大学・企業現場リポート ディジタル最前線

Vol.4 SIGGRAPH2005特集 東大西田教授 スティーブン・A・クーンズ賞を受賞

SIGGRAPH会期中の8月1日、東京大学大学院新領域創成科学研究科の西田友是教授へのスティーブン・A・クーンズ賞の授賞式が行なわれた。クーンズ賞は、CGの研究に貢献した研究者に贈られる賞。隔年で選定され、西田教授は歴代で12人目。アジアでは初めての受賞者である。

西田教授は、70年代よりCGアルゴリズムの研究を行なっており、日本の現役CG研究のパイオニアの一人。70年代の日本のCGは、ラインプリンタかXYプロッタに描画を行なった時代であり、これらの装置によるCG作品「風雅の技法」が有名である。西田教授がこの頃開発したシェーディング・アルゴリズムは、80年代に世界で使われた教科書「Principles of Interactive Computer Graphics」(Newman他)に収録されている。

西田教授の業績の一つに、ラジオシティ法に相当するアルゴリズムをコーネル大学のグループとは独立に、ほぼ同時期に開発したことがある。日本語での論文発表時期は世界に先駆けて84年春に行われた。翌85年夏のSIGGRAPHで、中前栄八郎教授(広島大学)との連名で西田教授(当時福山大)が発表している。

その後の西田教授は自然界の光線状況を表現する多くのアルゴリズムを発表しており。それらの功績により、今回のクーンズ賞が授けられた。

西田氏は、満席の大ホールにおいて賞を受賞したのち、15分間にわたり謝辞を含めた講演を行った。プレゼンテーション用の画像のオープニングでは、その後のジョージ・ルーカス監督の基調講演にちなみ、スター・ウォーズのオープニングにあるような宇宙空間を文字がスクロールする映像で会場を沸かせた。講演では、恩師である中前氏へのお礼の言葉とともに、同氏の学部時代からのこれまでの35年におよぶCG研究の軌跡をたどりながら、ラジオシティ法、各種の光源、ソフトシャドーや大気の錯乱など、世界に先駆けて手がけられた研究を紹介。また、アートショウやエレクトリック・シアターなどの芸術性の面でも高い評価を得ていることを披露した。

エピソードとして、84年当時には、手書きの原稿による発表だったこと、世界最初のラジオシティの論文は、西田氏の夫人が手書きで清書をしたことなどについても言及した。また、地球の大気の論文について、査読者から「実際のものと比較しないと採択できない」と指摘されたため、当時の宇宙飛行士の毛利衛氏に会い、シミュレーション結果の評価をしてもらったと話し、ちょうどスペースシャトルが宇宙空間上にあり、日本人宇宙飛行士の野口氏が搭乗していることにも触れているなど、聴衆を引き込む話題をちりばめながら講演を進めた。

SIGGRAPH東京で中前氏が西田氏を賞賛

西田氏と中前氏発表の翌日の8月2日夜、SIGGRAPH会場からほど近い、ダウンタウンのウィルシャーグランドホテルにおいてSIGGRAPH東京によるレセプションが開催された。冒頭で、西田教授は受賞の喜びを語り、クーンズ賞で受賞したブロンズ像を披露した。彫像は、賞の名前の由来でもあるスティーブン・A・クーンズ(Steve A Coons)博士によるクーンズ曲面を用いて表現したものだ。像の底面には、西田氏の名前が漢字で表記されているという。

西田教授は挨拶につづいて、学生時代からCGの教えを受け、ともにCG研究を歩み続けてきた中前 栄八郎元広島大学教授を壇に招いた。中前氏は、当時まだCGに対する評価が定まらない中での研究の苦労について語り、またその中で、西田氏が中前氏とともに研究を支え続けてきたことを紹介し、「よくがんばってくれた」と賞賛した。最後に、それらの研究を周辺で支えてきた人々に謝辞を表し、西田氏に対して「このクーンズ賞を受賞したことを新たなスタートとして考え、さらに研究活動に専念してもらいたい」と述べた。

西田氏インタビュー「アジアのCG研究のさらなる活躍に期待」

西田教授は、今回のクーンズ賞の受賞について次のように語った。

今回の受賞は、私自身にとっての意味もさることながら、アジアのCG研究者にとって、大変勇気づけられるものであったと思っている。SIGGRAPHは元来、米国の学会であり、これまでの受賞者の多くは米国の学者であったこともあり、私自身、受賞の対象として見られているとは思っていなかった。なので、大変驚いたとともに、SIGGRAPHが国際的な学会としてアジアの研究者に対しても公正な評価をしてくれているということを知り、大変うれしく感じる。これを機に、日本に限らず中国や韓国などのアジアからさらに活発に研究論文発表を出していってもらえればと期待している。

当時の研究は、CGに対する大学の評価が厳しく、今の若い研究者の方には想像もできないほど厳しい環境の中での活動だった。また、地域格差に対する偏見もあり、広島での研究が正当に評価されない時期もあった。そうした逆境の中でここまで研究活動ができたのは、師である中前氏による叱咤激励の指導のおかげである。現在でも厳しい言葉をいただきながらの研究活動であり、自分自身のハングリー精神を忘れない気持ちが、長年の研究を支えたと思う。

そういう意味では、現在の恵まれた環境の中で研究をしている若い研究者の方々が世界に伍していけるかどうか、一抹の不安を感じる。また、日本の大学におけるCG研究活動は学校間の連携が少なく、学校ごとにCGの専任教授が一人ずつというように、学内で論議したり協調したりできる教授も少ない。そのため、それぞれが孤立しやすい状況にあることもCG研究の活発化のための障害となっている。そうした状況を打破するためにも、研究者・学者同士が横断的に自由に共同で研究できるような新たなネットワークが必要であると感じる。また、国の研究助成機関についても、常に世界の動向や評価を意識して研究者を助成していく姿勢がほしい。

私自身は、今回の受賞の意味を、これまでの研究実績に対する評価であると同時に、後継者へ伝えていく役割を担ったと思っている。自分自身の研究活動についてもさらに推進しながら、これまで以上に積極的に若手の指導を手がけていきたい。

(小林直樹)

 

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