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2015/04/23更新

 

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今回は、中学生・高校生向けのIT・プログラミング教育を実施しているLife is Tech!が、2015年3月23日~27日にかけて東京大学 本郷キャンパスで実施した春キャンプの様子をお伝えします。同社のキャンプは春休み、夏休み、年末などに3~8日間かけて実施され、5人程度の中学生・高校生と大学生メンターがチームを組み、iPhoneアプリ開発コース、Webデザインコース、ゲームクリエイターコースなどに分かれて開発します。本記事では、メディアアートコースにスポットを当て、同コースの起ち上げの時からメンターを務めている長沼大樹氏(東京工業大学 工学部情報工学科 2年生)へのインタビューを通して、その先進的な取り組みを紹介していきます。



ITやプログラミングは手段であって、それ自体が目的ではない

ー メディアアートコースというのは、具体的には何をするのでしょうか?

openFrameworksというC++のオープンソースツールキットとKinectなどの外部デバイスを使って、オリジナルの何かを表現します。今回の春キャンプの場合、私のチームは6名で、3名はメディアアートコース初体験、3名は経験者という内訳です。初体験の3名には、私たちが“教科書”とよんでいる、オリジナル教材を各自のペースで学んでもらっています。ただし教科書を踏襲するのは前半だけで、後半は習った技術を使って、オリジナルの何かを表現してもらいます。経験者の3名は、各自の技術力や志向に応じて、早速オリジナルの開発に挑戦しています。例えばある中学3年生のメンバーは、2年くらい前からiPhoneアプリ開発をスクールで勉強しており、プログラミングやITに対して凄く理解があります。英語力もあって英語のドキュメントも読みこなすので、フルスクラッチ(注1)で開発していますね。今回はKinect自体をペットに見立てて、Kinectを飼育するアプリをつくりたいといっています。「Kinectの動きが可愛いから飼いたい」という発想は、凄くユニークで面白いなと感心しました(笑)。ジェスチャー認識用のデバイスであるKinectを“飼おう”というアイデアが出てくるとは、まったく予想していませんでした。

※注1:既存のものを一切流用せずに新規にゼロからつくること。

ー 中学3年生が、テンプレートを使わずフルスクラッチでKinectのアプリを開発ですか……。ハイレベルですね。

彼女に対しては、私は方法論を伝えるだけですね。ただしメディアアートコース自体は、どんなレベルの人でも楽しめるように設計されています。仮にプログラミング未経験、パソコンの操作も未経験という人が参加しても、最終日にはオリジナルの何かを表現できるように、各チームのメンターが道筋をつくっていくのです。これはメディアアートコースだけに限ったことではなく、Life is Tech!の全コースに共通している理念です。ITに対する抵抗感をなくし、好きになってもらえるように全力でサポートします。それに、ITやプログラミングは手段であって、それ自体が目的ではないとも思っています。だから「この技術を使ったら、こんな凄いことができます」という発表だけで満足してほしくない。表現したい何かが根底にあって、「それを実現するために、こんな技術を使いました」というアプローチをしてほしいと、キャンプ初日に伝えてあります。

ー “表現したい何か”は、各々が自分で考えるのでしょうか?

そうです。色々な技術は伝えますが、それらの要素を使って何ができるか、何をつくるかは、自分で考えてもらいます。我々メンターの側から「君はこれをつくろう」と提案することはありません。とはいえ、メディアアートはiPhoneアプリのようなわかりやすい枠組みがないので、具体的なゴールを設定しづらく、他の人とイメージを共有しにくいという課題があります。でも、だからこそ、先人がつくった既存の枠組みに囚われない自由な発想の表現が生まれやすいとも思っています。

ー メディアアートコースを監修なさっているTehuさんからも、その点に期待していると伺っています。

Tehuさんは何年も前から、メディアアートコースを起ち上げたいと思っていたようです。私はコースの起ち上げ段階から手伝っているので、Tehuさんがカリキュラムや教科書をつくっている姿も見てきました。メディアアート制作に必要な数学の知識がわかりやすく伝わるように、5日間で初歩的なプログラミング技術を身に付けて自分なりの表現ができるように、時間をかけて試行錯誤をしていましたね。我々メンターの訓練も、ほかのコース以上に大変だったと思います(苦笑)。iPhoneアプリやWebサイトとはちがって、たいていの人は縁のなかった分野ですから。

ー メディアアートコースがスタートしたのはいつ頃ですか?

2014年の夏なので、比較的新しいコースといえますね。それ以降、私はメディアアートコースのメンターを担当しています。メディアアーティストの真鍋大度さんや、彼が手がけるPerfumeのライブのインタラクティブ演出などが徐々に認知されてきたお陰で、最近はメディアアートに興味をもつ中学生・高校生が増えていますね。今回のメンバーのなかにも、Perfumeのグローバルサイトにおいて公開されているモーションキャプチャデータを使い、自分なりのメディアアートを表現している人がいます。たいていの場合、始めるきっかけは「Perfumeのライブがカッコイイ」といった憧れや興味なのです。キャンプ中にプログラミングの基礎やメディアアートの仕組みを学んで、自分なりの表現をして、最終日にほかの人たちの前で発表し体験してもらう。それを見て「自分もやってみたい」と思った別のコースの人が、次回のキャンプでメディアアートコースを選択するという好循環も生まれています。

ー 今回の取材中に、「メディアアートは、意表を突く表現や、注目される表現ができるから楽しい」というメンバーの声を聞きました。表現する楽しさがモチベーションになっているためか、凄く熱心に開発している様子が印象的でした。

表現する楽しさに目覚めると、貪欲に技術を吸収するようになります。キャンプ終了後も勉強を続け、2回、3回とキャンプに通ってくれるメンバーは、凄い勢いで成長していきます。その期待に応えるために、教科書も、我々メンターも、どんどんレベルアップしないといけない。彼らに追い付かれないように一生懸命走っていますが、それ以上の勢いで背中を押されているように感じます。

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尾形美幸

フリーランスのライター&編集者。CG分野の書籍制作、雑誌&Webサイト記事執筆などを生業とする。東京芸術大学大学院修了、博士(美術)。CG-ARTSにて教材の企画制作等に従事した後に独立。『改訂新版 ディジタル映像編集』『改訂新版 入門CGデザイン』では、編集やDTPなどを担当。著書に『CG&ゲームを仕事にする。』(2013)、『ポートフォリオ見本帳』(2011/ともにエムディエヌコーポレーション)、寄稿に『ゲームクリエイターが知るべき97のこと 2』(2013/オライリー・ジャパン)がある。屋号は 「EduCat(エドゥキャット)」。なかなか軸足の定まらない野良猫ではあるものの、なるべくEducateに貢献したいという願いを込めている。