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画像処理、認識への傾斜続くSIGGRAPH
2007.08.09

 SIGGRAPHでは、ここ数年の傾向として画像処理の比重が高まってきている。 発表された論文も、画像関連のアプリケーションを指向したものが目立った。 一方機器展示では、古典的なCG機器は落ち着きを見せる一方、画像処理・画像認識を応用した新型の機器が現れ始めた。 エマージング・テクノロジも同様の傾向が続いている。(蓮憶人)

●論文19本
 SIGGRAPHは論文、コース(講習会)、エマージング・テクノロジといったテクニカルセッションと、アート系の展示、行事、そして機器展示会が3つの大きな柱となる。 このうち、最初に始まるのがテクニカルセッションで、初日の8月5日朝からコースが開講された。
 コースは、半日のものと終日のものに分かれる。また、映画作品の制作テクニックなどを解説する「メイキング」系と純粋な技術系に分かれる。 今年の技術系コースで最も人気を博したのは「コンピューテーショナル・フォトグラフィ(計算写真学)」のコースで約600名が受講した。 このコースで、まとめ役のラメッシュ・ラシュカー博士(三菱電機米国研究所:MERL)は、「今年は計算写真学関連の論文が19本採択されており、この分野はSIGGRAPHの一大潮流となった」と状況を説明していた。
 計算写真学の中で最も目立つ研究傾向は、複数の写真から一枚の良好な写真を再構成するものである。 ノイズが多いがブレの無い写真と、色合いは良好であるがブレがある写真から、ブレを除去した良好な発色の写真を再構成する技術は、米マイクロソフト社の研究部門であるマイクロソフト・リサーチ(アジア)が香港科技大学との共同研究として発表した。 MERLとノースウェスタン大学からは、一眼レフカメラの絞りに特殊なパターンを埋め込むことで、撮影後の演算処理でピントの位置を変えられる方式が発表された。 このように、計算写真学は従来のカメラでは不可能であったことを実現しようとしている。

●新型キャプチャー
 モーションキャプチャーもSIGGRAPHでは注目されている技術であるが、今年はエマージング・テクロノジと機器展示に新たなものが登場した。
 MERLが開発したモーションキャプチャ装置は、投光器からパターン化された光線を送り、受光器が受けた信号パターンで位置決めを行う、というものである。 投光器に発光ダイオードを使うことで、毎秒500回のスキャンが可能となった。 この装置は、特殊なスタジオは必要ではなく、投光器、受光器の組合せだけでより。 また、使用する光線に変調された赤外線を使うことで明るい屋外での使用も可能となっている。 公開されたデモビデオでは、ジョギングする人の動きを並走する自動車から投光してキャプチャする様子が示された。 また、エマージング・テクノロジの会場でもこの原理に基づくキャプチャ装置のデモが行なわれた。 赤外線を利用しているため、半透明な板を通しても読取が行なえることが示されていた。 また、扇風機の羽根に受光器を取り付け、回転させても正常動作する様子も示され、500ヘルツの高速読取が出来ていることを示していた。
 もう一つの新型キャプチャ装置は、米オーガニック・モーション社がマシンビジョン(画像認識)技術を利用して開発したものである。 16台の小型カメラで対象を観察することで、キャプチャを行っている。 マーカー、センサを対象に取り付ける必要が無い。 デモでは、演技者の動きをリアルタイムにCG化して、自由な視点から見せることをおこなっていた。 これまでのモーションキャプチャーが、センサやマーカーの取り付けを必要としたのに比べると大きな変化であるが、これも画像関連技術の導入が奏功している。

●セル関連製品
 プレイステーション3(PS3)に搭載したことで知られるプロセッサ「セル」関連製品は、3社から出展されていた。 ひとつは、ソニーが持ち込んだセル利用のワークステーションである。
 第二の応用例は、米IBM社が出展したセル利用のブレード・サーバ「QS20」である。 技術展示として持ち込まれたQS20は、14台のセル・プロセッサを搭載しており、1台あたりのメモリ容量もPS3より大きい。 デモでは、PS3と比べて高画質の映像が高いフレームレートで表示されていた。
 第三の応用は、米マーキュリー・コンピュータ・システムズ社の製品群である。 同社は、早くからセル関連ボード、ワークステーションを開発しており、今回はCG関連への訴求を目指して出展していた。

●光源一致可能に
 前出のアグル・イメージーズ社は、ポリゴンとして紙面を取り込むスキャナに加えて、ライトステージも「アグル・ドーム」の名で出展していた。 ライトステージとは、南カリフォルニア大学(USC)のポール・デベベック助教授が開発した撮影装置で、光源の強度、方向を完璧に調整するための機構である。 この装置を使うと、画像の合成時にライティングを一致させることが可能となる。 装置の原理、機能はよく知られていたが、大掛かりになるため簡単に導入することができなかった。 今回、同社がUSCのライセンスを受けて市販を開始したことで、ライトステージの利用が拡大すると期待されている。

●日本のCG紹介
 SIGGRAPHでは世界各地の協賛団体がブースを構えるインターナショナル・センターがあるが、ここで「エンタテインメントを越えて:日本のCG技術応用」と題したセッションが7日に行なわれた。
 (財)デジタルコンテンツ協会(DCAj)が主催したこのセッションでは、(独)理化学研究所、(独)国立天文台、そして大日本印刷からビジュアライゼーションや美術館へのCG応用について紹介があった。 ビジュアライゼーションは、計算流体力学で「ジャイロボールの秘密」を探った結果を可視化したものと、銀河の形成をシミュレーションした結果を可視化したもので、科学的な研究に基づいている。 国立天文台の可視化作品は、今年のエレクトロニック・シアターにも採択されており、非常に多くの天体(200万個)の動きを可視化したことに高い評価が与えられている。 ジャイロボールの秘密でも、ボールの落下が大きい理由や更に効果的な「魔球」の投げ方が紹介されスポーツの背後に科学が控えている様子を印象づけていた。
 大日本印刷は同社が仏ルーブル美術館と共同で行っている展示活動でのCG応用を示した。 発掘品を裏返して、細かな彫り込みを観察する等、通常の展示では知ることの出来なかった事柄にCGによって触れることができる様子が示されていた。
 CGというとエンタテインメントの印象が強いが、科学技術系、美術系での応用が日本で行なわれていることを発信するセッションとなった。

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