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2013/04/01更新

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プロや学生、時には教育者が一緒になってゲームを制作するGGJの参加者たち

では、参加者の声を紹介していきましょう。

まず、国際アート&デザイン専門学校の二年生で、福島会場で参加した鈴木紗綾香さん。専門学校の2年生で、将来はゲーム系、または映像系の仕事を志望しています。女子が意中のイケメンに思いを届けるアクションゲーム「突撃!バレンタインデー!」で、メインプログラマーを務めました。ゲームエンジンのユニティでつくられた3Dゲームです。

プログラミングをはじめて数ヶ月という鈴木さん。とはいえ2011年、2012年に福島県南相馬市で開催された「東北ITコンセプト 福島GameJam in 南相馬」(福島GameJam)や、FUSEにも参加するなど、GameJamの経験は豊富です。「誰かと協力して一つの作品がつくれることや、自分が頑張ったところが、すぐに結果として見えるところ」がGameJamの魅力だと言います。

今回もバージョン違いによるエラーに苦しみましたが、多くの参加者に助けられて、完成にこぎ着けました。「チームで一つのゲームをつくったときの感動はまるで、大会で1位になったような感動があります。ぜひ参加してください」(鈴木さん)

厚木会場

続いて湘北短期大学の一年生で、厚木会場に参加した坂口一華さん。患者の治療が目的のリズムタイピングゲーム「blue」で、グラフィックを担当しました。はじめてPhotoshopに触れたにもかかわらず、プログラマーに助けられて、気がついたら「気合いで慣れた」とのこと。作品が完成した達成感もさることながら、「仲間と作品をつくっていく際、私の絵が必要とされていると感じられたのが何より楽しかった」と言います。

ゲームづくりを通して「自分じゃないとできないこともある」という自信が得られたという坂口さん。将来はウェブデザイナーをめざしています。大学の伝統イベントにしたいので、来年度もぜひ参加したいと宣言してくれました。「経験や実力よりも『やる気』が大事。ぜひとも参加して「『私はこれがやりたくて、これをつくった』といえる自分をつくってください」(坂口さん)

岸本先生(東京工科大学)

一方、東京工科大学の岸本先生は「いつもは学生作品にコメントするだけなので、学生と一緒にゲームづくりをしてみたかった」とチャレンジ。GGJはプロと学生が一緒になってゲームをつくるため、実務を通した教育の場として優れており、入社後の疑似体験にもなる。そんな風に感じたと言います。

また、本当に48時間でゲームがつくれてしまったことに、改めて驚かされたそうです。完成した「幸せネズミとチーズの天国」は、過去の行動履歴がスコアアップの鍵を握る点がミソ。ワンボタンアクションでありながら、ついハマってしまう良作です。もっとも「53歳には体力的にきつかった・・・」とか。

長年プロとして活躍されてきた岸本先生。その立場からも「GGJは学生にとって、とても大きな学びの場で、一つのゲームをつくり上げた達成感が感じられる場だと確信した」と語ります。学生には何か一つ、スキルを磨いてから参加してほしいと補足していました。


百聞は一見にしかず!参加してみると分かるその魅力

ところで、GGJはなぜ短期間にこれだけの成長が可能だったのでしょうか? そこには幾つかの要因が考えられます。

まず2000年代後半に起きた「ゲーム開発の民主化」現象です。高性能で無償なゲームエンジンが普及し、スマートフォンなどのデジタル配信プラットフォームが拡大した結果、誰もがゲームをつくって世界に向けて販売することが可能になりました。その結果、ゲーム開発者の裾野が急速に広がり、ゲーム教育に対する需要も拡大しました。これらが世界規模のインディゲームブームにつながり、GGJの追い風となっています。

つぎにGGJが当初からコンテストではなく、人材教育を主眼においたことです。そのため各会場が各々の事情にあわせて、自由に細部を改変できます。48時間をフルに使って開発する会場から、夜間は強制的に閉鎖する会場、学内参加者のみの会場、イベントやワークショップと組み合わせる会場など、さまざまです。このような自由度の高さが、会場の増加に貢献しているといえるでしょう。

また産学官連携によるゲームを通した街おこし・国おこしと、GameJamが結びつきやすい点もポイントでしょう。2012年に英グラスゴーで職業訓練の一環として開催された「ScotishGameJam」や、南米チリで開催された「Video Games Extreme Workshop」はその好例。日本でもGGJをきっかけに「福島GameJam」が独立しました。これらの参加者が年に一度のお祭りとして、GlobalGameJamに集結する、というわけです。

一方でGGJが掲げる「多様な参加者による集団の学び」が、本当に人材教育に効果があるのかという疑問は、以前から提示されていました。そこで今年度は、新たにGGJ研究委員会が発足。GGJ2013参加者を対象に、世界規模のアンケート調査が実施されています。どのような調査結果がまとまるのか、注目したいところです。

ただ一ついえるのは、GGJは参加者全員がハッピーになれるイベントであること。そして参加者の中から、新しい運営リーダーを排出する機能がある点でしょう。福岡会場の運営責任者を務め、今では日本のリージョンコーディネーターとして各会場を束ねる金子晃介氏はその好例。もともとオランダ留学中に現地でGGJに参加し、日本にノウハウを持ち帰ったことが、GGJ2011で福岡会場が発足するきっかけとなりました。

一方金子氏はCEDEC2010のインタラクティブセッションで、「海外での参加体験談を基にした国際イベントGlobalGameJamの紹介」と題してポスター発表。これに湘北短期大学の高木亜由子先生が興味を持ち、GDC2011で八王子会場に参加。この体験が元になって、GDC2013の厚木会場立ち上げに至りました。全世界で会場が増えている背景には、こうしたポジティブスパイラルも多いに貢献しているといえそうです。

初年度以降、右肩上がりで成長を続けるGGJ。来年度はどれだけの規模になるのでしょうか。ぜひ一人でも多くの人に参加して、この経験を共有して欲しいと願っています。


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小野憲史

平日は主夫業に忙しいゲームジャーナリスト。雑誌『ゲーム批評』編集長を経て2000年よりフリーランスで活動中。Webを中心に業界レポート、インタビュー、コラムなどを発表している。主な連載に「小野憲史のゲーム評評」(inside)など。著書に『ニンテンドーDSが売れる理由』(共著)『ゲームニクスとは何か』(構成協力)がある。IGDA日本・SIG-Glocalization共同世話人。