TOP > 業界の現状と求める人材

2015/10/16更新

 

76〜77年生まれで、全員が会社の代表という共通点をもつ亀村文彦氏(株式会社ロゴスコープ 代表取締役) 、北田栄二氏(株式会社ModelingCafe 福岡支社代表) 、野澤徹也氏(株式会社 GUNCY’S 代表取締役)、米岡 馨氏(StealthWorks合同会社 代表社員)。今回は、この4名による座談会の模様をお伝えします。年齢も立場も近く、仕事・プライベートの両面でさまざまな接点があるという4名が、“日本のCG制作の未来”というテーマで、ざっくばらんに語り合いました。



アーティストがもっと流動的に動けた方が、業界は活性化する

ー 皆さん、既に面識があると思いますが、改めて自己紹介をお願いします。

野澤徹也氏

野澤徹也氏(以降、野澤):株式会社デジタル・フロンティアでの約12年間の勤務を経て、2015年10月に株式会社GUNCY’S を起ち上げたばかりです。“代表”としては一番の新米ですね(苦笑)。前職ではテクニカル・ディレクター(以降、TD)チームを結成し、パイプラインの整備や社外への情報発信に注力していました。その経験を活かし、今後はコンテンツ制作に特化したコンサルティングサービスを行っていきます。CGを使って多様なメディアのコンテンツを制作したい会社やアーティストに対して、効率的な制作体制やパイプライン構築、マネジメントのノウハウを提供していけば、日本のCG制作はもっと活性化できると思っています。

北田栄二氏

北田栄二氏(以降、北田) :スクウェア・エニックス ヴィジュアルワークスで約6年間働いた後、Animal Logic(オーストラリア)とDouble Negative(シンガポール)でモデラーを務めました。フル3DCGアニメーション作品と、実写映画のVFXに携わっていましたね。2014年11月に帰国し、2015年1月に株式会社ModelingCafe福岡支社の代表になりました。私も家族も福岡が気に入っていて、このまま永住したいと思っています。



亀村文彦氏

亀村文彦氏(以降、亀村):慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構の専門員として、2005年より約7年間デジタルシネマ規格に関する研究の補助を担当していました。そこで培ったカラーマネジメントに基づくシーンリニアワークフローのノウハウを実際の映画制作(『宇宙兄弟』2012年)に提供したことがきっかけで、CG映像業界との接点ができました。2013年に株式会社ロゴスコープを起ち上げ、CG及びポストプロダクション各社のシーンリニアワークフローを中心とした最先端技術(BT.2020, VR360など)導入をお手伝いしています。主なクライアントは、自動車産業や大手CGプロダクション(デジタル・フロンティア、オムニバス•ジャパンなど)です。

米岡 馨氏

米岡 馨氏(以降、米岡):笹原組(現:株式会社アニマ)を皮切りに、国内CGプロダクション各社に勤務した後、2011年にエフェクト・アーティストとしてPIXOMONDO(ドイツ)に移籍しました。その後、Scanline VFX(カナダ)を経て2014年に帰国。2015年6月にStealth Works合同会社というエフェクトの専門家集団を起ち上げました。海外で身に付けたノウハウを国内のエフェクト・アーティストに伝えていきたいと思っており、今は5人くらいの少人数チームで足場を固めている最中です。将来的には20人程度まで増員したいですが、それ以上大きくするつもりはないですね。

北田:今のご時世、大きくなるとデメリットの方が大きいですからね。当社の場合、東京本社と福岡支社を合わせると40名のモデラーがいて、徐々にハンドリングが難しくなってきています。大人数を抱えていれば、大きい案件を受けられるかもしれない。だけど、新しいことを始めたり方向転換をするときに、すごいパワーが必要になります。いただいた案件を全部受けるために人を増やし続けるのではなく、自分たちのキャパシティを少し上回る数の依頼が途切れずに来て、“やりたいのですが、今は余裕がありません……”とお断りするくらいの規模を維持するのが理想だと思っています。300〜400人のスタッフを抱えて、受注専門で全員に仕事を割り振り続けるのは相当にしんどいですよね。


ー 海外には、1,000人近い規模のCGプロダクションが複数ありますが、やはり苦労しているのでしょうか?

