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2013/02/20更新

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現場の第一線で活躍する制作会社の代表の皆さんに、実際にCG-ARTSの検定を受験いただいて、制作現場において検定の内容は役立つのか、検定の合格を目標に知識を学ぶことは意味があるのかなど、ご自身の体験を通して感じた率直な思いをインタビューしました。

今回ご協力いただいたのは、「自分たちの理想とする開発者集団を自分たちの手でつくろう」という信念のもとにゲーム開発を手掛けている株式会社リズの磯野社長。「妥協は死」の社訓を胸に、CGプロダクションとアニメーションスタジオの混血児として活動している神風動画の水崎社長。ゲーム制作を通じ、すべての人にとって「大切なモノ」と感じてもらえるようなモノづくりを目指す、エンタテインメント企業unico(ウニコ)の林社長です。真剣勝負で挑んだ「検定社長対決」の結果はいかに!

満点をとるまで挑戦し、知識を増やす

ー 今回CGエンジニア検定ベーシックCGクリエイター検定エキスパートを受験していただきましたが、受験した感想をお聞かせいただけますでしょうか。

磯野:

満点をとることは難しいと感じました。資格試験なので合格すると再受験はしないと思いますが、知識を増やす意味では、満点をとれるまで何度でも挑戦してほしい内容だと思っています。

unico 林社長

林:

今回は難しかった。毎回みなさんが思われるかもしれませんが。

水崎:

合否そのものよりは合格しようとするために、受験勉強することが大事だと思います。ある程度経験を積んだ人には、解答しづらい問題もあるかもしれませんが、これからCGを学んでいく人には良いきっかけになるのではないでしょうか。

磯野:

僕が覚えているのと違う表現をしている用語がありました。知るかそんなもの!と正直思いました(笑)。問題そのものが難しいということではなく、同じ技法でもソフトウェアによってよび方が異なっていたりするので、そのあたりを解釈することがやっかいでした。ただ、用語がいろいろあるのもこういった業界特有なことなので、これから勉強する人はテキストに沿って覚え、実践しているときに、あのとき覚えたことはこれを表しているんだと結び付けられれば良いと思います。

株式会社リズ 磯野社長

林:

会社ごとにローカル言語もありますしね。

水崎:

方言の違いですね。でも勉強していて、ちょっとだけいらいらしました(笑)

ー 皆さん、合否結果が気になると思いますので、さっそく発表します。CGエンジニア検定ベーシックは皆さん1問間違いで同列1位です。CGクリエイター検定エキスパートは、皆さん8割以上の正解率で大接戦の末、林さん、磯野さん、水崎さんの順になりました。両検定とも皆さん合格です。おめでとうございます。

磯野:

満点をとるつもりだったのですが、解答発表と同時に自己採点をしてみたら、不正解の問題が数問あったので、なんで俺は満点がとれなかったんだ!!って落ち込みました。

林:

当然、満点を狙っていましたが、試験直前には満点はとれそうにないな、と感じていました。

神風動画 水崎社長

水崎:

アニメーション監督なのだからCGクリエイター検定は断トツでいこうと思っていました。CGエンジニア検定は、正直捨てていました。断トツになったところを妄想しては、ニヤニヤしていたのですが、捨てたCGエンジニア検定のほうが、1問不正解で皆さんと同じ点数だったので驚きました。

 

表現したいものの数だけ方法や手段はある

ー 知識、問題解決能力、知識の応用力を問うことを目的に、作例を表示してその問題点を解決する方法や制作方法、また用語の意味などを問う問題など多種多様な形式の問題を出題していますが、用語問題についてとくに印象に残ったものを教えていただけますか。

水崎:

先ほども話にでましたが、ソフトウェアによって概念や用語のよび方が異なっていたりするものもあるので、そういったことを問いている問題は解答しづらかったですね。

磯野:

たとえばですが、親子関係の概念の問題とか。見た瞬間にいらいら(笑)したので、後回しにしました。いまのソフトウェアがかしこすぎて、こちらの意図する拡縮を子供に対して勝手にというか適切にしてくれたりしますので、使うソフトウェアによって違うと思います。

水崎:

僕は、その問題で時間を使ってしまいました。試験のように時間制限のある場合は、後回しにするなどして、一息おいてからクールな頭で解くのが良いですね。この問題には、翻弄されました(笑)。ただ、テキストにはソフトウェアに依存せずに基本的なことが書かれているので、テキストをしっかり読んでいれば問題はありません。

磯野:

あと、HDRIが出題されていましたが、問題を見たとき「HDRIって何?」って思いました。正解答の選択肢は「屋内の狭い空間で卓上ライトなどに照らされるCGモデルの表現には適していない。」と記述されているんですが、いやいや適しているんじゃないか、と思いまして...。間違えました。

水崎:

あまり使わないですね。過去問題集には何回か出てきていましたが。

磯野:

HDRIって何のことですか?

