14回学生CGコンテストレポートフェスティバルレポート表彰式受賞記念パーティー受賞作品展
14回学生CGコンテストレポート
第14回学生CGコンテスト受賞作品展は、文化庁メディア芸術祭と並んで2月4日より2月15日まで国立新美術館で行われました。
『学生CGコンテスト』は次世代を担う若い才能の発掘と作品発表の場を提供することを目的として、1995年からスタートしました。受賞作品展では受賞した28作品に、最終審査にノミネートされた作品を併せた57作品を紹介しました。会場には5万5千人を超える方に来場していただき大盛況のうちに終了いたしました。

また、2月10日には国立新美術館の3F講堂で表彰式が行われました。審査委員の先生方や受賞者のご家族、ご友人、ご協力いただきました企業の方などの関係者が集まり、受賞者の方々を讃えました。
ご来場いただいた方々、応援して下さいました方々、どうもありがとうございました。

特徴的な作品と展示風景を交えながら、部門ごとに今年度のフェスティバルレポートをご紹介していきます。
静止画部門
静止画部門は今年度から、CGを主体とした作品だけでなく、実写を主体としたデジタルフォトを受け入れたことで、大きな転換期となりました。受賞作品展としては、谷川瑛一さんの『ship』が大判プリントされ15枚並ぶなど、迫力ある展示となりました。また、ミニチュアのような住宅の写真を7×7のグリッド状に並べて展示した優秀賞の『Real Estate-Houses for the Beautiful Landscape』、あぶり焼という実験的手法の大石晃裕さんの『SIENCE』や東京の女性へのアイロニーをCGで表現した『tokyo lady』など3DCGとデジタルフォト、実験的なグラフィック作品が並んだ、多種多様な展示となりました。

静止画部門の最優秀賞に輝いた、谷川瑛一さんの『ship』は、工場やマンションなどの人工的な風景の写真を、上下対称に加工することで水面に映った景色の様なイメージを作り出し、見事なファンタジーを生み出した作品です。アイデアはシンプルですが、そのアイデアを実現させるためにロケーションハンティングに多くの時間を割き、現実にあるものを写し取る写真というメディアの制約と根気よく向き合って制作されています。
一方、優秀賞を受賞した津島岳央さんの 『Defragment of Field -視界のデフラグ-』は、フェルメールの絵画空間を3DCGで再現し、描かれた位置とは異なった視点からの情景や、絵画には表れていない瞬間を描いています。そうすることで、フェルメール絵画に対する新しい解釈を生み出そうと試みた作品です。元となった絵画を緻密に調査・研究したことで描かれたこの作品は、絵画空間を見事にシュミュレーションし、人間の目では見ること出来ない情景を描いています。“現実世界を写し取る”ことから出発する写真表現と“仮想世界を描き出す”ことから出発するCG表現が共存した今回の展示は、これからの平面作品の可能性を期待させる展示となりました。