北田:海外CGプロダクションの経営も、決して楽ではありません。ただし、多くのスタッフがプロジェクト単位の契約なので、頻繁にレイオフ(解雇)を実施しています。Animal Logicの場合、700人が働いていた時期もありますが、プロジェクトが終わったら100人規模にまで縮小したこともありました。そうして再びプロジェクトが始まると、新規のリクルートをかけるのです。

野澤:日本の場合、アーティストが複数のCGプロダクションを渡り歩くことに対して“あまり褒められたものじゃない”と考える風習があります。もっと流動的に動けた方が活性化すると思うのですが、難しいですね。プロダクションごとにやり方が全然ちがうことも、流動を妨げる要員になっていると思います。せっかく覚えたノウハウが、他社にいくと使えないということが往々にして起こります。

米岡:海外の場合、国やプロダクションがちがっても、やり方はある程度共通しています。私の場合、ドイツのPIXOMONDOからカナダのScanline VFXに移籍しましたが、現時点でベストと考えられているエフェクトのやり方は、ある程度共通していましたね。


誰が担当してもプロジェクトを円滑にまわせるしくみが必要

野澤:もう1点、日本ならではの問題があります。ノウハウや情報が個人に蓄積されているケースが多く、“この人に聞かないとわからない!”という事態が起こりがちです。その状態でプロジェクトが大きくなり、人が増えていくと、どんどんカオス化します。海外の場合、基本的に大きなタスクは小分けにして、チーム単位で対応することで、個人への依存を極力小さくしているのです。人が入れ変わっても進行できる体制が構築されているので、スーパーバイザーだろうがエントリーだろうが、納品直前に堂々と1週間の休暇を取ったりします。

北田:1番よくある休暇の理由が“友人の結婚式”でしたね(笑)。向こうでは当たり前ですが、日本だとお互いに空気を読んで遠慮しますよね。

野澤:文化の違いもありますから、単純に良い悪いを断言できるものではありませんが、誰が担当してもプロジェクトを円滑にまわせるしくみは日本でも必要だと思います。

北田:進行管理を担うコーディネータたちが優秀で、しかもアーティストたちから一目置かれていることも、海外プロダクションの特徴ですね。彼らはCG制作の専門知識をもったプロフェッショナルなので、個々のタスクの重要性や難易度、アーティストの力量をしっかり把握しています。コーディネータと仲良くなって良い仕事をすれば、良いタスクを割り振ってもらえるのです。

野澤:“この人がいないと完成しない!”というケースは極力減らさないと、海外と同レベルの生産効率を発揮できません。そういう問題意識がきっかけとなり、デジタル・フロンティアのTDチームが生まれたのです。単純にスタッフを増やしてもプロジェクトの生産性は上がらないので、人を増やす前に、大人数での仕事に耐えられる、個別のプロジェクトに依存しないパイプラインを構築することがTDチームのミッションでした。各セクションのスタートからチェックまでのワークフローを明確に定めたり、工数管理やデータ管理のためのツールをつくったりしましたね。

北田:日本では、人間のマネジメントはもちろん、データのマネジメントもできていないケースが多いですからね。実際のところ、VFX・アニメ・ゲーム・遊技機など、さまざまなジャンルの仕事があるなかで、作り方を統一することは難しいのですが……。

亀村:特に映画などの長期プロジェクトでは、その初期段階から打ち合わせに入り、しっかり仕様を決めないと上手くいかないなと感じました。今の会社では、その仕様を決めるためのコンサルティングや、検証及び測定、ツール開発などを行っており、仕様を決める要因となる検証及び測定データをオープンにしています。そこから得た知見、ノウハウ、ツールを多くの方々とシェアして使っていただき、ブラッシュアップした方が、より良いものになりますし、技術の進歩にも対応しやすいと思うのです。

米岡:私も依頼を受ける際には、なるべくプロジェクトの初期段階から入るようにしています。プロジェクトの仕様が完全に決まってから関わると、エフェクトの事情を完全に無視したデータを渡されて“これでやってください”と言われてしまったりする(苦笑)。だから案件の相談が入ったら、速やかに“こういう風に進めてほしい”という資料を渡すよう心がけています。モデラーもアニメーターも、エフェクトの都合はわからなくて当然なので、先んじて自分たちから意見を言わないと事態を解決できないのです。そういう対応を含めたコンサルティング業務と、エフェクトの実制作の両方を依頼されるケースが増えていますね。