林:

ハイダイナミックレンジイメージですね。

磯野:

ああ、そのことですか!いやね、HDRIって略して書いてあるから、だめなんです。ハイダイナミックレンジイメージ、って書いてくれていればよかったんです。勝手に略さないでください!

林:

まあまあ、メジャーな話ですけど(笑)。

水崎:

う~ん、でも確かに磯野さんがおっしゃる通り「屋内の狭い~表現には適していない」とは限らないですよね。

林:

そうですよね。それをあえてやることで魅力的な画ができるかもしれないですからね。

磯野:

リジッドボディも聞いたことがありませんでした。なにこの用語って。自分が覚えている用語が違うよび方で表現されていたりするので少し戸惑うこともありましたが、選択肢のなかに1つ、2つ知っている用語があれば消去法で解答できたり、という試験に勝つ方法的なことはありますね。

水崎:

適切な用語の組み合わせを選択させる問題も、選択肢の組み合わせをみていると解答できちゃう。

林:

10個ぐらい選択肢があると困っちゃいますけどね。

水崎:

そんなときは、鉛筆コロンです(笑)というのは冗談ですが。布特有のしなやかさを表現するクロスシミュレーションが出てきていましたが、僕はね、物理演算など生ぬるいことはしません。手付けしちゃいます。クロスシミュレーションとかしたことはないです。

磯野:

はい、確かに。クロスのパラメータをいじるぐらいなら、手付けしちゃいますね。きれいに手で動かしちゃう。とはいえ、知識としては知っておいたほうが良いですね。

水崎:

クリエイターの癖が強い人ほど、点が低いかもしれませんね。俺の道みたいな(笑)。

 

ー 手付けしちゃうとは何とも頼もしいですね。技術と知識の両方を兼ね備えているからこその力技でしょうか(笑)。そういったことも含めて、実際の制作で起こりえる問題を、問題として認識する実務能力や、問題点を解決する能力が現場では求められるかと思います。CGクリエイター検定では、そのあたりの能力を図るための問題も出題していますが、いかがでしたでしょうか。

磯野:

モーションブラーが適用されたモデルの画像をみて、この作例方法を解答させる問題がありましたが、これは悩みました。

林:

作例をみる限りではおそらくモーションブラーを適用したもので、まさしく正解答の「時間軸方向への確率的サンプリングを行っている」のだろうなとは思いつつも、ほんとうにこの図がモーションブラーで作成されたものなのか、いまひとつ確信がもてませんでした。

水崎:

通常はモデルにアニメーションを設定して作成することが多いよな...と悩みつつ、頭を柔らかくして考えて、モデルにアニメーションを設定しないでこうするとしたら、カメラを動かすのかな、と思ったんですけど。

磯野:

真ん中のモデルが止まっているんですよね。

水崎:

そうなんです。真ん中が止まっていて、前後がぶれているので、まわり込んだのか、じゃあ床がぶれるはず。と考えた結果、間違えました。

磯野:

「時間軸方向への確率的サンプリング」をすれば、アニメーションを設定しなくても適用されるので、誤答の選択肢の「モデルにアニメーションを設定した場合にのみ」の「のみ」がひっかけだったのかな、と。
確かに試験問題上は正解答は1つに絞れるのですが、正解答以外が間違いと思われるのは、正直厳しいですね。制作手法はいろいろありますし、実制作の現場では、そのときの環境や諸条件のもとで作業をすることになるので、その時々で適した手法も変わってきますからね。

水崎:

