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2015/04/23更新

 

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技術力に加え、コミュニケーションやファシリテーションの力も求められる


ー 長沼さん自身がLife is Tech!と関わるようになったきっかけを教えていただけますか?

今から約2年前、高校卒業の直前に「Edu×Tech Fes」というLife is Tech!が主催するイベントの録画映像をYouTubeで見たのがきっかけでした。Tehuさんを始め、凄く活躍している中学生・高校生がプレゼンする姿をみて、自分と同年代なのに凄いなと、こういう世界に自分も飛び込んでみたいなと思ったのです。その後、大学に進学してから所属した学生団体のなかに、大学1年生の4月からLife is Tech!のメンターを始めたという人がいて、彼から話を聞くことができました。実際にどんな体験ができるのか、具体的な話を聞くうちに、私も参加したいと思うようになったのです。

ー メンターになるためには、審査や訓練があるのでしょうか?

まず面接による選抜があり、通過すると“リーダーズ”とよばれる研修プログラムを受けることになります。私の場合は5月頃に面接を受けました。メンターになるためには、担当するコースに応じた技術力に加え、コミュニケーションやファシリテーションの力も求められます。当時の私は、今以上にどれも不充分ではありましたが、まだ大学1年生だから今後成長するだろうと……、ポテンシャルを期待されたのだと思います。高校時代からJavaとC言語は勉強していたので、最初の研修ではAndroidアプリ開発コースを選びました。約2ヶ月にわたって、毎週末の土曜日と日曜日に座学と実習の研修を受け、その後は1日だけの体験会などでの実地研修を通して経験を積みました。メンターとしてデビューできたのは8月です。正式にデビューするとお給料の発生する仕事として任されることになるので、最初は緊張しましたね。

ー 研修プログラムでは、具体的には何を学ぶのでしょう?

まずは担当するコースの教科書を消化します。メンターになったら、中学生・高校生に教えることになるので、完全に理解する必要がありますね。さらに実際のキャンプでは、オリジナルの開発に挑戦するメンバーもいるので、自分たちも実際にオリジナルの開発に挑戦して、発表会も経験しました。自分自身の開発をマネジメントできるようにならないことには、キャンプでメンバーたちの開発の道筋をつくっていくことは到底できません。技術力以外の向上も期待されている点が、大きな特徴だと思います。

ー 実際のキャンプでは、メンバーごとに異なる開発内容や進捗状況、技術レベルに応じて、臨機応変な対応が求められるわけですね。

今回のキャンプでいうと、自分が何を表現したいのか、目的を探しながら開発しているメンバーが多いので、状況は刻一刻と変化していますね。キャンプ中は家に帰ったら、各メンバーが直しきれなかったらエラーやバグを修正したり、サンプルのコードを書いたりしています。それらを翌朝一番に伝えて、各々が納得できる解決方法を一緒に探っていくのです。日中の開発時間内も、手が空いた場合には「つぎはここで引っかかるだろうな」とか、「これを使いたいっていうだろうな」といったことを予想して、サンプルのコードを書いていますね。同じような技術や方法論を使っているメンバーがいたら、お互いに教え合ってもらったりもして、自分がパンクしないように工夫しています。

ー キャンプ時間外も、メンターの仕事は続いているわけですね。

そうですね。でも、あまり“仕事だ”とは思っていません。せっかく来てもらったのだから、満足して帰ってもらいたい。そのために自分ができることを、精一杯やりたい。そうすることで、自分の技術力も上がるし、成長もできます。とくに私は、技術力の面で信頼されるメンターになりたいと思っています。メンターになりたての頃、メンバーからの質問に答えられなくて、先輩メンターにフォローしてもらったことがあるのです。「この人はこんなに答えられるのに、自分は答えられない」という状況が悔しくて、どんな質問や要望にも対応できる、技術力のあるメンターになりたいという思いが強くなりましたね。


自分で何かをつくれる人になってほしい

ー メンターをやっていて、一番難しいことは何ですか?

メンバーのアイデアと実際の技術力を的確に把握して、ちょうど良い落としどころへと道筋をつくることですね。たとえばTwitterのようなアプリをプログラミングの初心者がつくりたいと思っても、現実には難しいわけです。だからといって、あまりに見た目が貧相なものをゴールに設定して、せっかくの期待を裏切ってしまうのもよくない。アイデアをどう具現化していくか、どう納得してもらうか、いつも難しいなと感じています。メディアアートの場合だと、光を使った演出をやってみたいという人が多いのですが、実際にレーザーを制御したりすることは難しいのです。しかしながら、プログラムで組んだ3DCG空間内で、レーザーのような光を表現することなら難しくはない。そういう方法論を提案したりしています。

ー “どう納得してもらうか”にこだわる姿勢が面白いですね。

本人が納得しないことには、楽しいと思えないでしょうからね。少なくともITって楽しい、表現するって面白いと感じてほしいのです。この先、彼ら彼女らがIT技術者やプログラマにならないとしても、自分で何かをつくれる人になってほしいと思っています。どうすれば解決できるのか、その方法を探して、実際に解決していく人のほうが、何もしない人よりもずっと素敵です。そしてLife is Tech!のキャンプには、そういう経験を積むための仕掛けがたくさん組み込まれています。今回のメディアアートコースのメンバーも、実現したいことに対して凄く貪欲で、教科書の枠に収まらない技術にどんどん挑戦しています。「これ全然わからない」と投げ出すのではなく、「ここまで理解できたけど、これはどういう意味ですか?」と聞いてくる。彼女たちの姿勢から学ばされることが多くて、私自身も凄く楽しんでいます。

ー 最後に、今後の展望を聞かせていただけますか?

メディアアートコースのカリキュラムはまだまだ発展途上なので、Tehuさんは色々と構想を練っているようです。私個人に関しては、大学1年生の早い段階からLife is Tech!に関わらせてもらっているので、今後は自分の経験を、どんどん他の人に伝えていきたいですね。大学を卒業したら大学院に進むのか就職するのか、まだ決めていませんが、いずれは周りが誰も挑戦したことのない職業についているような気がします。


今回最も印象に残ったのは、カリキュラムや教科書制作に対する、同社の妥協のない姿勢でした。日々成長していく中学生・高校生の期待に応えるため、目まぐるしく移り変わる技術や世相に対応するため、柔軟に、臨機応変に、教科書を書き換え、伝え方を工夫し、試行錯誤を続けていることがLife is Tech!のスタッフとメンターへの取材を通して伝わってきました。「この仕事に終わりはない。でも、子供たちの期待があるから走ることを止められない」。そんな同社の思いを受けとったメンターの大学生や、キャンプに参加した中学生・高校生が歩む未来に期待したいと感じました。

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尾形美幸

フリーランスのライター&編集者。CG分野の書籍制作、雑誌&Webサイト記事執筆などを生業とする。東京芸術大学大学院修了、博士(美術)。CG-ARTSにて教材の企画制作等に従事した後に独立。『改訂新版 ディジタル映像編集』『改訂新版 入門CGデザイン』では、編集やDTPなどを担当。著書に『CG&ゲームを仕事にする。』(2013)、『ポートフォリオ見本帳』(2011/ともにエムディエヌコーポレーション)、寄稿に『ゲームクリエイターが知るべき97のこと 2』(2013/オライリー・ジャパン)がある。屋号は 「EduCat(エドゥキャット)」。なかなか軸足の定まらない野良猫ではあるものの、なるべくEducateに貢献したいという願いを込めている。