オオカミのゆりかご

2枚の壁に投影された巨大な狼。寝息をたてている狼に近づくとパッと目を見開く。それに驚き遠ざかろうとすると狼の目線が自分を追ってきていることに気づく。そして巣を後にすると、また狼は静かに眠りにつく。狼の目に捕捉されている緊張と丸まった柔らかな狼に包まれる安堵が交錯する空間。シンプルなプロジェクションマッピングとキネクトを用いたインタラクティブ技術で組み上げ、みるものを狼の巣に迷い込んだ錯覚に誘う。本作は要素技術の組合せにより生命を与えられた狼を手描きアニメーションで表現したことにより、今までにない形で昇華させた。ありそうでなかった組合せを高い完成度で作品にした力量に将来が期待できる。
(豊嶋勇作)

老若男女問わず、人の気持ちを揺さぶる作品だと思います。遠くから見つめると手描きのオオカミの暖かさを感じ近づいた際の瞳は大きな不安をもたらす。手描きでありながら厳しい自然のリアルを感じられる作品だと思います。仕組みやアイディアはシンプルではあるが、シンプルであるからこそ一つ一つの要素が繊細でクオリティの高い物に昇華した作品だと思います。是非大きい会場で自分も体験してみたいです。
(小村一生)

子供の頃から狼が好きだそうだ。恐れと憧憬と好奇心の混ざり合った、「好き」というどうしようもない理由が先にある。この形でないと表現できない狼の存在感と人間との距離感がここにある。この空間を「Kinectセンサーを用いたインタラクティブ作品」という説明に還元することはできない理由はここにある。当時新しかったテクノロジーがたまたまそこにあったから何かを表現するのではなく、何かを表現したい欲望が先にあって、いま、このテクノロジーではないとできない表現に仕上げたときに限って、作品は古びない。かつて「メディアアート」と呼ばれていた表現の系譜を研究しているものにとって、このような今日の作品との出会いは、ある意味、希望ともいえる。
(馬定延)

上平 晃代(作者/代表者)、赤川 智洋、藤田 至一(共同制作者)
東京藝術大学大学院
インタラクティブアート