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2013/1/17更新

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実際の人間とアニメのキャラクターを観察し、良いとこ取りをする

ー では、ここからは話の切り口を変えて、モデリングとアニメーションを上達させるための鈴木さん流のコツをお伺いしたいです。まずはセルルックのキャラクターをモデリングする際のポイントを教えていただけますか?

僕が一番苦労してきたのは髪の毛ですね。先ほど話した試作映像用のキャラクターの場合、髪の毛のモデリングだけで1ヶ月かかりました。当時はモデリングして、レンダリングして、それを作画のアニメーターにチェックしてもらって、またモデリングをやり直すっていうサイクルを延々繰り返していました。でも2Dの作画には、3Dでは再現できない2Dならではの嘘が必ず含まれているんですよ。だから1方向からの見た目を合わせると、別の方向から見た場合に可愛くないって問題が頻発するわけです。しばらくの間は堂々巡りを繰り返して、あるときハタと気がつきました。「可愛くない角度は見せなきゃ良いんだ!」って。結局、カットごとの見る角度に応じてモデルの形を変形させるしかないんですよね。そうしないとアニメとして成立しない。そんな試行錯誤を繰り返して、サンジゲン流のアニメの作り方が徐々にでき上がっていきましたね。

最近はさすがに1ヶ月もかけないようにしていますが、新しいキャラクターをモデリングする度に、毎回髪の毛の形には苦労していますね。最終的にはカットごとに直すことは避けられないんだけど、その回数は少ない方が良い。だから、どの角度から見てもなるべく違和感のない形にしたいと思いながら作っています。

ー モデリングの際に、フィギュアを参考にすることはありますか?フィギュアをそのまま3DCG化すれば、良い感じの形に仕上がるんじゃないかと思ってしまうんですが。

フィギュアを参考にする場合もありますが、髪の毛に関しては、フィギュアとアニメでは要求される形が全く違いますね。フィギュアの髪の毛は複雑で、頭頂から毛先まで、ボコボコとした凹凸がありますよね。でもアニメのキャラクターの場合、頭頂部分はツルッとした円形になっている場合が多いんですよ。フィギュアみたいにボコボコさせると、下から見たときには変に尖って見えるし、横から見ると線が何本も入ってしまう。途端に置物っぽく見えるんですよ。

ー 確かに、たとえば美少女フィギュアの髪の毛は、ものすごい執念で緻密にボコボコさせていますよね。

キャラクターのモデリングで毎回苦労するのが髪の毛だと鈴木さんは語る。フランソワーズの場合も、頭頂から毛先にいたるまで何度も試作が繰り返され、ベストの形が決定された。

あれはフィギュアだから良いんですよね。逆にフィギュアの髪の毛がツルッとしていると、購入する側は損をしているような気分になってしまう(笑)。でもアニメの場合は、あそこまでのディテールは必要ないんです。毛先に行くほど分ける一方で、頭頂に行くほどツルッとした1枚の面に見せないといけない。『009 RE:CYBORG』のフランソワーズの髪の毛も、最後の最後までねばって、色々直しましたね。すごい頑張って細かく作り込み過ぎちゃって、結局全部捨てて、1個前のバージョンに戻したんですよ。本当に髪の毛は大変で、答えがないような気がしますね。

ほかにモデリングの際に意識している点として「まずは設定画どおりに作る」というのがありますね。当たり前のことのように聞こえますが、そこそこ似ているというレベルではなく、設定画とCGのモデルが本当に同じキャラクターに見えるよう努力を尽くす意識が大切です。設定の絵に込められたキャラクターの魅力を、どうやってCG のモデルに定着させるかに注力すべきです。設定画をソフトウェアに読み込んで、テンプレートとして表示して、よーく見比べる。設定画とキャラクターを並べて見比べて、重ねて見比べて、場合によっては同じポーズをとらせて、とにかく観察する。どこが違うから、そのキャラクターらしさが出ないのか、腰を据えてじっくり分析して近づけていく。

ー テンプレートにする設定画というのは、三面図のようなものですか?

