2011/01/19更新

本連載ではゲーム業界の人材教育・キャリアパスについて、第一線で活躍されている方々へのインタビューを通して、さまざまな角度から紹介していきます。第5回目ではサイバーコネクトツーの渡辺雅央さんにスポットを当てました。現在はゼネラルマネージャーとして、幅広い業務を統括されている渡辺さんですが、もともとはプログラマ出身。ゲームプログラマという職種の特性と醍醐味に迫ります。

ゲームプログラマは誰かの想いを形にすることで、喜んでもらえる仕事です

ゲームプログラマって何か。うーん、改めて聞かれると難しいですね・・・。簡単にいえば、ゲームデザイナーが考えたルールや、アーティストが描いたグラフィックデータなどをプログラムにコーディング(※1)して、PCやゲーム機、ケータイなどで動作可能にする仕事のことです。そのためにはハードの特性とプログラミング言語を良く理解する必要がありますね。

※1 コーディング:プログラミング言語を用いて、プログラムのソースコードを記述すること。

もっとも、最近ではミドルウェア(※2)やツールの開発など、ゲーム制作に直接携わらないプログラマも増えてきました。とはいえ、誰かのために仕事をするのは同じです。その誰かがユーザだったり、社内のプログラマだったり、他の会社の人だったりと、担当する仕事の内容によって違ってくるんです。

※2 ミドルウェア:OS(オペレーティングシステム)と、アプリケーションソフトの間で機能するソフトウェアのこと。

ああ、そう考えると、ゲームプログラマは「誰かの想いを形にすることで、喜んでもらえる仕事」かもしれませんね。

臨機応変な対応が求められ、緊張感があります

他の業界では、プログラムの内容をまとめた、仕様書とよばれる書類に基づいてコーディングをするのが一般的です。けれどもゲームでは、実際に遊んでおもしろいか、同じ結果でも実行速度が速いか否かが最重要です。そのため、作りながら仕様書の内容を変更することが普通に起こります。不確実性が高くて、臨機応変に仕事を進めていく。この緊張感がゲームプログラマの醍醐味です。

弊社でも他の業界から移ってきたプログラマがいて、よく言われるんですよ。「ゲームプログラマは現場至上主義ですね」って。正しい方法論ではなく、答えを最優先にするのがゲームならではの特徴だと思います。

「無理です」と言うだけのプログラマとは、仕事がしづらいですね

最初に「誰かの想いを形にする仕事」と言いましたが、そうは言っても、いろいろな制約で実現できないこともあります。そのため、ゲームデザイナーやアーティストたちと職種の壁を越えて議論するのは日常茶飯事です。そのままでは実現不可能なアイディアを出された場合は、常に実現可能な方法を逆提案するよう心がけています。

たとえばゲームデザイナーから「プロペラを1秒間に数千回転させて欲しい」と言われたとします。でもゲーム機は画面を1秒間に60回しか描き換えられないので、物理的に無理なんですね。だったら、どうやってそう見せるか。そこは頭の使いどころです。

逆に「無理です」と言うだけのプログラマだと、そこで話が終わるので、一緒に仕事がしづらいんです。もっとも、常に逆提案を忘れないというのは、プログラマだけでなく、他の職種でも同じだと思います。

プログラムを巡る環境はますます二極化していきます

最近はゲーム機の進化と共に、プログラム環境の二極化が進んでいます。ゲームエンジン(※3)開発などで最先端の知識が求められる一方で、RPGのイベント管理などに使われる、スクリプトとよばれる簡易言語も普及してきました。プログラマではなく、ゲームデザイナーがスクリプトを組む会社も少なくありません。

※3 ゲームエンジン:ゲームの主要な処理を行うミドルウェアのこと。

そのため「ゲームエンジンを開発できるような敏腕プログラマ」「最先端の知識やスキルはないが、ゲームデザインの素養があり、スクリプトも担当するプログラマ」「スクリプトが組めるゲームデザイナー」「企画専門のゲームデザイナー」というように、プログラマとゲームデザイナーの間で階層化が進んでいます。

プログラマとアーティストの間で、テクニカルアーティストという職種が誕生したように、今後はプログラマとゲームデザイナーの間で、スクリプターなどの職種ができるかもしれませんね。

そのため、ゲームデザイナーやアーティストでも、プログラムの素養があれば、就職にたいへん有利です。ツクール系のゲーム(※4)の中には、スクリプトが組めるものもあるので、こうしたゲームで体験するのも、入門には良いですね。逆にプログラマには、ますます高度な知識が必要になると思います。

※4 ツクール系のゲーム:「作る」と「ツール」を組み合わせた造語。プログラミングの知識がなくても、オリジナルのゲームを制作できるツールのこと。代表的なものに、RPGツクールなどがある。

