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2015/03/17更新

 

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会場写真

CG-ARTSの書籍「ディジタル映像表現」は、2004年の出版以来、専門学校・大学でのCGによる映像制作者の育成、企業の新人教育などの用途で幅広く活用されてきました。そんな「ディジタル映像表現」の改訂新版が2015年3月2日に発行されることとなり、その内容を紹介する指導者向けセミナーが2月12日に開催されました。本記事では、セミナーで語られた内容を通して、改訂新版「ディジタル映像表現」に込められた思いと、これからCG映像の制作に携わる方々に求められる能力を紹介します。


時間が経過しても通用する、普遍的な基礎知識を重視

本セミナーでは、初版以来「ディジタル映像表現」の編集委員長を務めてこられた木村卓氏(株式会社IMAGICA アートディレクター)と、編集委員である佐藤皇太郎氏(サトリデザイン 代表/関東学院大学 非常勤講師)、西井育生氏(株式会社ロボット テクニカルスーパーバイザー)、三上浩司氏(東京工科大学 准教授)によるパネルディスカッションが行われました(同じく編集委員の山本浩司氏(株式会社スタジオウォールナット)は、都合により欠席されました)。登壇した委員は、全員が長年にわたり、3次元CG、映像、ゲームなどの制作や、人材育成に携わってきました。今回の改訂を通して、若手に何を伝えたいと思ったのか…、改訂作業をふり返りながら、さまざまな意見が語られました。

登壇者

改訂にあたり、まず最初に決められたのが「時間が経過しても通用する、普遍的な基礎知識を重視する」というコンセプトでした。木村氏がCGを生業にしたのは今から約30年前。当初と今とでは、環境も道具もやり方も、すべてが変わっているといいます。「これから先も、どうなるかはわかりません。きっと今のままではないでしょう。そういう変化のなかで仕事を続けていくためには、変化に対応できる能力が必要だと思います。だから、なるべくベーシックな知識や能力を高めておくことが大事だろうと……、そんな考えを念頭に置いて執筆しました」。そう語る木村氏は、全体のディレクションを担うかたわら、「chapter1 実写撮影」の全面的な改訂も担当しました。「ディジタル映像表現」はCGクリエイターのための教科書ですが、冒頭のchapter1、2では、CGについてほとんど解説していません。その理由を木村氏はつぎのように語りました。「CGの場合、モデリング、リギング、アニメーション、ライティング、レンダリングなどの工程を経ないと作品が完成しません。でも、そこに到達する前に挫折してしまう学生が多いのです。だったら、まずはCGよりも手軽に実践できる写真や動画の撮影を通して、表現する面白さを実感してほしいと考えました。実写撮影の経験は、CGで作品をつくるうえでも役にたちます」。改訂に際して、木村氏が最も注意したことは、CG制作に応用できる内容を厳選することだったそうです。「CGは実写撮影をシミュレーションしているので、実写撮影を理解することは、CGを理解することにつながります。加えて、付随的なことではありますが、テクスチャ用の画像素材やリファレンス用の映像撮影が必要になる場合もあるので、撮影技術を身に付けておくことは大切なのです」。

書籍に掲載されている写真の実際の撮影風景

「chapter2 映像編集」では、音素材の取り扱い方法や、音による演出の記述が追加されました。たとえば、映像と音を同時に収録する場合であっても、ビデオカメラの内蔵マイクではなく、指向性の高いガンマイクなどの外部マイクを使う。また、安定した録音をしたいなら、ワイヤレスではなく有線のマイクを使う……といった具体的なアドバイスが新規に追加されています。執筆を担当した佐藤氏は、そのねらいをつぎのように語りました。「映像制作者のための本なのに、なぜサウンドまで取り扱うのか、疑問にもたれる方も多いと思います。多くの場合、学生は専門のサウンドスタッフを雇えないので、サウンドも自分で付けることになるのです。ところがサウンドの知識が不充分なために、残念な結果になってしまうことが多々あります。作品におけるサウンドの影響力は大きいので、映像はもちろん、サウンドに関しても意識してほしいという思いで執筆しました」。さらに、編集やミザンセヌ(画面内の配置)に関する理論と、実制作を結びつけるためのヒントも追記したので、理論の有用性にも気付いてほしいと補足しました。

会場風景

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尾形美幸

フリーランスのライター&編集者。CG分野の書籍制作、雑誌&Webサイト記事執筆などを生業とする。東京芸術大学大学院修了、博士(美術)。CG-ARTSにて教材の企画制作等に従事した後に独立。『改訂新版 ディジタル映像編集』『改訂新版 入門CGデザイン』では、編集やDTPなどを担当。著書に『CG&ゲームを仕事にする。』(2013)、『ポートフォリオ見本帳』(2011/ともにエムディエヌコーポレーション)、寄稿に『ゲームクリエイターが知るべき97のこと 2』(2013/オライリー・ジャパン)がある。屋号は 「EduCat(エドゥキャット)」。なかなか軸足の定まらない野良猫ではあるものの、なるべくEducateに貢献したいという願いを込めている。