野澤:私も今後はコンサルティング業務を事業の中核にするつもりですが、パイプライン構築や技術に偏った提案をしないよう心がけたいです。“完璧なパイプラインを構築すれば、すべてが円滑にまわる”と誤解されたくはありません。パイプラインのなかで働き、プロジェクトをまわすのはアーティストやエンジニアです。だから“人”に配慮したコンサルティングも同時に行う必要があります。

北田:ガチガチにシステマティックなパイプラインをつくるほど、アーティストではなく作業員になっていきますからね。それでも海外の 人たちは、“仕事だから”と割り切っていて、あまり文句がありません。しかし日本では、長年にわたって個人の裁量が大きかったので、 自分のやり方が制限されるとモチベーションの下がる人が多くいます。システマチックな効率化と個人の裁量のバランスをどうとっていく か、日々頭を悩ませています。

野澤:加えて、日本のプロダクションが今後も競争力を維持するためには、どういう風に売り込めば作品が評価されるのか、クライアントに対してどういう提案をすれば理解を得られるのかといった、マーケティングやプロデュース面のコンサルティングも必要です。プロダクションが良い仕事を続けていくために、軍師として一番近くで戦略を立てるお手伝いをすることが今の私の命題です。

米岡:我々の世代は、まだまだ機動力がある一方で、自分の裁量で物事を動かせるだけの責任も担っています。自分たちのためにも、次の世代のためにも、世の中への働きかけをしていくべき頃合いなのだと思います。私は海外生活を経て日本に帰ってきましたが、自分の裁量で仕事ができる環境に恵まれているせいか、ストレスなく日本の生活に溶け込めています。今後帰国する人たちのためにも、アーティストたちが自由に動ける枠組みを充実させていきたいですね。それが日本のCG業界を元気にすることにもつながっていくと思います。


自分から情報を発信・共有することで、情報が得られる

ー 最後に、これからCG業界を目指す学生に向けて、アドバイスをお願いします。

野澤:日本にはTDを育てる土壌がないので、“こういう教え方をしたらTDが育つ!”というノウハウを教育機関に伝えていく活動もやりたいです。世の中のTDの数を今の10倍くらいまで増やしたいですね(笑)。CGの知識がなくても、プログラムができて、ハキハキ会話ができる人ならTDの適性があります。TDはアーティストとエンジニアの橋渡しをする大切な役割なので、1人でも多くの学生に興味をもってほしいです。

北田:国内の情報だけに頼るのではなく、海外フォーラムやコミュニティのWebサイトからも情報を得る習慣を身に付けてほしいですね。日本の学生作品だけでなく、海外の学生作品も視野に入れて自分のレベルを把握した方が良いでしょう。世界中のアーティストの立場は年々フラット化しており、競争は激化しています。英語が母国語ではないというハンデがあるなかで戦っていくからには、何らかの特化した武器が必要です。

亀村:自分とはちがう専門分野や得意分野をもっている方々との交流が大切だと思います。私の場合、撮影・ルックデブ・トラッキング・コンポジットなど、各分野の専門家から直接意見を聞き、一緒に撮影や検証ができたからこそ、短期間で現在のシーンリニアワークフローを構築できました。情報を囲っている人のところには情報が入って来ないし、交流関係が継続しません。まずは自分から情報を発信・共有することは、新しい情報を得るための手段の1つではないでしょうか。現在は共同研究という枠組みで、ModelingCafeなどと共に会社間の情報共有を始めています。

米岡:“エフェクトアーティストになりたい”という学生さんから連絡をいただくことがあるのですが、よくよく聞いてみると、何をつくりたいのか目的が曖昧な人が多いですね。私の場合、常につくりたいものは明確で、さまざまなリサーチを重ねて具現化していくのです。そうでなければ、入ってくる情報が散漫になり、クオリティが落ちていきます。“プロレベルの爆発シーンをつくる”など、目標を絞って取り組んでみた方が成長できると思います。

ー 有難うございました。

 

尾形美幸

株式会社ボーンデジタル所属。NPO法人 国際ゲーム開発者協会日本 理事。CG分野の書籍制作、雑誌&Webサイト記事執筆などを生業とする。東京芸術大学大学院修了、博士(美術)。CG-ARTSにて教材の企画制作等に従事した後、フリーランスのライター・編集者を経て現職。共著書に『改訂新版 ディジタル映像表現』(2015/CG-ARTS)、著書に『CG&ゲームを仕事にする。』(2013)、『ポートフォリオ見本帳』(2011/ともにエムディエヌコーポレーション)がある。