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2014/9/1更新

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学生時代にはこれほど英語が重要になると思いもしなかった

ー PIXOMONDOでの勤務は1年10ヶ月とのことですが、印象に残っていることを教えていただけますか?

PIXOMONDOのエフェクトチームは10人くらいで構成されていたのですが、1人1人が非常に高度なスキルをもっていました。私が勤務したのはベルリン スタジオでしたが、共通言語は英語だったので、EU圏内のずば抜けて優秀なエフェクト・アーティストが国境を越えて流入してくる環境でした。だからハリウッドを始めとする世界各国の仕事を受注できるし、プロジェクトのバジェット(予算)も多い。これなら日本との差が開いてしまうのも当然だなと納得しました。入社直後は自分に足りないスキルを補うのに必至で、休日に出社して慣れないプラグインの操作を勉強したりもしましたね。ただ一方で、そういうプロダクションにも色々な問題があって、アーティストが辞めていくことは珍しくありませんでした。気が付いたら、繰り上がりで私が上のほうのポジションになっており、「一番難しいショットはお願いするね」といわれるようになりました。もの凄いプレッシャーでしたが、逆にチャンスだと思って頑張りましたね。たとえばアメリカのTVドラマ『Game of Thrones』のセカンドシーズンでは、船が爆発で破壊されるショットを任されたのです。尺は短かったのですが、スーパーバイザーから「これはマネーショットだから、よろしく頼む」といわれました。マネーショットというのは、すごく派手な映像で、クライアントに高額のバジェットを請求できる重要なショットという意味です。そういうショットを任せてもらえるようになったことは、すごく嬉しかったですね。

ー さらにその後Scanline VFX(カナダ/バンクーバー)に移籍し、1年3ヶ月の勤務を経て帰国されたわけですが、なぜ帰国しようと思ったのでしょう?

約3年間の海外スタジオでの勤務を経て、向こうの良いところと、悪いところの両方を体感できました。この辺で1度帰国して、これまでの経験を踏まえ、日本でハリウッドクオリティの映像をつくるという目標に再挑戦したいと思ったのです。ハリウッドの大きなプロジェクトの場合、自分に与えられる裁量が非常に少ないことはストレスでした。ものすごく分業化が進んでおり、1つのショットの構成要素を何人かで分担するケースが大半なので、たとえ「こうやったら、もっとクオリティが上がる」というアイデアがあっても容易に反映させられないのです。それと比較すれば、日本のアーティストに与えられる裁量は多いですね。たとえば私が日本で『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(2010)のエフェクトを担当した際には、山崎貴監督が直接説明をして、ラフも描いてくださいました。「敵空母の波動エンジンが爆発し宇宙空間でブラックホールが発生する。その後エネルギーが逆流し、大爆発を起こすシーンのエフェクトをつくってほしい」といわれたのです。ただ実際のところは、聞いただけで100%イメージを共有できるわけがありませんでした(苦笑)。ブラックホールなんて誰も見たことがないわけですから。その説明をもとに自分なりにアイデアを膨らませ、コンセプトアートを用意して、テストショットをつくり、監督とイメージをすり合わせていきました。そういう経験をさせてもらえると「このショットは自分が担当した」と思えるし、充実感がすごく大きいのです。海外でも、もっと上のポジションになれば、そういう充実感が得られると思います。でもそれには、高度な語学力が必須となります。1人のアーティストとして仕事をするだけなら、流ちょうに英語を話せなくても何とかなる。ただし全体を統括したり、他の人と折衝をして相手を説得したりするとなると、一筋縄ではいかない。相当な年月がかかるなと痛感しましたね。

ー 自分の行動範囲や可能性を広げたいのであれば、CGはもちろん、英語もやっておいたほうが良いということですね。

ええ。今になってふり返ると、もっと勉強しておけば良かったと思うのですが、学生時代にはこれほど英語が重要になると思いもしなかったですね。だからこそ、学生の皆さんに重要性を伝えるのは難しいなと感じますが、なるべく英語に触れる機会を積極的につくったほうが良いですね。一方で、やっておいてよかったと思うのは勉強への投資ですね。たとえばパソコンやソフトウェアへの投資は、惜しみなくやったほうが良い。お金がなければ、アルバイトをすれば良い。そのアルバイトからも、学べることは多いです。先ほども話したように私の場合はエアコン掃除のアルバイトをしていましたが、その経験を通して、労働とは何か、作業効率を上げて短時間で結果を出すにはどうすれば良いか、といったことを学びました。私自身が今も心がけていることですが、目の前の時間を無駄なく使い、密度の濃い毎日を過ごすほど、目標を達成できる可能性は高くなると思います。

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米岡馨さん

エフェクト・テクニカル・ディレクター

早稲田大学第二文学部を卒業後、デジタルハリウッドで3次元CG制作を学ぶ。株式会社アニマ、株式会社アニマロイド、株式会社デジタル・メディア・ラボ、株式会社オムニバス・ジャパン、OXYBOT株式会社にて、ゲームムービー、映画、CMなどの制作に携わったのち、2011年からはPIXOMONDO(ドイツ/ベルリン)に勤務。2013年にScanline VFX(カナダ/バンクーバー)に移籍。2014年9月現在は日本に帰国しており、フリーランスのエフェクト・テクニカル・ディレクターとして活動している。

 

尾形美幸

フリーランスのライター&編集者。CG分野の書籍制作、雑誌&Webサイト記事執筆などを生業とする。東京芸術大学大学院修了、博士(美術)。CG-ARTSにて教材の企画制作等に従事した後に独立。著書に『CG&ゲームを仕事にする。』(2013)、『ポートフォリオ見本帳』(2011/ともにエムディエヌコーポレーション)、寄稿に『ゲームクリエイターが知るべき97のこと 2』(2013/オライリー・ジャパン)がある。屋号は 「EduCat(エドゥキャット)」。なかなか軸足の定まらない野良猫ではあるものの、なるべく「Educate(教育)」に貢献したいという願いを込めている。