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現場の第一線で活躍する制作会社の代表の皆さんに、実際にCG-ARTSの検定を受験いただいて、制作現場において検定の内容は役立つのか、検定の合格を目標に知識を学ぶことは意味があるのかなど、ご自身の体験を通して感じた率直な思いをインタビューしました。

今回ご協力いただいたのは、「世界に通用するフルCGアニメーションを制作する」という目標のもとに3DCG制作を手掛けている株式会社アニマの笹原社長。「世界を変えるコンテンツ制作」を目指し多様なジャンルに取り組んでいるCGプロダクションの株式会社テトラの谷口社長。「世界で一番面白いゲームをつくる」と、妥協しないモノづくりにこだわる、ゲーム開発を手掛けている株式会社モノビットの本城社長です。真剣勝負で挑んだ「検定社長対決」の結果はいかに!

今求められているのは基礎知識

ー この企画を受けてくださったときのお気持ちをお聞かせください。

谷口:

いよいよきたな、と(笑)。いま、現場でばりばりやっているので、実力を試してみたい、受けてみたい気持ちがありました。実は学生時代にCG検定の3級を取得しているのですが、当時とは確実に内容が変わっているのはわかっていたので、問題が時代に合わせてどれくらい変わったのか、楽しみにしていました。

株式会社テトラ 谷口社長

笹原:

現場を離れて13年ぐらい経つので、どれぐらいできるのか試してみたい、という好奇心が強かったですね。現場でない人が、挑戦みたいな感じ(笑)。

本城:

19歳のときにCG検定2級を取得していました。大学は工学部だったのであまりCGとは関係なかったのですが、雑誌の広告で検定のことを知って興味をもち、個人で受験しました。ですので、久々に受験することになり、とても楽しみでした。

ー 受験に向けての学習方法について教えてください。

谷口:

勉強らしい勉強は、一切しませんでした!

株式会社モノビット 本城社長

笹原:

同じく。

本城:

テキストを、さらっとみたぐらいですね。

谷口:

ただ、前日に過去問題を見てみて、鳥肌たちました!悪寒が走ったというか、きっとみんな受からないんじゃないかと、勝手に思ってしまいました。

笹原:

試験のために勉強して臨むのではなく、今の状況を確認したかったんです。

谷口:

実務でやっていることと、検定試験の内容がどれぐらい合致しているのか、予備知識なしに純粋な気持ちで受けてみたかったんです。

ー 受験をされた感想をお聞かせください。本城さんは、当日体調を崩されて会場での受験は断念されたのですが、皆さんと同様の環境で、後日模擬的に受験いただきました。つきましては正式な合否はお出しできないのですが、ここではほかのお二人と同様に合否ということでお話しさせていただきます。

本城:

当日は、風邪をひいてしまい、かなりの高熱が出て、これでは会場にお伺いしても他の受験者の方にご迷惑をおかけしてしまうと思い、会場受験は断念しました。皆さんと一緒に受験できず、申し訳なかったです。

株式会社アニマ 笹原社長

笹原:

私は、現場から離れてしまっていることもあり、用語の意味とかはニュアンスでしか覚えてないものが多かったです。それがどういう効果か、と問われるとちょっとね(笑)

谷口:

一番に会場を出ようと思っていたのですが、自分よりも早く退出する受験者がいて、そんなに早く出てしまって大丈夫なのかな、なんて心配しちゃいました(笑)現場では英語版のソフトを使っているので、英語で認識していることを日本語に戻す作業が必要でした。自分のなかで、どういうものかと翻訳、解釈しながら解きました。

笹原:

試験会場での受験は、なんだか新鮮でした。実は、腕時計を持っていないので、試験前日にどうしようかと少し慌てました。会場に時計があるので問題ないんですけどね(笑)

谷口:

敢えて行動を制限されるのが久しぶりだったし、受験行為そのものにセンチメンタルな気持ちになりました。まあ結果、楽しかったですけど。それにしても、多種多様な人、年代の方が受験している印象を受けました。きっと、会社で勧められて受験している人もいたのでしょうね。

笹原:

若い人がわりと多い印象でしたね。皆さん真剣な面持ちでしたが、僕たちだけが、ノリが違っていたかな(笑)いや、いちおう真剣には、受けているんですけどね(笑)

 

ー 皆さん、合否結果が気になると思いますので、さっそく発表します。7割以上の正解率で、谷口さん、本城さんの順で合格です。残念ながら笹原さんは不合格との結果になりました。合否結果を受けての感想と、印象に残っている試験問題についてお聞かせいただけますでしょうか。

谷口:

よかった!3人のなかで、僕が一番現場よりですから、沽券(こけん)が保てました(笑)。実務で行っていることにつながる問題は、サクッとわかりましたが、知識的なところ、特に知財は難しかったです。ただ、職種によっては必要なこともあるので、おさえておいたほうがよい知識だと思います。ある程度、解けた自信はあったんですが、もしかすると不合格かも、なんて思っていました。ですから、試験結果がわかるまで、すごくそわそわしました。僕だけ不合格だったら、嫌だなぁって。正解率的には、誰も納得してないと思いますが、それでも1位はうれしいです!

