2010/10/20更新

本連載ではゲーム業界の人材教育・キャリアパスについて、第一線で活躍されている方々へのインタビューを通して、さまざまな角度から紹介していきます。第2回目ではフロム・ソフトウェアのCGデザイナー、山岸孝明さんにスポットを当てました。入社5年目ながらチームを統括し、モーションデザイナー(※)としても活躍中の山岸さんに、その醍醐味について語っていただきました。

※モーションデザイナー:おもにキャラクタの動きを設定する仕事。会社によって、アニメータとよばれることもあります。

入社5年目でモーションデザインを軸に、グラフィックスのメインを担当しています

東京工芸大学のデザイン科出身で、新卒で弊社に入って5年目です。「【eM】-eNCHANT arM-」でCGモデリングなどを行い、2作目に携わった「NINJA BLADE」でメインデザイナーとしてチームを統括しながら、モーションデザインも担当しました。

開発中の最新作でも同じです。プロジェクトのチーム内で、作業の割り振りとスケジュールの管理を行いながら、合間に自分の作業を進めていくというスタイルですね。モーションデザインを軸に据えつつ、モデリングなども担当しています。

ゲーム中のモーションは4割モーションキャプチャ、6割手付けをベースとしています。カットシーン(ゲーム中のリアルタイムムービー)での人の演技は、9割をモーションキャプチャ、つなぎの1割を手付けしています。ただし、モーションキャプチャのデータをそのまま利用できる部分はほぼないので、最終的には手で調整を入れます。また、後で説明しますが、単純にキャラクタの動きのデータだけを作っているわけではありません。

大学では広告デザインを専攻しながら、独学でCGを勉強しました

もともと機械いじりやモノ作りが好きで、クリエイターとよばれる仕事をしたいと思っていたので、好きな道を信じて美術系大学に進学を決めました。進路を決めたのが遅かったこともあり、実技以外に学科も重視してくれる東京工芸大学に進学したんです。

研究室では広告を専門に学びましたが、モノを宣伝するのではなく、直接モノを作ってお客さんに届ける仕事に興味が傾いていきました。同時に表現手段の1つとしてテレビゲームに可能性を感じ始めて、CGを独学で学びました。LightWaveでコツコツと作品を作っていったんです。まわりにそうした友人がおらず孤独でしたが、作品作りは楽しかったですね。

そんな頃、大学で会社説明会があり、それがきっかけで入社しました。ポートフォリオにはCG以外に、デッサンや学校の課題なども詰め込んで。CGのレベルは決して高くなかったので、可能性を買っていただいたんだと思います。デッサンを見れば「モノを見る目」や「質感を見る目」の有無がわかります。入社してすぐにモデリングの仕事についたことからも、そうした点が評価されたのかなと思います。

いきなり修羅場に突入し、ラスボスのモデリングを担当したんです

素人に毛が生えたようなものでしたから、最初は大変でしたね。3ヶ月あった研修期間も実践的で、4日目からは開発中の生データを触っていました。でも新しい玩具を与えられたみたいで、ツールを触るのが、とにかく楽しかったんですよ。

研修が終わると、「【eM】-eNCHANT arM-」チームに配属されました。開発終盤で入ったためか、すぐにラスボスのモデリングを任されました。新人にいきなり任せるなんて、すごいですよね。

ただ、だんだんモデリングだけでは物足りなくなって、モーションデータも手がけるようになったんです。それが一段落すると、今度はカットシーンも作っていました。メインのプログラマさんが説明したり、教えたりすることを面倒がらない人で、とても助けられました。

ニンジャブレイドでモーションデザイナーの醍醐味に目覚めました

「NINJA BLADE」のイベントシーン作成時の画面

「NINJA BLADE」のアニメーション作成時の画面

次の「NINJA BLADE」では、本格的にモーションデザインのおもしろさに目覚めていきました。

昨今ではグラフィックスがリアルになり、表現の幅が増えたために、コンセプトアートだけでは魅力を表現しきれない部分が多くなっています。実際に動かすことで、魅力が的確に伝えられるんです。

さらに本作では、イベントシーンでコマンドを入力して敵を倒す「TODOME(とどめ)」という遊びがありました。最大の見せ場で、おもしろさのキモの部分にあたります。これをカットシーンで作成する上で、企画とプログラマとデザイナーが知恵を出し合いながら、練り上げていったんです。

企画・グラフィックス・プログラムのみんなで作った「とどめアクション」

たとえば企画から「主人公が都庁の屋上で巨大な蜘蛛と戦って倒す」というアイディアが出されたとします。それをどうやって派手に、説得力あるイベントシーンにできるか。そこで刀をバットに見立てて、ビルを壊す鉄球を打ってぶつける、というアクションを考えたんです。そうしたら、その動きを実際に画面上で作ってみます。動きができたらプログラマに見てもらい、実装してもらいます。

