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2014/9/1更新

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何かをしたいと思ったら、期限を決めることが大切

ー 株式会社アニマを皮切りに、株式会社アニマロイド、株式会社デジタル・メディア・ラボ、株式会社オムニバス・ジャパン、OXYBOT株式会社と、国内の数多くのプロダクションで仕事をされてきたそうですね。

最初の頃は、アニメーション以外の仕事なら何でもやるジェネラリストという位置付けで、フリーランス、あるいは契約社員として働いていました。ゲームムービー、映画、CMなど、ジャンルは多岐にわたりましたね。そして、SIGGRAPH2008(アメリカ/ロサンゼルスで開催)に参加したのをきっかけに、「エフェクトに特化してスキルを磨こう」と意識し始めたのです。SIGGRAPH期間中、当時CafeFX(注2)に勤務していた日本人アーティストの佐々木稔さんにデモリールを見ていただける機会があって、「ハリウッドを視野に入れて腕を磨くなら、得意なエフェクトを専門にして勝負をすると良い」というアドバイスをいただきました。それが転機になり、帰国後はエフェクトをメインに仕事を受けるようになったのです。

注2:CafeFXはロサンゼルス近郊にあったVFXスタジオ。現在は閉鎖されている。

ー SIGGRAPHには私費で参加したのですか?

はい。海外の制作・就職事情を知りたくて、参加しました。日本でCGをつくり続ける日々のなかで、自分が携わる映像と、ハリウッドでつくられる映像の格差を埋めたいという思いが強くなっていったのです。どうやったらハリウッドに匹敵するクオリティが日本で出せるのか、そのまま日本でやり続けても、答えを見つけられる気がしませんでした。だったら1度海外に出て、ハリウッドの仕事に携わってみようと思ったのです。翌年のSIGGRAPH2009(アメリカ/ニューオーリンズで開催)ではJob Fairに出展していたPIXOMONDOのブースに行き、「最初の1分だけで良いから、この場で見てくれませんか?」とお願いして、自分が携わったエフェクトのベストショットを見てもらいました。そうしたら担当者の反応がすごく良くて、提出した書類に“Great Effect Reel”というメモ書きをしてもらえたのです。

ー 数あるVFXスタジオのなかで、PIXOMONDOを選択した理由は?

当時のハリウッドにおけるエフェクト用のソフトウェアは、MayaとHoudiniが主流でした。ところが、私が日本で使い込んできたソフトウェアは3ds Maxで、新たに別のものを勉強し直すのは時間がかかり過ぎると思ったのです。そんな情勢のなかで、3ds Maxを使ってハイクオリティなエフェクトをつくっていたのがPIXOMONDOでした。自分の得意分野を伸ばして勝負するなら、ここに応募するのがベストの選択だと思いましたね。そしてSIGGRAPHから帰国し、しばらく経ったあと、PIXOMONDOから面接をしたいという連絡が来たのです。そのままトントン拍子に話が進めば良かったのですが……、うまくはいきませんでした(苦笑)。後に上司となったPIXOMONDOのエフェクト・スーパーバイザーがSkypeで面接をしてくれたのですが、まったく英会話ができず、本当にグダグダの内容だったのです。彼は早口のうえ、非ネイティブ・スピーカーなので独特のなまりがあった。しかもSkypeの音質は悪い。何を聞かれているのかすら理解できませんでしたね。後日送られてきたメールには「君の作品はすごく良いんだけど、インターナショナルな現場でやっていくには英語力が足りないね」という主旨のコメントが書かれていました。このままではまずい。作戦を練り直さなければと焦りました。

ー 具体的には、どのような練り直しをしたのでしょう?

それまでは週1回ペースだった英会話の個人レッスンを、週2回に増やしました。ただ、仕事をこなしながらレッスンに通うには工夫が必要で、昼食や夕食のための休憩時間に会社を1時間だけ抜けて、レッスンを受けに行きましたね。当然レッスン中は食事ができないので、道すがらコンビニで食事を買って、帰社した後で仕事をしながら食事をしていました。「なんで飯食いに行ったのに、今食べてるの?」というツッコミを、会社の仲間から何度も受けましたね(苦笑)。さらに週末の度に英会話喫茶に行き、なるべく長い時間、英語を話し続けられる環境に身を置くようにしたのです。英語の勉強に限らず、何かをしたいと思ったら、期限を決めることが大切だと私は考えています。漠然と「いつか海外に行きたい」と思っているうちは、結局行けないと思うのです。「いつまでに何をすべきか」がわからないからです。だから私の場合は「35歳までに海外で働く」という期限を最初に決めました。そうすると、いつまでにSIGGRAPHに行くとか、いつまでに英語で自分のデモリールの解説ができるようになるといった目標が明確になります。自然と時間の使い方も濃密になるので、そういう考え方でやってきたことは正解だったと感じています。結局、翌年のSIGGRAPH2010は日本での仕事が忙しくて参加できなかったのですが、幸運なことにPIXOMONDOから再度面接をしたいという連絡が入ったのです。「あれから1年経ったけど、英会話は上達した?」という感じで、メールが来ました。前回の反省を踏まえて入念に準備をして臨んだ結果、今度は好感触で、晴れて採用となったのです。

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米岡馨さん

エフェクト・テクニカル・ディレクター

早稲田大学第二文学部を卒業後、デジタルハリウッドで3次元CG制作を学ぶ。株式会社アニマ、株式会社アニマロイド、株式会社デジタル・メディア・ラボ、株式会社オムニバス・ジャパン、OXYBOT株式会社にて、ゲームムービー、映画、CMなどの制作に携わったのち、2011年からはPIXOMONDO(ドイツ/ベルリン)に勤務。2013年にScanline VFX(カナダ/バンクーバー)に移籍。2014年9月現在は日本に帰国しており、フリーランスのエフェクト・テクニカル・ディレクターとして活動している。

 

尾形美幸

フリーランスのライター&編集者。CG分野の書籍制作、雑誌&Webサイト記事執筆などを生業とする。東京芸術大学大学院修了、博士(美術)。CG-ARTSにて教材の企画制作等に従事した後に独立。著書に『CG&ゲームを仕事にする。』(2013)、『ポートフォリオ見本帳』(2011/ともにエムディエヌコーポレーション)、寄稿に『ゲームクリエイターが知るべき97のこと 2』(2013/オライリー・ジャパン)がある。屋号は 「EduCat(エドゥキャット)」。なかなか軸足の定まらない野良猫ではあるものの、なるべく「Educate(教育)」に貢献したいという願いを込めている。