動画部門
受賞9作品と特別賞1作品、最終審査に残った9作品の19作品を国立新美術館の講堂と展示会場内ミニシアターで上映展示されました。今年度の受賞作品は、最優秀賞 横田将士さんの『記憶全景』、優秀賞 岡本憲昭さんの『ALGOL』、同じく優秀賞 一瀬晧コさんの『ハピー』、加えて、特別賞 烏田晴奈さんの『ケータイ狂想曲』と非常に個性的な作品が集まりました。それぞれの作品は、コンピュータを駆使した最新の技術ではなく、それぞれの表現スタイルを磨きあげて作り上げられたオリジナリティ溢れるものでした。
それは、目新しい技術を使う事よりも、独自の切り口で見つけた表現手法を磨く事によって、見る人の心に強く残る作品を作るのだ、ということを示しています。中でも『記憶全景』と『ケータイ狂想曲』は、そうした状況を顕著に示しています。『記憶全景』は、ビデオカメラで撮影した風景の映像を、一コマずつプリントアウトし、切り抜き重ねていきます。一枚重ねるごとに撮影していくと、コマ撮りアニメーションのように風景やその中に映っている人物が動き出します。
時間という無形の存在が、形を持って立ち現れていく様は、見る人に新鮮な驚きを与えます。制作者の横田さんは以前にも同様の手法で『いくえみの残像』という作品を制作しています。こちらの作品も多くの賞を受賞していますが、さらに磨きがかかった今作は、横田さんの切り口をより明解に伝える作品となり、多くの人の支持を得ました。
また、『ケータイ狂想曲』も多くの人にインパクトを与えた作品です。作者の烏田晴奈さんは音大で作曲を勉強されていたという事もあり、類稀な音楽センスを持っており、映像と音楽の両方を自分で制作しています。 緻密に作り上げられた音楽と、独特のキャラクター達が織りなす映像は、烏田ワールドともいうべき世界を作り上げます。烏田さんは、前回の学生CGコンテストにおいても音楽と映像が見事にシンクロした『Stomachache Bee』という作品で佳作を受賞しました。ケータイをテーマに作曲された軽快な音楽と、ケータイを取り巻く人間模様をアイロニカルに表現したアニメーションが、見る人の心をつかみました。 この二つの作品のみならず、今回受賞された一瀬晧コさんも昨年に引き続いての受賞ですし、岡本憲昭さんも学生の間に2~30のアニメーション作品を制作されたそうです。こうした状況は、技術の新旧にとらわれず、独自の切り口を見つけ、研鑽していくことがより印象深い作品につながるということを示しています。
インタラクティブ部門
インタラクティブ部門は、受賞した9作品のうち6作品が展示されましたが、それら全てが視覚と聴覚の両方に訴えかける作品だったのは特徴的です。シャボン玉が音楽を奏でる鈴木莉紗さんの『風の音楽 ephemeral melody』、音がつまったボールで遊ぶ見崎央佳さんの『otodama』、赤ちゃんが表情を変えながら汗をかく國村大喜さんの『YOTARO』など実際に触れて楽しむことの出来る作品は体験者があとを絶ちませんでした。また、今回展示することができなかった作品と最終審査に残った作品については映像で紹介しました。

中でも、優秀賞 和田永さん他の『Open Reel Ensemble』は展示会場にてミニライブを行い、来場者を楽しませていました。
『Open Reel Ensemble』は、6mmの磁気テープを録音、再生するオープンリールデッキをコンピュータで制御できる様に改造し、新しい楽器へと変貌させた作品です。オープンリールという過去のメディアを、現在のテクノロジーを使って、メディアの進化の“ifの世界”を想像させる装置として蘇らせています。テンキーやiPhoneなどのコントローラーでオープンリールをコントロールしながら行われる演奏は、見ることと聞くことの両方に驚きを与える作品です。今後の彼らの活躍を期待させるパフォーマンスでした。 同じく優秀賞 鈴木莉紗さんの『風の音楽』は、手回しオルゴールのような装置から発射されるシャボン玉が、ハープの弦のように並んだ銅パイプに当たると音が鳴り、ランダムに音楽が生成されていく作品です。シャボン玉と音楽という組み合わせが、幻想的な状況を生み出し、子供から大人まで幅広い層の人を楽しませていました。 デジタルの作品でありながら、シャボン玉という制御できない要素を使うことで、現実世界の不確実な要素を見事に取り込み、即興的な音楽を生み出していました。


