CG-ARTS NEWS


【ニューテックデモ】
従来の「Eテック」は、世界中から集まった大学や研究機関が研究開発途中の最先端技術の展示を行なっていました。
今年からはじまった「ニューテックデモ」では、従来の技術展示に加えて、デモンストレーション可能なメディアアート作品やインタラクティブ作品も、合わせて展示されました。180以上の応募のなかから、7つの招待作品を含む、全42作品が展示されましたが、その内19作品が日本からの応募でした。日本からの作品は全て入選作品でした。

 

 

 

 

 

Ants in the Pants
電気通信大学
マトリックスモーターが入った手袋を装着し、ディスプレイに映し出された昆虫(アリ・ゴキブリ)が手の上を這う感覚を疑似体験できる作品です。作品を体験する大柄の男性が昆虫に触れた瞬間に、ぞっとした表情を浮かばせ、手をバタつかせている様子が来場者の注目を集めていました。

 

Programming Robots by Haptic Means
シンガポール大学/NEC
子供でもプログラミングできることを目指している知的ロボットです。インタラクティブ性があり、音や動作に反応しかわいらしい動きをするロボットに、訪れた来場客の誰もが笑顔になっていました。

 
 

【フィーチャースピーカー】
今年のフィーチャースピーカーでは、ピクサーアニメーションスタジオ社の社長であるエド・カットムル氏、『U23D』の映像監督キャサリン・オーエンズ氏、カーネギーメロン大学教授の金出武雄氏による基調講演が行われました。彼らはソフト開発者、映像クリエーター、ロボット工学博士といった、それぞれ異る分野のエキスパートです。
 
特に、初めてSIGGRAPHに参加したというアイルランド出身のキャサリン・オーエンズ氏の講演には多くの来場者が熱心に耳を傾けていました。講演に先駆け、前日の8月11日にはオーエンズ氏が手がけたU2のライブドキュメンタリー作品『U23D』のフル上映も行われ、熱気冷め止まぬ会場での講演となりました。
オーエンズ氏はU2と同じアイルランド出身で、映像クリエーター以前にアーティストとして活動しています。講演では自身が強く影響を受けた画家や写真家、彫刻家など、さまざまなアーティストの作品を紹介し、作品の持つ表現力、表現するための技術や道具のあり方についてスピーチしました。
『U23D』はU2のライブステージビデオで、ブラジルやアルゼンチンなど、南米4都市で行われたライブステージの全編を9台のカメラを使って3D撮影しています。オーエンズ氏はこの作品を、3Dやビジュアルエフェクトを強調するだけの映像作品ではなく、U2の音楽やメッセージが観る者の心に響く作品に仕上げるため、U2のメンバーからの意見も積極的に作品に取り入れたそうです。最新の技術とアーティストとしての作品への愛情、そして同じバックグラウンドを持つU2の活動に対する賛同の気持ちがあったからこそ、『U23D』 はライブステージビデオの枠には収まりきらない、アート作品になりえたのだと、その制作秘話を披露しました。
映像世界の第一線で活躍するオーエンズ氏の、技術だけに頼ることなく、作品作りへの熱い気持ちを大切にする姿勢は、最新のCG技術が披露されるSIGGRAPHにおいて、映像制作の原点を改めて示す講演となりました。
 

 

【論文、クラス、ポスターなど】
今年は512の論文が提出され、Technical Papers Committeeによって、90の論文が選定されました。各論文は、5人の専門家によって審査され、ACM Transaction on Graphicsで採択された24の招待論文と合わせて、合計114の論文が、28のセッションに分かれて発表されました。
論文の多くは、例年、大学やソフトウェアメーカーなどの企業から出されていますが、今年はゲーム会社(Electronic Arts)が関わっている論文も1本出されていました。これまでにはなかった傾向ということもあり、参加者の注目を集めていました。
東京大学や北海道大学など、日本の大学関係者が関わっている論文は3つ発表されました。

 

他にも、クラスやトーク、ポスターなど、数多くのコンファレンスが連日開催されました。その内の一つである「Birds of a Feather」では、「Women in Animation:アニメーション業界で働く女性たち」という、ディスカッションを中心とした集まりが開催されていました。アニメーション業界の様々な分野で働く女性たちがSIGGRAPHの場で集い、情報交換を行うのが目的でした。
女性の社会的地位の高いアメリカであっても、CGやアニメーション業界で働く女性は少数派です。同じ立場で問題を共有し、今後のネットワークを築いていくための、新しい試みに挑戦する活気が会場に溢れており、多くの女性が参加していました。

 

 

【FJORG!】
32時間鉄人アニメーターコンテスト「FJORG!:フォージ!」は、32時間の間に15秒のアニメーションを制作し、その出来栄えを競うコンテストです。今年は予めメインキャラクターとボイスオーバーを1回使用することは知らされていましたが、作品のテーマ「今までで一番悲しかった事」はスタート時に発表されました。

各チームは発表されたテーマに沿ってそれぞれのストーリーを協議し、アニメーションの制作に取り掛かりました。制作途中では、プロの脚本家やアニメーションプロデューサーなどから作品へのアドバイスを受けることも出来ました。

