夜ごはんの時刻

誰もが子供の頃に経験したことのあるような、静かで、気だるく、物悲しいような夕方の時間。それは、楽しかったひとときが終わり、夕ご飯が待つ家へと戻るまでの「あいだ」の時間でもある。この作品ではそんな「あいだ」の、些細で、何も出来事が無いような、けれど一日の充実感だけが充満しているような時間を、ゆっくりと丁寧に描いている。1つの1つのシーンが比較的長いことや、それぞれのキャラクターの微かな物語がパラレルに進行していくさまは、彼らが本当にこの世界に生きていて、そしてその時間はこの作品を見終えた後もずっと持続していくんだという事を確かなものとして伝えてくる。
(谷口暁彦)

道路の縁石をバランスをとりながら渡ったり、車の影を飛び越える。そんな誰しもが幼少期にやったであろう、独自のルールをもった遊びや、日々の暮らしの中で見落としがちなささいなできごと。それらの持つおかしみや、繰り返されるようでその実もう2度と戻らない日常へのいとおしさが丹念に描かれていると感じました。派手な作品ではないからこそ細部のクオリティが重要になってくるものですが、劇伴やSEの使いかたなど、世界観を活かすために丁寧につくられています。人間でないキャラクターを扱い日常を描くことが、ぼくたちの暮らしの中の豊かさを感じさせてくれ、その結果生きとし生けるものへの讃歌だと捉えられるように思えた素敵な作品です。
(武田俊)

村本 咲
東京藝術大学大学院
アニメーション