笹原:

もう少し、出来ていると思っていたのですが…。まあ、現場を離れているわりには解けたかな。自分が不慣れな質感表現や、写真撮影の問題は、ちょっと難しかったですね。特に写真撮影の問題は、カメラの基礎知識がないとどうしようもない問題だったので。

谷口:

共通問題を見た瞬間、いきなり知財の問題なのか、と、ドキッとしました。特許の問題、法的なものが最初に出題されていたので、ちょっと面食らいました(笑)。

本城:

意外にも昔培った知識の半分と、そこにプラスアルファ、現場で培ってきた知識が問われている感じがしました。だから、ある程度解けたのかもしれないですね。それほど、内容が変更した印象は受けなかったのですが、リアルタイムCGの問題は今期試験からの初出題ですよね?この辺の領域は、実経験で覚えた知識です。でも、絶対受からないと思っていたので、合格していて意外でした(笑)。出題内容自体は、現場の最先端の細かいところではなく、基礎的なことが問われていましたね。

谷口:

基礎的なことがおもに問われている分、逆に難しかったかな。あまり現場では使われなくなった用語とかは、すっかり忘れていたりするので、あぁ、この用語どういう意味だったかな、などと言葉を掘り下げる作業をしました。

笹原:

知らない用語を問う問題がでてきたとたん、解けなくなりました。応用的な問題は、設問文を読み解きながら正解答にたどり着けるのですが、いわゆる知識問題は、その言葉を知らないと完全にアウトでしたね。もちろん知識は重要ですが、もう少し応用との出題バランスが上手くとれるといいなと思いました。

谷口:

確かに用語については、実際はソフト上のツールの場所で覚えていたりするので、用語そのものを言葉で言わないというか…。

笹原:

そうそう、ツールの場所で覚えていたりするので、用語としてしっかりとは覚えていないです。

谷口:

だから何というか、意外と正しい言葉では、話していなかったんだなぁ、って試験を受けてみてあらためて思いました。あ、でも試験問題の中には、親切に日本語と英語で併記されているものもありましたね。

笹原:

写真撮影の問題は、現場の人たちには難しいかもしれないですね。

谷口:

カメラを触ってないと絶対わからない。

本城:

たまたま子供の写真を撮るために、カメラにはまっていた時期があったので解けましたけど(笑)仕事のなかで、絞りや画角の変更をしてほしいという話をしていても、相手がカメラの知識がないと、こちらの意図が伝わらないこともあるので、ぜひ覚えて欲しいですね。

谷口:

カメラワークとか映像編集の問題はおもしろかったです。映像制作の仕事をするうえでは、知っておいて欲しいことですし。でも、リアルタイムCGの問題は考えちゃったなぁ。

笹原:

本城さんは余裕で解けるんだろうな、と思いながら問題を解いていました(笑)

本城:

10年以上前に、ゲーム機のシェーダを描いたときにプログラムで覚えました。この辺は実務経験があったので理解していましたけど、CGソフトを触る方がここまで知っていたら、すごいなと思います。

谷口:

ソフトが当たり前に自動で処理してくれることを問われると、ドキッとしますね。当たり前すぎて気にもしていないことを掘り起こされると、背筋が正される気持ちとは裏腹に、必要なのかな?とも思われがちですが、基礎的な部分を知っていることは、重要なことだと思います。ただ、もう少しトレンドを追った問題が出題されるといいなと思いましたが、トレンドは常時変わるものだから、出題するのは難しいかもしれないですね。

本城:

今後は、Unreal Engineで映像を作ろう、という傾向が益々増えてくると思います。

谷口:

そうなると、何でもかんでもソフトウェアに任せきりになってしまうので、ますます基本的なことを知らなくてもよくなってきますが、それでいいのかというとそうではない。例えば、オートマ限定で運転できるようになったからミッション的な車の知識がゼロでいいのかというとそうではないですよね。

本城:

ソフトウェアを表面的に覚えても基礎は習得できないので、検定のように基礎的なことをしっかり学ぶことは大切だなと思います。特にプログラマーの採用に関しては、自分でシェーダを描いてきた人を評価します。さらにそのうえでソフトウェアが使えることが採用基準の1つになります。オートマでしか運転できない人をドライバーとして雇えない、というのと同じですね。要は問題が起きたときに解決するための基礎力と応用力を持っていることが大事です。

谷口:

また近年は職種もますます細分化されてきているため、他のチームへの関心が希薄になっていると感じています。だとしても、デザイナーがリアルタイムCGの知識が必須かというと微妙なところではありますが、工程ごとの役割やそこに求められているスキルはどういうものなのか、自分の前後関係を知ることは仕事をするうえでとても大切なことだと思います。そうすることで、他のチームへの理解も深まり、仕事も円滑に進められるようになるのではないでしょうか。そういう意味で、CGクリエイター検定は、映像表現をするうえでの基礎知識を網羅的に学べるものになっているので、相互のパイプ役になり得る検定だと思います。自分の専門分野だけでなく、お互いを知ることで共通言語ができ、コミュニケーションがとりやすくなる。結果、よい作品が生まれることに繋がるのではないでしょうか。