たとえば顔をモデリングする場合なら、正面顔の設定画をテンプレートにします。それに加えて、斜め顔の画も見ながら作っていきますね。この2つの画は、なるべく両立するように努力します。アニメの設定画でとくに多いのが、この「正面顔」と「斜め顔」だからです。その際注意すべきなのが「横顔」です。アニメのキャラクターの場合、デフォルメが強ければ強いほど、嘘の度合いが大きくなっていく傾向があるんです。とくに横顔は2Dならではの嘘が顕著で、3Dでは再現できないことが多い。「正面顔」と「斜め顔」を完璧に作ると、大概「横顔」は合わないんです。だから横顔は潔くあきらめます(笑)。もちろん設定画のニュアンスは極力拾っていきますが、あまりそこに囚われていては、永久に終わらなくなってしまう。そういった思い切った決断も必要だということが、これまでの経験を通して僕なりに導き出した答えですね。

ー 髪の毛でも顔でも、2Dならではの嘘をいかに3Dで再現するかというのが大きな課題なんですね。努力して再現する一方で、再現を諦める決断も必要だというお話は非常に新鮮です。

また昔の話になりますが、僕がMOMO展時代にモデリングの勉強をしていたときには、ハヤシヒロミさんというCGデザイナーの書かれた記事が参考になりましたね。それまで僕はモデリングが下手だと思っていたんですが、ハヤシさんが紹介していた方法を実践してみると、すごく簡単にキャラクターが作れるようになったんです。キャラクターの顔をモデリングする場合、多くの人は球体や立方体から作ると思います。そうではなく、板ポリゴンをつないで最初に眼を作る。次に鼻を作り、口を作る。それらのパーツを配置して良いバランスになったら、輪郭を作っていくんです。絵を描く場合にも、部分から描いていく方法ってありますよね。それと同じです。CGの場合、全体のプロポーションやバランスはあとからいくらでも直せるので、僕にはこのやり方が合っていましたね。無駄なポリゴンを作らずに済む点も良かったです。

『009 RE:CYBORG』のキャラクターの場合、ジョーやフランソワーズのようなツルッとしたパーツの少ない顔のモデリングが一番難しいんですよ。かっこ良く、可愛く見せるためには、パーツの位置や大きさのバランスがすごく重要なんです。ギルモア博士みたいなパーツの多いゴツゴツしたオッサン顔のモデリングは、意外と簡単です。アニメーションをつけるとなると、パーツの多い顔の方が大変なんですけどね。ハヤシさんの方法は、比較的パーツのバランスを取りやすいのでお勧めです。でも一番大切なのは、どれだけ愛情をもって観察できるかだと思いますけどね。

シワによる凹凸、頬骨のでっぱり、ヒゲなどがなく、目・鼻・口といった一般的なパーツだけで構成された、ツルッとした美少年・美少女顔のモデリングが一番難しい。ジョーの目・鼻・口の位置や大きさのバランスも、鈴木さんたちスタッフの試行錯誤を経て決定されている。

ー こういうインタビューを続けていると、多くのアーティストさんが鈴木さんのように観察することの重要性を強調なさるんですが、実際のところ、観察ってどうすれば良いんでしょうね(苦笑)。ただ漫然と対象を見ても、本当に必要なレベルの観察ができるわけではないですよね。観察力を磨くためのコツのようなものはあるんでしょうか?