マテリアル設定に関する問題で、屈折率の高いビー玉のような重なり方をしているシャボン玉のモデルを、ごく薄く背景の歪みが少ない中身のないシャボン玉に変更させる方法を選ばせる、まさしく問題解決能力を問う問題がありましたね。もちろんこの問題は、表現したい結果が掲示されているので、それにあった実現方法を選択肢から選びますが、実制作の現場では、表現したいと思う結果は、監督やディレクター、個人の主観が影響するので、実現させる表現手段は何通りもあると思います。ですから、正解答がすべてだと思うのではなく、何通りかある手法の中の1つとして覚え、それ以外の表現手段もあるということを知っておいて欲しいですね。

林:

水崎さんがおっしゃるとおり、試験問題上は条件設定がされているので条件に合うようにするための方法を選択肢から選びますが、実際、シャボン玉のモデルにしても、写真のように表現したかったり、絵画っぽく表現したかったり、表現は人によって当然変わるので、表現したいものの数だけ方法や手段はあるのだと思います。

ー 音による演出の問題で『迫力と緊張感を演出するために、画面に迫るジンベイザメの映像をスローモーションで表現し、この映像に組み合わせる音声効果として適さないもの』を選ばせる問題がありましたが、こういった表現的なことを問う問題はいかがでしたでしょうか。

水崎:

表現的要素が強い問題で不正解になると、あれって思っちゃいますね。過去問題集で同じ設問があったので、正解することはできましたが、誤答のジングルでも良いんじゃないでしょうか。

林:

そうそう、ジングル次第ですよね!

磯野:

この画にぴったりあう見事なジングルをつくる人もいると思います(笑)。スローモーションのときは、ナレーションのほうがだめだろう、とナレーションを解答しました。スローモーション中に、ナレーションだけがリアルだと違和感があるので。

林:

表現方法とか感覚みたいなものは、問題にしづらいのもそうですが、人と違う感覚をもっている人が不正解になるのは、ちょっとね。そんな優しいことを言わなくてもいいかもしれませんが、99%の正答率のなかで間違った1%の人は、何か変わった考えを持ち合わせているかもしれませんしね。

磯野:

ただ、表現技術の基礎ではあるので、一回はきちんと勉強しておいたほうが良いな、とは思います。基礎の蓄積が応用につながりますから。ただ、やはり感覚・表現に関する問題は、正解が非常に難しい。もちろん試験問題なので客観的な判断をもとに正解答が1つに絞りこめるように出題されていますが、現場では求める効果に対して幾通りもの方法があり、その選択はクリエイターの感性に依存する部分も大いにありますからね。でもあくまでも試験ですから、白黒グレーのどれかといえば、白を選択することが賢明です。ん~でも、ジングルの問題は腑に落ちないなぁ(笑)

林:

実際に音として聴けたら、もう少し判断しやすいんですけどね。

水崎:

この画に合うジングルもあるはずですからね。

 

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磯野貴志さん

株式会社リズ
代表取締役


1992年株式会社セガ・エンタープライゼス(現・セガ)にデザイナーとして入社。AM2研配属。バーチャファイター2などのプロジェクトに参加。1995年セガサターン版バーチャコップで初ディレクター。1998年株式会社リズ設立。SCEIのセカンドパーティーとしてPS2ゲームの開発に携わった後に完全独立。 以降は、セガ、サミー、バンダイナムコ、スクウェア・エニックス、タイトー、カプコンなど、大手パブリッシャーから直接業務委託を受けて、数多くの作品を開発。 また海外案件も積極的に受注。さらに2010年には自社開発、販売のPSP作品もリリース。 現在に至る。

水崎淳平さん

神風動画
代表


1973年生まれ。京都造形芸大を卒業後、DTPやゲーム制作、セルアニメーション業界を経て、メディアの壁を超えた作風を武器に神風動画を設立。代表作は”ジョジョの奇妙な冒険”オープニング、EXILE”BOW & ARROWS”MV、安室奈美恵”Dr.”MV、”FREEDOM” オープニング、”ドラゴンクエストIX”オープニング等。 座右の銘は「妥協は死」。

林圭一さん

有限会社ウニコ
代表


1973年、東京都出身。幼少期は秋田県で過ごす。DTP制作を経て、1998年株式会社リズにプログラマーで応募するもデザイナーとして入社。ゲーム開発におけるデザイン業務は一通り経験。2004年フリーランスとして独立後、2006年有限会社ウニコ設立。アートディレクターからディレクターにシフトしつつ、ゲーム以外でも面白そうなものには積極的に参加中。猫とバルセロナが好き。