「おもしろいけど、これじゃ実機で動かない」「それなら、こんな風にしたら?」なんて、みんなで議論することも、しょっちゅうでした。アイディアを出すのが好きなので、楽しかったですね。

言われた動きを作るだけが、モーションデザイナーではありません

こんなふうに多くの仕事は、企画とプログラマとの共同作業で進んでいきます。

たとえば企画が「ミネラルウォーターのペットボトルから水柱が吹き出し、凝結して氷刀になる」というアイディアを出してきたとします。でも文字だけで説明されても、本当におもしろいのか、わかりませんよね。そこでモーションデザイナーを中心に、デザイナーがイメージをふくらませて、実際に画面上で動くモノを作ってみるんです。

それができたら、プログラマにゲーム機で実現可能か確認してもらう。企画とプログラマと協同で、どうやったら実現できるかアイディアを出し合うことも、しょっちゅうです。単に言われたデータを作るのではなく、企画を“表現”するのが役割だと思っています。

学生時代に学んだ広告作りが、意外なところで役に立っています

思えば学生時代に学んだことが、すごく役に立っています。広告ではクライアントの依頼を元に、さまざまなアイディアを出すことが重要です。1つのテーマで600個くらいアイディアを出したこともあります。絞りきって、もう何も出ないと思った状態の後に出た、最後のアイディアが、光っていたりする。それって今の仕事によく似ています。

また広告では、お客様に押しつけがましさを感じさせてはいけません。ゲームでも同じで、画面を見て自然に操作したい、という気持ちになってもらう必要がある。同じように認知科学などの授業で学んだことも大変役に立っています。

モーションデザイナーの作業領域が増えれば、さらにゲームが面白くなる

ゲームは「画面を見て、操作して」の繰り返しです。しかも画面の反応って、キャラクタのアクションが大半です。それってモーションデザイナーの仕事ですよね。つまりモーションデザインはゲームのおもしろさの要素のうち、大きな割合を占めるんです。

今はまだ、プログラマの手にゆだねる部分が多いのが現状です。モーションデザイナーが、直接動きをいじれる幅がさらに広がれば、さらにゲームが面白くなると思います。社内ツールを進化させて、環境を整備していきたいですね。

「けいおん!!」など、シンプルな絵柄でも細やかな動きまで丁寧に描かれているアニメに人気が集まるのは、動きの面白さに視聴者も気づき始めているからかなと思うことがあります。

ポートフォリオのキャラクタでも、動きを意識しているものは見ただけでわかります

最近では作品選考や面接にも立ち会います。綺麗な静止画が作れることと、おもしろい動きが付けられることは、また別の能力です。たとえ静止画でも、最初からアニメーションを意識して作られたモデルは、見ただけでわかります。

ただ、応募作品を見ていると、学生がみんな似たような作品をポートフォリオに並べていることがあるんです。それってその人の考えが見えづらくて、困ります。明確な目的意識をもって付けられた動きには、魅力があります。たとえばキャラクタが歩くモーションを作る場合、漠然と動きを付けるのではなく、好きな音楽に合わせて歩かせてはどうでしょう。デフォルメしたキャラクタにコミカルな動きをさせたり、あえて意外性を狙ったり。コンセプトにあった作り方を意識することが重要だと思います。

一定の技術は前提として、考え方の部分まで踏み込んだ授業をして欲しい

ハードが変わり技術が進化するのにともない、グラフィックスの表現力も向上しています。前回同様の決まりきったモノをつくるのではなく、常に新しいモノを作れる柔軟性が求められています。だから一定の技術があることは前提として、その上で制作の目的や方法などを自分で考えて、新しい挑戦をする姿勢を身に付けられるような、踏み込んだ授業をして欲しいんです。

僕の学生時代、「作品で季節を表現する」という課題がありました。その時、大学近所の小学校の校長先生にお願いして、子どもたちと一緒に竹とんぼを作って、それを提出したんです。別に「自分で作ること」なんて制限はありませんでしたから。

自分でも型破りな方法だったと思いますが、そのことで発見したこともたくさんありました。たとえば今時の小学生はかなりクールだろうと思っていたのに、とても積極的に参加してくれました。ゲームのユーザには当然小学生も含まれますから、この時の経験は今の仕事に生かされています。

僕らもそうですが、固定概念に縛られない表現に挑戦して欲しいんです。そういう姿勢を身に付けた学生が伸びると思います。