自分がモデリングをしていて迷った部分を集中して観察すると良いんじゃないでしょうか。たとえば、限りなく横顔に近い斜め顔を表現する場合、向こう側にある眼はどんな風に見えるんだろうとか、マブタの厚さはどのくらいが良いんだろうとかね。ピンポイントのテーマを設定して観察する。実際の人間を観察するのに加えて、アニメのキャラクターも観察すると良い。両方を観察して、良いとこ取りをしていくんです。

ー 実際の人間を観察することで、リアルな人体の構造を理解する。さらにアニメのキャラクターも観察することで、より可愛く見える、あるいは綺麗に見える嘘の付き方を理解する、ということでしょうか。

そうです。常識的な人体の構造に則ってモデリングしておけば、どの角度から見たときにも綺麗に見えるんですよね。アニメの作画というのは、人体の構造をちゃんと勉強なさった方々が描いているから、デフォルメされたキャラクターであっても違和感がないんですよ。鎖骨(さこつ)の出っぱり具合、あばら骨の出っぱり具合、腰骨の位置など、実際の人体構造を観察することは重要です。その一方で、アニメならではの嘘や誇張表現も観察すると良い。自分が制作するうえで必要な要素を観察して、それを実際のモデリングに反映させていけば、観察力が磨かれると思います。


好きなものを愛情込めて作る方が楽しいし上達も速い

ー それでは最後に、リミテッドアニメの動きをつける際のポイントと、この業界を目指す方へのメッセージを伺って、今回のインタビューを締めくくりたいと思います。

自分の好きなリミテッドアニメをコマ送りで見て、それをドンドン真似していけば良いんじゃないでしょうか。自分の作るアニメが自分の好きなアニメに近付いていくわけですから、たまらない快感があるはずです。アニメが好きな人であれば、絶対に上達すると思うんですよ。僕自身そうやって好きなアニメを模倣してきました。Adobe After Effectsでコマを抜くだけでリミテッドアニメになるんですから、気後れせずに実践していけば良いんです。たった1コマの差でタメツメの印象が変わるリミテッドアニメの楽しさを体感してほしいですね。

結局、好きなものを作ることが一番上達につながると思うんです。たとえば僕の場合、自分の好きなアイドルの顔をモデリングしていました。練習するなら、アイドルでもアニメでも良いから、好きなものを作るのが最適じゃないでしょうか。似ていなければ自分が一番許せないと感じるはずですから(笑)。

ー アイドルでも、美少年でも、萌えキャラでも良いので、自分が一番好きな対象の形や動きを真似することから始めれば良いと?

そうそう、絶対にそれが良い。サンジゲンの規模が今より小さかった頃は、僕自身が新人の指導をすることもあったんです。そのときには「何が好きなの? キャラクター? それともロボット? トライダーG7? ゴールドライタン? じゃあ、それを作ってみよう!」って勧めてましたからね(笑)。仕事となれば設定や絵コンテを見ながら試行錯誤することになりますが、練習の内は好きなものを愛情を込めて作る方が楽しいし、上達も速いと思います。

ー 今日は楽しいお話を有難うございました。サンジゲンと鈴木さんの今後の展開にも期待しています。

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鈴木大介さん

株式会社サンジゲン
取締役/アニメーションディレクター


日本映画学校卒業後、音響・音楽担当として複数の映画制作に参加。その後CGデザイナーに転身し、ゲームのムービー制作やCGキャラクターを使った雑誌連載に従事。『ヴァンドレッド』(2000〜2002)、『ガラクタ通りのステイン』(2002〜2003)などの制作を経て、2003年よりフリーランス集団「三次元」として活動。2006年に松浦裕暁氏らと共に株式会社サンジゲンを設立。『009 RE:CYBORG』(2012)では、メインキャラクターのモデリングやアニメーションディレクターを務めている。

 

尾形美幸

フリーランスのエディター&ライター。EduCat(エデュキャット)の屋号のもと「教育」を軸足に、Webサイトや雑誌での記事執筆、教材制作などを生業とする。東京芸術大学大学院修了、博士(美術)。CG-ARTSにて、教材やWebサイトの企画制作を担当した後、2011年4月に独立。著書に『ポートフォリオ見本帳』(MdN/2011)、共著書に『CGクリエーターのための人体解剖学』(ボーンデジタル/2002)がある。