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2014/12/04更新

 

 

2006年9月に庵野秀明氏が代表取締役を務める株式会社カラーによって設立され『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズなどの話題作を手掛けるスタジオカラー。

今回、スタジオカラーとドワンゴが日本のアニメーションの可能性を探る共同企画「日本アニメ(ーター)見本市」が11月7日から始動しました。この企画は、短編映像のシリーズとして、さまざまなディレクター陣による、オリジナル企画、スピンオフ企画、プロモーション映像、ミュージックPVなど、ジャンルを問わず愛と勢いでつくりきる数々のオムニバスアニメーション作品を毎週金曜日に1話ずつ公開するというもの。
企画立案した庵野氏は、「日本のアニメーションが持っているイメージの面白さの追求と解放、自由な表現の深化と多様化、個々の才能の確認と開拓、そして何より日本のアニメ(ーター)に内在しているであろう、未来への夢と可能性を信じるべく、本短編集を企画立案した」とコメントされています。

今回はこの「日本アニメ(ーター)見本市」のなかから、第2話として公開された「HILL CLIMB GIRL」の3Dディレクターを務めた宮城健氏に、スタジオカラーのモデリング術と、新人2名を起用した経緯についてお伺いしました。また、同スタジオとの連携企画としてモデリングに関するメイキング「圧倒的なディティールが後押しするスタジオカラー流モデリング術」についてもご紹介します。

(c)2014 nihon animator mihonichi, LLP

ー まず現在の宮城さんのお仕事を教えてください。

デジタル部でモデリングのディレクターをつとめていますが、もう1つの役割として、研究開発ユニットリーダーとして、制作における効率化や表現のクオリティを高めるためのCGツールの開発など、制作側の要望を吸い上げて、その機能を実現する仕事もしています。

ー 具体的にはどんなものがありますでしょうか。

たとえば、KH image planeというツールを開発したのですが、これはどの角度からのカメラでもそろえた資料の画像を貼ることのできる補助ツールで、実物を参照してモデリングを行えるようにしたものです。これを使うことで正確で緻密なモデリング行うことができるようになるわけです。

ー 宮城さんご自身はどんなきっかけで現在のお仕事をすることになったのでしょう。

宮城健さん

子供のころから、モノをつくることが大好きだったので、建物などの構造物をつくりたいと思い、建築学校に通い、設計事務所でアルバイトをしていました。しかしながら現実の建築士の仕事は思ったよりも、構造的な設計での制約が多く、自分が夢に描くような自由なモノづくりをすることはできなかったんです。だんだんと、仮想空間であっても、もっと自由にデザインできる「映像」をつくってみたいと思うようになりました。そこで思い立って、CGの専門学校に6か月通って、CGプロダクションに入ったので、それが今の自分に至るきっかけです。


ー では、今回の「HILL CLIMB GIRL」について教えてください。新人のお二人が関わられたわけですがどんな意図があったのでしょうか。

「日本アニメ(ーター)見本市」は若手にチャンスを与える企画でもあります。そういう意味でこの場を登竜門にしたい、今回はこの趣旨を活かした形で制作も進めて行きたい、と考えました。
スタジオカラーが設立した当初は、映画をつくる目的で、プロフェッショナルのフリーランスを集めるスタイルで進めてきたのですが、近年は、組織としてのチームづくりを考えられるようになってきました。そして今年初めて新卒を採用しましたので、よい機会になりました。


― どんなところをお二人が習得されたかは、後にご紹介するスタジオカラーさんの記事「圧倒的なディティールが後押しするスタジオカラー流モデリング術」をご覧いただくとして、宮城さんが伝えたかったこと、こだわりについて教えてください。

とにかく正確にモデリングすることにこだわっています。どんな小さなモノでもちゃんと観察して、モデリングしてもらいたいと思っています。一つ一つ正確につくることで、それが積み重なった時のリアリティが、モノに宿るようになると思います。今回の「HILL CLIMB GIRL」の場合は、「自転車」がそれにあたります。この自転車は100近くの部品で構成されていますが、一つ一つの部品のモデリング品質の差は映像では確認できないかもしれません。でも、100個の部品を積み重ねたときには、ホンモノだとわかるものになるのです。作品づくりを通して、そういうことに気づいてもらえたら嬉しいなと思っています。

(c)2014 nihon animator mihonichi, LLP

先ほどのKH image planeもそのためのツールなのですが、実物を参照することでその違いを感じてもらうことができます。「ほら、形状が違うでしょ!」と(笑)。その違いを自分で知ることが大切で、私が修正してしまえば簡単なのですが、それでは成長できません。「ここが違うんだ」と実感してもらいたいと思っています。そのあたりの詳細は、この後のメイキング記事で…。


― 正確にモデリングするということと、アニメーションのデフォルメとは、相反するようにも聞こえますが、どのように関係してくるのでしょうか。

モデリングだけでなくライティングについてもいえることなのですが、正確なものをまずつくる。クオリティが担保されたその上で、そこから色なりモデルなりをいくらでも演出によって変えることができる、それが大切だと思っています。最初からアニメだから適当でよいでしょ、という考えでつくってしまうと、クオリティラインが保てなくなります。
映画製作の場合、下手なものをつくるとチェックにも出せないし、無駄な時間はとれない、だからこそ、はじめからきちんと、モノを観られる人を育てたいと思っています。それが新人教育にもつながっていますね。

― 最後にこの業界をめざすかたへのメッセージをお願いします。

描けるだけではなく、しっかりモノを捉えられる人になってほしいです。好きなモノを明確にして、突き詰めてほしいですね。好きなモノを観察して、描いて、作品にしてほしいです。好きなモノを形にすれば必ず愛がにじみ出てきます。学校の課題だからではなく、そこに愛があるか!ですね。皆さん、ぜひがんばってください。


 

スタジオカラー特別記事
圧倒的なディティールが後押しするスタジオカラー流モデリング術
今回は、本記事にて紹介させていただいた「HILL CLIMB GIRL」のメイキングを、連携企画として上記リンクにて紹介しています。スタジオカラーのこだわりを体感してください。

 

宮城健さん

1984年沖縄県生まれ。本作では3Dディレクターを務める。スタジオカラーデジタル部では、モデリングディレクター、研究開発ユニットリーダーを務めている。

取材・テキスト:
CG-ARTS 篠原たかこ
取材・写真:
CG-ARTS 黒川崇史