大学・企業現場リポート ディジタル最前線

Vol.4 SIGGRAPH2005 スペシャルセッション-CGの最新の話題が結集した6つのスペシャルセッション特集 東大西田教授 スティーブン・A・クーンズ賞を受賞-「後継者育成のへ伝えていく役割を担った」

毎回、CGに関する特別な話題に関して、当事者を招いて開催するスペシャルセッション。今年は、映画、ゲーム、科学、ファッションと、多彩な領域からテーマが選ばれた。

映画関係では、77年の「スターウォーズ」から最新作「スターウォーズ エピソード3」までの、キャラクター、オペラチックな戦闘などについて、5つの映画における映画史に残る映像を紹介した「A Star Wars Retrospective From Industrial Light & Magic: Environments, Space Battles, and the Characters Who Fought Them From 1977 to 2005」、そして、ウォルトディズニーの劇映画の70年のアニメーションが培ってきた色彩、アニメーション、アートディレクションについてのスペシャルセッション「The Legacy of Disney Animation: A Journey to the Past, Present and Future Through the Eyes of Disney Animators, Directors, Designers, and Storytellers」、映画「ポーラーエクスプレス」のIMAX版3D立体映像を実際にカリフォルニアサイエンスセンターのIMAXシアターで上映しながら、ビジュアルエフェクトスーパーバイザー、アーチスト、技術者などが制作ノウハウを紹介する「"The Polar Express": Artists and Technicians Reveal How They Transformed a 3D Train Ride Into a 3D Stereoscopic Adventure」の3つが開催された。

ゲーム関係では、「Jump! Shout! Dance! Sing! An Interactive Conversation About Games, Game Art, and Play That Goes Way Beyond the Joystick」と題したスペシャルセッションが開催され、ゲームの新たな方向性を示唆するような、新世代のコントローラーや、ゲーム機の新機種、新しい表現などが披露された。

科学関係では、ジェット推進研究所(JPL=Jet Propulsion Laboratory)の伝説的なサイエンティストが火星探査機サターン、タイタンからの最新の映像や、宇宙の貴重な画像を見せてくれた「From the Earth to Infinity: Scientists From Caltech's Jet Propulsion Laboratory Reveal Secrets of the Universe Through Remarkable Images of Mars, Saturn, Earth, and the Deepest Reaches of Space」と題するスペシャルセッションが開催された。

CGとファッション産業が協力し、コンピューターが生成した衣類や生地を使用したファッションショー「Extreme Fashion: Designers, Artists, and Technologists Present a Glimpse Into the Place Where High Fashion Collides With High Technology」では、ファンタジックなデザインを現実化したウェアラブルなファッションが登場。ハイエンドのファッションデザイナーやテキスタイルプロデューサーが参加。さらには生地製造会社や、アーティスト、サイエンティストまでもが参加してITとファッションの融合を目指す試みがなされた。

上記の6つのスペシャルセッションのうち、2つのスペシャルセッションについて紹介する。


From the Earth to Infinity 太陽系の彼方を目指す探査機

2日午後のスペシャルセッションは、カリフォルニア工科大学ジェット推進研究所の科学者達が人工衛星、宇宙探査機の最新状況と最新情報を解説するSIGGRAPHならではの催しが開催された。NASA/JPLの表記で知られるジェット推進研究所だが、カリフォルニア工科大学の付属機関で、NASAとは惑星探査機、深宇宙探査機の長期開発契約を結んでいるものであり、NASAの機関ではない。

講演では、衛星による地球観測による地震、火山観測(最近は、重力の変化まで衛星から観測し、火山のような広い領域を観測している)、マーズローバーによる火星観測、惑星観測、そしてSpitzer Space Telescopeによる赤外線領域の宇宙観測の様子が示された。JPLは、シェーディングアルゴリズムで知られるJim Blinn博士(Microsoft Research)が籍を置いた機関であり、JPL在籍中の同博士が制作したボイジャー探査機等の土星通過のCGがビジュアライゼーションのあり方を変えたという経緯があり、SIGGRAPHとJPLは意外に近い関係にある。

セッションでは、5人の科学者が地球観測から紫外線天体観測まで、観測対象までの距離の近い順番に講演を行なった。地球観測は、日頃の天気予報や、最近では検索サイトによる画像出力でも馴染がある。しかし、地域毎の重力の変化やミリメートル単位での地殻変動といった、通常では目にする事ができないデータが示され会場からは驚きの声が上がっていた。火山周辺では、GPSの搬送波干渉による精密測定もさることながら、地域全体の変動を知る手段として重力の変化が重要であることも説明された。マグマが上昇すると火山周辺の重力に変化が生ずるが、これが衛星によって観測できる。サイエンティフィックビジュアライゼーションは、それ自体に新しいCG技術が含まれることは少ないが、科学技術の重要なツールとして働いていることが見てとれる講演であった。

セッションでは、ローバーが送ってきた火星の写真、ローバー着陸地を別の衛星から撮影した写真、木星の衛星ユーロパの探索写真なども示された。途中では、オランダのビール会社がローバー着陸を見守る管制室の報道映像を使って作ったパロディCF(ローバーが火星でビールサーバーに変身する)も上映され笑いを誘っていた。


A Star Wars Resrospective

2日夜のスぺシャルセッションは、映画スターウォーズに携わったSFXの専門家達が、制作過程を振り返る、貴重なものであった。CinefexのDon Shay氏を司会役に、エピソード4〜6を担当したDennis Muren氏とエピソード1〜3を担当したJohn Knoll氏(レタッチソフト「PhotoShop」の開発者でもある)、Rob Coleman氏が、「
スペースバトル(宇宙戦)」「クリーチャ」「エンバイロメンツ(大道具)」について撮影の舞台裏を公開した。Muren氏はモーションコントロールカメラの時代であり、Knoll氏とColeman氏が主としてCG時代について話している。Muren氏が示した「エピソード4のオープニングナレーション用フィルム」には「STAR WARS」の文字はあっても「Episode IV」の文字は無く、Episode IVの文字が後から入れられたことを裏付けていた。

Lucas監督とILMは、ディジタル技術の先駆者であるが、同監督がディジタルクリーチャ使用を決心したのは96年とかなり遅い時期だったことがColeman氏によって明らかにされた。また、Lucas監督がCGによるクリーチャを見て「よし、これで行こう」と言う瞬間を収めた貴重な記録フィルムも公開された。

講演では、ディジタルのものであっても、ペンでのデザイン、粘土での造形を経ることも強調された。考えをまとめる段階では、これらの「レガシーな」道具が必須というわけである。スターウォーズも大道具もディジタル生成のみではなく、実物と模型写真のマッピング、そしてCG造形を巧みに組み合せていることも明かされ、ILMの効率的な作り方の一端に触れることができた。

(蓮憶人)

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