 
今年で2回目を迎える「FJORG!:フォージ!」にはヨーロッパ、南米からの出場チームを含む、16チームが参加しました。不眠不休でのアニメーション制作の模様は、FJORG!会場の見学デッキやモニターで随時見ることが出来ました。また、中国武道のステージやサンバダンサーの応援など、眠気を吹き飛ばす様々なアトラクションも用意されていました。

 
今年の最優秀作品は地元ロサンゼルス出身のチーム「Grojf」の『The Red Truck』が獲得しました。多くのチームが今回の「悲しい出来事」というテーマをコミカルに表現していましたが、『The Red Truck』はテーマに真正面に取り組み、15秒のアニメーションというスタイルでありながら、観る者の心を動かす作品に仕上がっていました。
同一2位となったのは「The Mexicutioners」と「The Fjantastic Fjorgers」の『The Saddest Story I have ever told』でした。特にテキサス出身の「The Mexicutioners」の作品は独特の世界観を作り上げていました。また、「Honorable Mentions:奨励賞」には「Mouthful of Cookies」と「Trikings」が選ばれました。

 

 

 

【エキシビション】
SIGGRAPHのもう一つの顔でもあるPCメーカーや周辺機器メーカー、ソフトウェアベンダー、制作プロダクション、学校などが最新の器機やプログラムを発表する「機器展示会(エキシビション)」にも、SIGGRAPHの“EVOLVE”が見られました。

今まではコンファレンス会場とエキシビション会場は別れて配置されていましたが、今回は大きな会場の中央にアート&デザインギャラリーやニューテックデモ、CG-ARTSブースを含めたSIGGRAPHインターナショナルリソーシーズが置かれ、それらを囲むように230社以上に及ぶ機器展示ブースが並びました。

 

会場では最新のモーションキャプチャシステムの展示が目立っていました。organic motionではマーカを使用せず、周囲に設置したカメラのみでキャプチャするシステムを紹介していました。演技者が身体に何かを装着する必要がないため、演技者の衣装に制約がない点が魅力です。

また、movenでは、カメラもマーカも使用せず、演技者が着用する専用スーツのみでキャプチャするシステムを紹介していました。データをワイヤレスでPCに転送できるため、屋外での使用も可能で、非常に自由度の高いシステムとして注目を浴びていました。

 

展示会場で多くのソフトウェア会社が自社ソフトの紹介をしているなかで、ひときわ賑わっていたのがオートデスクの新製品発表
によるデモンストレーションでした。
「Autodesk Maya 2009」と「Autodesk Motion Builder 2009」を発表し、ブースでは日本語によるデモンストレーションも1時間にわたって行なわれました。また、オートデスクユーザー向けに開かれたレセプションではMaya 誕生10周年を記念したイベントやクリエーターからのプレゼンテーションが行われました。

 

エキジビション最終日には、アート&デザインギャラリーやニューテックデモを訪れる多くの企業出展者の姿がありました。会場の垣根をなくすことで、企業と制作者や研究者の繋がりが今後さらに育まれるかもしれません。

 

 

【CG-ARTSブース】
CG-ARTSはACM SIGGRAPHと相互協力の協定
“Cooperative Agreement”を結んでいます。この協定を結んでいる団体は「SHIGGRAPH MEMBER」として会場中央のインターナショナルビレッジ内にブースを出展しています。
CG-ARTSのブースでは主に、文化庁メディア芸術祭のプロモーションを行いました。昨年のSIGGRAPHアニメーションフェスティバル チェアのポール・デベヴェック氏をはじめ、SIGGRAPH2008の関係者や会場にきていた多くのクリエーター、マスコミ関係の方達がブースに訪れて下さいました。

 
他にも今年はノキアシアターでの上映やアート&デザインギャラリーでのモニター展示を観られた方々も多く足を運んでくださいました。ノキアシアターの上映を観られた多くの方々からは『琉球ディスコ / ナイスデイ フィーチャリング ビート・クルセイダース』、アート&デザインギャラリーの作品を観られた方々からは『20010218-20060218』についての、賞賛のご意見や質問を多く受けました。
また、ブース前では50インチのモニターで常時、昨年度のメディア芸術祭優秀映像作品を上映しました。インターナショナルビレッジで休憩する来場者の方々からご講評を得ることができました。

 

 

【SIGGRAPH ASIA】
今年の12月にSIGGRAPH ASIAがシンガポールで初めて開催されます。開催まで4ヶ月を切り、コンファレンス全体でSIGGRAPH ASIAを盛り上げていました。
ACM SIGGRAPH会長のスコット・オーエン氏は日本人向けに開催される「オーバービューセッション」をはじめ、各基調講演の冒頭やレセプションなどでSIGGRAPH ASIAを繰り返しプレゼンしていました。

 
第1回のSIGGRAPH ASIA2008は12月10日よりシンガポールで開催されます。
また、第2回は2009年に横浜で、第3回は2010年、ソウルでの開催が決定しています。

 

 

CG-ARTSでは映像新聞社と協力し、学術研究・教育・制作現場に役立てていただくことを目的とし、SIGGRAPH会期中の取材記事など紹介するサイトを公開しています。SIGGRAPH2008ニュースサイトはこちら

 

 

レポート・写真
細川麻沙美、千葉惠子