん


インスタレーション作品『Rokuro-2』で、第15回学生CGコンテストインタラクティブ部門 優秀賞を受賞した加藤さん。CG検定2・3級(現在のCGクリエイター検定・CGエンジニア検定エキスパート・ベーシックに相当)を取得している。 『Rokuro-2』の制作秘話や、受賞作品展の感想、作品のコンセプトを生みだすために、どのように勉強にとりくんだのか、お話しをお伺いした。


  
受賞作品『Rokuro-2』はどのような作品ですか

これまで“立体ではないもので立体を表現する”ことをテーマに作品を制作してきました。『Rokuro-2』もそのうちの1つです。この作品は、3次元CG(3DCG)を実際に手で触りたい、という願望から制作し、触る動作だけで体験できる作品を目指しました。触る動作にこだわったのは、メディアアートを体験することがどんどん難しくなっているように感じていたからです。Flashを用いたエンターテインメント的な作品はとてもおもしろいのですが、マウスやPCの操作を知らなければ楽しむことができません。そこで子供からお年寄りまで、誰にでも作品を同じように体験してもらうために、PCの知識がなくても、触るだけで楽しめる作品をつくりたいと考えました。
 
画像では3DCGのように見えますが、40本の光ファイバーを束にして回転させることで、3DCGのような立体の形状が得られます。観客は見るだけではなく、ろくろのように実際に手で触れて、色々な形状に変形させることができます。また、4つのカラーモードから好きな色を選んで楽しむこともできます。

 
インスタレーション作品の制作をはじめたきっかけを教えてください

 
3DCGのクリエイターを目指して、アートとコンピュータが同時に学べる大学を選択しました。入学当時、3DCGのアプリケーションソフトは、個人で購入するには大変高価なものしかなく、大学で学ぶことが一般的でした。そのときの指導教官は、3DCGとは別にプロダクト作品やインスタレーション作品などの立体的なものづくりも指導してくださり、2つを同時に学んでいました。3DCGの場合、ディスプレイに表示されている形体のパラメータを詳細に設定すれば、形状や色を変えることはできますが、マウスやキーボードを操作して形をつくることは、間接的にものごとを動かしているような気がして、つくっている実感がわきませんでした。祖父が大工で、日頃から触ってつくるという直感的な動作に慣れていたからかもしれません。次第にCGにはない“触れて動かせる”という実在感に惹かれていきました。人がものをつくるうえでは、直接触れ、触れることによるフィードバックこそが重要だと考えるようになり、インスタレーション作品の制作に至っています。

 

第15回 学生CGコンテスト受賞作品展はいかがでしたか

これまで、技術系イベントでの作品展示経験はありましたが、6万人規模での展示は初めてでした。反響が大変大きかったです。来場者やマスコミの記事を見た方など、たくさんの方に声をかけてもらえました。自分の作品に興味を示してくれる人がどんどん増えていくことがとても嬉しかったです。展示会場での配布用に名刺を400枚用意していましたが、作品展2日目で300枚がなくなってしまいました。あわてて印刷しましたが、それでも足りず、会期中に3回印刷を追加しました。結局、全部で約3,500枚の名刺を印刷し、多くの来場者の方に配布することができました。
 
この作品の展示には暗い場所が必要なので、会場ではブースの一部を囲った暗室で展示しました。遠くから見るとレーザーの光のように見えるため、オブジェだと思いブースに入った来場者は、実は光ファイバーの作品で、曲げたり自由に動かせることにとても驚かれていました。光ファイバーは、オブジェやイルミネーション、インターネットのケーブルなどでの利用が一般的だと思いますが、回転させたり直接光を通して動くものはほとんどないと思います。展示期間中に光ファイバーの専門家の方が来場されたのですが、この作品のように回転しているものは初めて見たそうです。

 

工夫された点はどんなことですか

光ファイバー40本を1束とすることで光が強くなり、撮影してもきれいに写ります。また11日間の展示期間中に1本切れても展示が続けられるように、強度の面でも考慮しました(それでも40本1束を3回取り替えました)。また実物のろくろを模倣している以上、本物を超えた独自のろくろがつくりたかったので、リアルタイムに形状や色が変化させられることと、透明感を出すことで表現しました。来場者からは、「シャボン玉に触れているみたい」、「3DCGが実物の世界に浮いている感じがする」など、感想をいただきました。
 
メディアアートは触ってはじめて伝わるものだと思います。動画投稿サイトにはたくさんの作品が掲載されており、動画には動画のよさがありますが、実際に触ってみなければ半分しか伝わりません。この作品に触れた来場者は驚いて楽しんでくれました。ブースで作品を見ていた来場者の方にも、ぜひ触ってほしいとお願いしました。
 
※光ファイバー40本がばらばらに回転するため、数本の束で大きな球を形成し、その球の中に別の束で小さい球が形成され、レースカーテンのような透明感が表現されている。(画像参照)

 

作品のなかで大切だと感じていることがありましたらお聞かせください

作品を表現するうえで一番インパクトがあるものは色だと考えています。『Rokuro-2』は、4つのカラーモード(赤モード、青モード、8色モード、64色モード)を用意しています。赤モードの場合は赤1色で暗く表現されるため、来場者の興味を引きにくいのですが、突然青モードに切り替えると、「何だろう?」と思って近くまで見にきてくれました。作品展では虹色が表現できる64色での展示をしていることが多かったのですが、来場者の方に色が4つから選択できることを告げると、自分で色が変えられることに驚かれていました。この色の表現には、いつも気をつかっています。