小学生の頃からゲームプログラムを組んでいました

小学生の頃からゲーム雑誌を片手に、パソコンでゲームプログラムを組んでいました。高校生になると、ゲーム好きな友達ができて、2人で自作のゲームを見せ合ったり、泊まりがけでプログラムを組んだりしましたよ。その友達も一緒にゲーム業界に就職して、今でもライバル関係が続いています。思えば、子どもの頃に大量のゲームプログラムを組めたことと、ゲーム業界を真剣にめざす友達に恵まれたことは、非常に幸運でした。

C++とベクトル・行列の知識は必須です

プログラマ志望の学生には、最低限プログラム言語のC++と行列・ベクトルの知識が求められます。C++の勉強には『C++の絵本』(翔泳社)と『Effective C++』(ピアソン)の2冊を勧めます。前者ではC++の最低限の知識、後者では大規模開発の作法が学べます。弊社のインターンシップでも、この2冊を勧めているんですよ。また、ベクトルや行列に関しては学校でのしっかりとした勉強はもちろんのこと、『コンピュータゲームの数学』(新紀元社)をお勧めしています。

面接では「丁寧さ」「わかりやすさ」「こだわり」を見ます

最近では人事も統括していて、新卒採用も重要な仕事になりました。学生の作品とソースコードを見れば、採用できるか否かが、たいていわかります。その後の面接で人柄を見て、最終確認をするという流れですね。

作品は細部まで手を抜かず、丁寧に作っているかをチェックします。同じ得点表示でも、パッと切り替わるか、アニメーションするかで、受ける印象が変わります。タイトル画面や、プレイヤーを自然に誘導する演出、操作性に対する気配りなども重要ですね。

ソースコードは全部目を通して、論理的に正しく、他の人が見てもわかりやすい内容になっているかをチェックします。言語仕様に関して理解不足な部分やクラス設計に関しておかしな部分があったとしても、基本的なことやプログラムの全体像が理解できていれば、大きな減点はしません。

面接では、その人の物事に対する興味の度合いを聞きます。同じ「釣りが趣味」でも本当に好きで、こだわっているなら、細部まで話せるはずです。たとえば、日曜日には早朝から釣り行きますとか、釣りの本をたくさん読みましたとか、ブログをやってます、といった感じです。そうした「こだわり」を、いくつかのジャンルで聞いてみます。経験則ですが、「こだわり」が多数ある人は、仕事でも力を発揮します。逆にすべての面で淡泊な人は、言われたことしかやらない傾向にあるような・・・。そうした人には、安心して仕事を任せられないんです。

小さなことからコツコツと、たくさん成功体験を積ませてください

プログラムは100%完璧でなければ正しく動作しないため、達成感が得られにくく、挫折しやすい分野です。先生方が学生に教える際には、いきなりプログラムの全体像を理解させようとするのではなく、小さなことからはじめさせて、数多くのステップを踏ませ、たくさん成功体験を積ませて欲しいですね。まず画面に文字を出して、次にテキストアドベンチャー(※5)を作って、文字を動かして・・・といった具合です。これは自分がインターンシップの学生と接するようになって、改めて思ったことです。

※5 テキストアドベンチャー:画像がなく、文字だけで進行するゲームのこと。

また同じ内容のアドバイスでも、先生から言われるのと、ゲーム開発者から言われるのとでは、学生にとって響きが違うものです。特別講師として講演していただくなど、ゲーム会社の人間をうまく活用して欲しいんです。弊社でできることなら、何でも協力しますよ。

隣の芝生が青く見えるのは、みんな同じですよ

弊社では新卒の応募に作品提出が義務づけられています。もし大学生以上で、研究が忙しくてゲームを作る暇がない場合は、インターンシップを活用するのも手です。弊社の本社がある福岡市では、行政が窓口になって、春休みと夏休みの時期に「FUKUOKAゲームインターンシップ」が実施されており、全国からインターンシップ生を募集しています。

インターンシップの内容は会社によって違いますが、弊社では学生たちが一緒になってゲーム作りをします。制作の途中段階から、弊社の開発者たちがプロの視点で評価します。学生たちは怒られっぱなしですよ。中にはインターンシップで作ったゲームを改良して、入社試験に応募してくる学生もいますよ。

インターンシップに参加したり、本採用される学生たちの学歴はバラバラです。おもしろいのは、専門学校生、大学生、大学院生が、みんな隣の芝生は青いと思っていることです。専門学校生は、ゲーム制作以外のことも幅広く学んでいる大学生が有利だと思っている。逆に大学生は、ゲーム制作に特化した勉強をしている専門学校生が有利だと思っている。大学院生は、若い学生の方が有利だと思っている。それぞれに長所・短所があるわけで、どれかが飛び抜けて有利、というものではないんです。今の場所でがんばれなければ、どこに行っても成功できません。夢に向かって、今の場所から、一歩ずつ努力してください。