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アドビから3つの論文が採択
2007.08.06

 SIGGRAPHで発表された論文には、これまで、CG技術の歴史に残る理論が数多く発表されてきた。その論文に、このところ企業からのものが増えており、今や主流になってきているともいえる。CGにおいて、企業の研究が新しい道を開き始めている傾向を示すものと見られる。こういった企業による論文は、企業で行う研究だけに、目的が明確であるのが特徴である。今回紹介されている論文も、いずれもすぐに製品に使いたいものに見える。しかし、ほとんどの企業研究がこのように商品開発につながることを狙って行うが、数々の失敗で撤退しているというのも現状だ。
 そうした論文を発表する企業の代表でもあり、このところ目覚しい活躍を見せてきたのが、マイクロソフトやMERLなどの企業の研究部門だった。MERLもマイクロソフトも製品を睨んだ研究であり、論文から、その技術を用いて出てくるソフトや、その機能が予測できる。
 このMERLやマイクロソフトと同じく、SIGGRAPHの論文発表に毎年のように成果を寄稿しているのがアドビシステムズだ。
 マイクロソフトやMERLも今年、数多くの論文を発表しているが、アドビシステムズからも3つの論文が採択されている。そしてこれらは、これまで比較的2次元(2D)の技術に研究開発の資源を注いできた同社が、3Dなど、視点をより広げたアプローチを見せてきている点で興味深い。

●3Dモデリングの新たな手法
 一つ目は、「Illustration&Sculpture」というセッションで発表される論文「Dynamic Planar Map Illustration」。このセッションには、アーティストが2Dのイラストレーションをする感覚で、3Dモデリングをおこなう手法が集められている。アドビの論文も、planar mapを用いた2・5次元のモデリングに近いものと予測される。

●高解像度の画像の操作性を改善
 二つ目は、「Big Images」というセッションで発表される「Efficient Gradient?Domain Compositing Using Quadtrees」という論文だ。このセッションには、非常に高解像度の画像の操作性をよくするための手法が集められている。上記の論文も、階層構造を用いて、高解像度の画像の合成を効率的におこなえるように工夫したものとなっている。PHOTOSHOPの機能にも導入されるのだそうだ。ちなみに、同じセッションでは、マイクロソフトが共著で発表した論文も2つ発表される。

●ビデオ映像に「水」の物理的特性を付与
三つ目は、「Video Processing」というセッションで発表される、「Video Watercolorization using Bidirectional Texture Advection」という論文。この論文の手法では、実写やイラストなどのビデオ映像を、水彩画のようなビデオ映像に自動的に変換する。水彩画のような画像を自動生成する手法は、これまでのSIGGRAPHでも数多く発表されてきた。だが、今回の手法は、テクスチャー・ベースでありながらも、「水」がもつ物理的な特性をかなり正確に再現していること、そしてなにより動画対応になっている点が大きな特徴といえる(「動画」であるゆえに、水の「流れ」を物理的にも正確に再現することが大きな意味を持ってくるのだ)。

●アドビが2・5Dの研究体制
 上記の3つの論文はいずれも、アドビがこれまでに行ってきたことを、少し視点を変え視野を広げて、拡張したものともいえる。毎年のように論文を出しているとはいえ、一つの研究機関から3つのSIGGRAPH論文を同時に通すということは、決して容易なことではない。実際のところ、これらの論文の執筆は、マイクロソフトやMERLで経験を積んできた研究者を中心に行われている。また、この春には、MERLの代表的な若手研究者の一人がアドビに移っている。このような現象は、アドビがこれまで得意としてきた印刷関係の論文に加えて、2・5Dの研究開発にも力を入れ始めたことが今年の傾向から見られる。
 マイクロソフトのEXPRESSIONの発表などもあり、アドビの動静が注目される中で、今回の論文から、それに先んじて研究体制が固まり、本格的に成果を出し始めつつあるという見方もある。今回はブースを出さないというアドビだが、意外にも今回のSIGGRAPHは、アドビの新しい方向性の幕開けを示唆するものとなるのかもしれない。(倉地紀子)

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