笹原:

皆さんがおっしゃっているとおり、基礎知識は大事だと思います。今回試験を受けてみて、昔、苦手だった部分は苦手なままで、その意味やしくみをしっかり覚えていませんでした。ですから、今回の結果になったのだと思いますが、改めて基礎的な言葉の意味や効果を知るのは重要だと感じました。環境光の設定など実際は、ソフトウェア上で位置を変えるとどんな風に変わるかな、といったように感覚的に設定したりするのですが、そのしくみをきちんと理解して、制作に取り組む姿勢が、よりよい結果を生み出すのだと思います。

谷口:

世の中が物理ベースのシミュレーションが主流になってきた今、レンダリングシステムでは物理法則に基づく設定が重要になっています。手作業では困難なリアルな動きを表現することが可能になった反面、物理的な計算式や質量、摩擦係数、重力などの属性や環境条件の知識が求められるようになってきました。つまり、今までは直感でできていたことが、そうはいかなくなった。基礎知識が必要なのです。ですから、学生のうちに意識して学んでおくことをお勧めします。

笹原:

僕も曖昧に覚えてきてしまったことを今とても実感しているので、学生さんには、しっかり学んでおいて欲しいな!

本城:

プランナーを採用するときにプログラマーと会話ができるようにしてもらうために、情報処理技術者試験の受験を推奨しているのですが、今回、CGクリエイター検定を受験して、これも知っておかないといけないと思いました。CGクリエイター検定で学んでもうらことで、さらに会話の幅が広がるな、と。CGクリエイター検定エキスパートの受験を必須にしようかな(笑)

谷口:

用語に関しては同じ意味であっても、会社、またはアニメ業界とCG業界でそれぞれ言い方が異なっていたりするので、試験問題で用語を問うとなると、試験問題の性質上、より正確で汎用的な言葉でしか問いかけることができないですよね。とすると、トレンド的な問題は出題しにくくなる、という問題点がありそうですね。1設問程度でよいので、現場の肌感覚への意識に繋がるような問題があってもいいかもしれないです。トレンドを追いかける意識づけにもなりますし。

本城:

そうですね。検定試験のための勉強も大事ですが、世の中のトレンドを知っておくことは必要です。

笹原:

今は、ある程度ソフトウェアが適切に処理してくれてしまうので、演出的な所や、カットのつながりなどについても、細かい設定まではデザイナーにはあまり求められなくなってきましたね。これまでは人がやらないといけなかった作業でも、今はわりと人がやらなくていいところは、やらなくていい、という流れが主流になっています。

谷口:

そういう意味では、演出意図など感性に左右されるような問題は出題しにくいと思いますが、例えば「こういうルックになっている。どこが問題でリアルに感じられないのでしょう。」とか、アート的な要素も含みつつ、リアルにさせるための作業方法を問う内容であれば、明確な答えは出せる問題になると思います。

笹原:

そうですね、今後ますます、処理が自動化されていくことになるので、それが悪いとは思いませんが、その裏にある基礎技術を理解するための問題が、もっと出題されるとよいと思います。なぜ、こういう表示結果になるのかという理由を、ソフトウェアが処理してくれたから、ではなく、そのしくみを理解して説明できるようになることが大事だと思います。何となくではなく、理論的に考えることが大切です。

 

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笹原晋也さん

株式会社アニマ
代表取締役


1973年石川県生まれ。株式会社アニマ代表取締役。CGアーティスト出身でありながら、コストを強く意識した経営方針を推し進め、事業規模を約10倍に伸ばす。「世界に通用するCGアニメーション制作」を視野に入れ、海外案件獲得に向けた研究開発にも積極的に取り組んでいる。

谷口充大さん

株式会社テトラ
代表取締役


1984年愛知県稲沢市生まれ。株式会社テトラ代表。専門学校卒業後、株式会社白組に入社。2006年に退職したのちフリーランスとして1年を過ごし、2007年8月に株式会社テトラを設立。コンピュータグラフィックスや実写合成の映像を企画、制作し、オリジナルの映像やグラフィックスの制作から映画やCM、ゲームムービーや遊技機映像等、活躍する範囲は多岐に渡る。また、雑誌『CGWORLD』ではインタビューから技術的TIPSまでライターとしても活躍中。

本城嘉太郎さん

株式会社モノビット
代表取締役社長


株式会社モノビット代表取締役社長。神戸出身。サーバエンジニア、ゲームプログラマを経て、モノビットを創業。『ゲーム』と『ネットワーク』のテクノロジーをベースに、あらゆるエンターテインメントコンテンツの制作とプロデュースを行っている。ゲーム向けリアルタイム通信エンジンをミドルウェアとして販売しつつ、ゲームタイトルやVR/ARコンテンツの企画・制作を行う。CEDEC等、講演実績多数。スッキリ!!出演など、幅広く活動中。