最優秀賞 多田ひと美さんの『全的に歪な行且 -第二犯-』は、インターネット上のニュースや画像などの情報が洪水となって溢れていく様を、空間上に表現した作品です。 この作品は、インターネット上からダウンロードした大量のニュースとイメージをランダムに組み合わせ、無意味な文脈を作りだします。その文章をコンピュータの合成音声が次々に読み上げると同時に、次々とイメージを表示していきます。次第に読み上げる速度と表示する速度が早くなり、鑑賞者は情報を追う事が出来なくなり、情報の渦に巻き込まれていくような錯覚を覚えます。 この作品には情報社会に対する作者のアイロニーが込められており、見る側に情報社会の問題を投げかけます。 今年度の大きな特徴としては、学生CGコンテストで初めて、インタラクティブ部門からU-18賞が出るというサプライズもあり、デジタルテクノロジーに囲まれて育ってきた世代は何を表現するのかという疑問が一つの議題となりました。
デジタルテクノロジーとアナログなツールや、シャボン玉という不規則性をもったマテリアル、日々更新されるニュースといった現実の物事を組み合わせたハイブリットな表現によって、デジタル世代のデジタルテクノロジーとの新たな共存関係が示されたように感じました。
動画部門
今年度の18歳以下を対象とした、U-18(アンダーエイティーン)賞は、学生CGコンテスト始まって以来初めて、インタラクティブ部門から受賞者が出るなど非常にレベルの高い作品が揃いました。受賞した三作品は他の受賞作品に全くひけをとらない優秀な作品でした。
静止画部門で受賞した、『花を抱く』はPhotoshopを使い、ひまわりやバラなど様々な花の写真を組み合わせ、コントラストやカラーバランスを巧みにコントロールし、スタイリッシュなイメージを作り出しています。
また、動画部門の『GO IN SEARCH A SUNFLOWER SEED』という作品は、主人公のハムスターがHAMSTERとhamsterという文字の組み合わせで出来ています。その主人公が文字で出来た世界を探検するという物語です。文字で出来た主人公は驚くほどかわいらしいアニメーションで動き、文字で出来ていることを忘れさせてしまいます。
インタラクティブ部門の『matreshka×world』は、その名の通りマトリョーシカの中にたくさんの世界が詰まっているというお話です。画面に登場するマトリョーシカをクリックすると、その中から別のマトリョーシカが登場したり、マトリョーシカに描かれたイラストの世界に入っていくという作品です。キャラクターが可愛らしく、また、途中で物語が分岐していったりと、デザイン的にも構造的にもしっかりとした作品です。
三人ともまだ高校生ですが、それぞれ自分の作品にとって必要な機能をしっかりと把握し、使いこなしています。三人の作品は、いずれも、シンプルな作品ですが、その分ストレートに伝わる強さを持っています。それは、沢山の技術を身につけること以上に、自分の持っている限られた技術の可能性を良く観察し、アイデアを練って作ることでこうした素晴らしい作品が生まれるように思えます。
動画部門
今回の受賞作品展を通して、受賞者は審査委員や他の受賞者、また来場者の皆様から多くの意見をもらっていました。そこでは賞賛や批評、あるいは他の受賞者の作品に対する意見など様々なものを受け取ります。また、展示され、他の作品と並ぶことで自身の作品の問題点に気づくということもあったかと思います。
そうした刺激がモチベーションとなり、次の作品につながっていくのでしょう。
また、今回の作品展を訪れた学生の方々が刺激を受けて多くの作品が生まれていくのだと思います。今回の受賞者の方からも、過去の学生CGコンテストの受賞作品から刺激を受けて応募したという声が多くありました。そうした連鎖を生み出す作品展を今後も続けていくことが、学生CGコンテストの課題であり、また大きな成果だと感じています。

受賞者、ご来場者、審査委員の先生方をはじめ、ご協力して下さった皆様に心より御礼申し上げます。ご協力ありがとうございました。
動画部門
2月7日土曜日に国立新美術館の講堂で表彰式と受賞記念パーティーが行われ、学生CGコンテストの受賞者が一同に会しました。来場者には、審査委員の先生方、受賞者のご家族、友人、また、協力いただきましたキャノンマーケティングジャパン株式会社様、日本AMD株式会社、日本シーゲイト株式会社様など多くの方々が受賞された皆様を祝福しました。

受賞者はそれぞれの作品の紹介映像とともに名前を読みあげられ、壇上に上がり、CG-ARTS 理事長の永田圭司と各部門の審査委員の先生方より、表彰状と賞品目録を受け取りました。また、それぞれの部門ごとに審査委員の方から講評と受賞者の方々へのメッセージが送られました。

審査委員長の原田大三郎委員はコメントの中で、「これから将来のある皆が、なぜこういうものを作ったのか、ぜひ一人一人と話したい。」と述べました。
そして、会場をはーといん乃木坂に移し、受賞記念パーティーを行いました。こちらでは表彰式の厳かなムードからは一転し、和やかなムードの中、サンドイッチや一口ケーキなどが振る舞われ、受賞者の方々と審査委員の方々が交流を深めていました。はじめは中々切り出しづらい雰囲気もありましたが、中谷日出委員がU-18賞をとった高校生の三人や、受賞者の皆様にインタビューを行い、それぞれ受賞の感想や今後の活動への意気込みを話しました。
普段、全く違う環境の中で制作されている方々がそれぞれの環境について話し、それまで知らなかった他の大学についてなど、新しい状況について話していました。また、それぞれが作品を作っていく、発表していく中での悩みや展望を、この世界の先輩である審査委員の先生方と話す、良い機会になりました。中には、他のコンテスト等でお互いの名前は知っているけれど、この機会に初めて会って話すことが出来ました。という方々もいました。今後、この出会いを糧に次の作品へのきっかけや、今後のより大きな活動に向けたきっかけとなることを願っております。