 

CGの勉強が『Rokuro-2』に活かされたことはありますか

3DCGを勉強していなかったら、『Rokuro-2』の発想はなかったかもしれません(笑)。『Rokuro-2』は、大学でshadeを使って3DCGを学んだときに得た、簡単な3次元生成手法であるスイープ表現の知識からヒントを得ています。
 
またこの作品は、センサによって計測された左足のつま先の高さで色が変わります。ここでHSV色空間のH(色相)を変化させるパラメータを設定しています。HSV色空間は1つのパラメータで色を変えることができるため、片足の1操作だけでの色変更が可能になります。RGB色空間やCMY色空間しか知らなかったら、色の表現には3つのパラメータが必要となり、操作が複雑になっていました。HSV色空間の知識は、誰にでも簡単に体験してもらうという課題を解決するうえで役に立ちました。
 
※スイープ表現:1本線を書いて回転させることで物体の形状を表現する手法。CGエンジニア検定エキスパート対応テキスト『コンピュータグラフィックス』p.052 図3-10より(画像参照)

 

CG検定の勉強はどんな方法が効果的でしたか

CG検定の勉強は、大学の講義でのCGの実習授業とあわせた勉強が役に立ちました。実際にソフトウェアに触れたあとにテキストの内容をまた見直すことで、知識が頭にスムーズに入りました。テキストだけの勉強ではなく、手を動かして簡単な作品でもよいので作ってみることが、知識の習得には効果的だと思います。

 

クリエイターを目指す方にアドバイスをお願いします

皆さんがアドバイスされることだとは思いますが、つねにアンテナを張ることが大事だと考えています。私は大学時代に、自分の知らない知識が作品制作のヒントにつながるかもしれないと考え、専攻とは関係のない社会学や女性学などの一般教養をたくさん受講し、卒業に必要な単位の1.5倍は取得しました。最初は2倍の取得を目指していましたが、卒業制作が忙しくなり無理でした。大学生活4年間は目一杯講義をうけ、とても大変でしたが、大学の一般教養は入門者に向けた講義が多かったため、楽しく学ぶことができました。
また、つくりたい作品が思い浮かんだら、その制作のために必要な技術を勉強して習得してきました。『Rokuro-2』の筐体は、ほぼすべて自作です。部品の切断や溶接なども自分で作業しています。所属していた情報科学部メディア科学科は、大学2年生でアート、システム、映像、交流の4つのコースに分かれます。私はアートを専攻しましたが、同じフロアにシステムコースがあり、システムコースの先生に色々聞くことができました。大学3年生のときに、電子工作技術が必要となり勉強しはじめたのですが、(直属の指導教員ではありませんが)電子工作を指導されている先生には大変お世話になりました。LEDから学び始めましたが、自分でつくった点灯回路によりLEDが光っただけでとても感動しました。
 
せっかく同じ場所に教えてもらえる人がいるのだから、授業をうけられるのであれば、どんなことでも積極的に学ぶことが大切だと思います。とくに大学は1〜4年までの授業料が同じなので、4年生の卒論8単位のためだけに同じ金額を支払うことは損をしているように思います。どんな知識が作品制作に影響するかは未知数ですから、たとえ単位が取れなくても、自分の専攻だけで満足せず、よくばりに勉強する意欲が大切だと思います。
また大学3、4年生のときに、美術館に頻繁に通ってフライヤーを集めていました。そのときだけで200枚近く集まりました。今後必要となるかどうかはわかりませんが、アンテナを張るクセがついたように思います。

 

毎日の講義のなかで蓄積された知識は作品に結びついていますか

意識的にはありませんが、知識がなければ作品はつくれないと思っています。アートコースを専攻して、絵画や芸術は、哲学に分類されるものだと学びました。作品には必ずコンセプトが必要です。電子工作を始めた当初は、LEDがチカチカ点滅することが楽しくて、LEDで何か作品がつくれないだろうかと思っていましたが、技術から発信した作品では「コンセプトがない」と指導をうけました。
作品展で展示されている受賞者の方は、皆さん根底に何かをもっていてコンセプトが伝わってきます。来場者の方に作品をつくった理由を聞かれ、おもしろい技術があったから、と答えても納得してくれないと思います。『Rokuro-2』も、ただ回転したらきれいだっただけでは、受賞に至らなかったのではないでしょうか。
知識がないと“表現したいもの=作品のコンセプト”は生まれません。何がつくりたいかを見つけるためにも、知識の習得が必要だと思います。また技術は作品を表現するための手段なので、観客の方には、技術よりも表現されているコンセプトを見て、何を表現しているのかを感じてもらえると嬉しいです。

 

今後、どのような作品をつくっていきたいですか

次回作の構想は、まだありません。いまは『Rokuro-2』を展開していく予定です。家庭やちょっとしたスペースに置ける持ち運びに便利な小さいサイズを制作しています。まだ筐体には入っていませんが、あとは本体に組み込むところまで完成しています。




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