2012/5/30更新

リポーター/尾形美幸

FMX(Film and Media Exchange)は、映像制作の教育機関であるドイツのフィルムアカデミーが主催する国際カンファレンスです。FMXの存在は、残念ながら日本のCG業界関係者にはあまり知られていません。しかし、開催地であるドイツを中心としたヨーロッパや北米、オセアニア、東南アジアなどに拠点を置く多くのプロダクションや教育機関の人々は、FMXをリサーチやリクルーティング、ネットワーキングの貴重な機会と認識しており、その盛り上げに協力しています。

今回で17回目の開催となったFMX 2012には、連日約3,300人の参加者が50ヵ国から訪れました。24ヵ国、329人の発表者がセッションを行い、その一部はライブストリーミングによって全世界に配信され、25ヵ国、約12,000人が視聴しました。いくつかの映像は、オートデスクが運営するAREAというWebサイトで視聴することができます。今回特に注目を集めたのは、バーチャルプロダクションやクラウドレンダリングを導入した最新のプロダクション事例や、『ジョン・カーター』『ヒューゴの不思議な発明』などの大作映画のメイキングセッションでしたが、その裏では各国プロダクションや教育機関による熱を帯びた人材獲得競争や広報活動が行われていました。ここで取り交わされていた情報は、海外プロダクションへの就職を視野に入れている日本のプロフェッショナルや学生、国内プロダクションの経営者や採用担当者、教育機関の指導者にとっても有益なものだと筆者は感じました。

今回のスペシャルリポートでは、人材育成というテーマにフォーカスしてFMX 2012の様子を紹介します。なお、FMXの概要と昨年の様子については、FMX 2011のリポートで紹介していますので、そちらも合わせてご覧いただければ幸いです。

FMX 2012, the 17th Conference on Animation, Effects, Games and Transmedia
開催期間:2012年5月8日〜11日/開催地:ドイツ、シュトゥットガルト
主催:Filmakademie Baden-Württemberg

世界各地のプロダクションによる、積極的なリクルーティング

FMXは教育機関が主催するカンファレンスなので、学生の占める割合が高いという特徴があります。今年の参加者の内訳は、60%がプロフェッショナル、40%が学生でした。これらの参加者に向けて、世界各地に拠点を置くプロダクションが連日積極的なリクルーティングを行っていました。今年は23のプロダクションがリクルーティングハブとよばれるブースを設け、その多くがセッション形式のプレゼンテーションも実施しました。

各プロダクションがプレゼンテーションで語った代表的な内容は次の通りです。
1.自社の紹介(沿革、スタジオの所在地や数、所属するスタッフ数、アカデミー賞の受賞歴など)
2.自社ならではの魅力(他社ではなく自社で働く価値)
3.過去に関わった作品や進行中の作品(ほとんどのプロダクションが紹介映像(リール)を上映)
4.現在募集中の職種(モデラー、アニメーター、テクニカルディレクター(TD)など)
5.応募に関連する注意点(現場で通用する能力の磨き方、デモリールの作り方、情報の集め方など)
6.インターンシップ制度(期間、募集職種、研修内容、応募〆切など)
7.FMX 期間中に自社が行う他セッションの概要や、出展ブース情報

たとえばロンドンやニューヨークに拠点を置き600名以上のスタッフが所属するFramestoreは、自社の魅力として、VFXだけでなくコンセプトアートやプレビジュアライゼーションの段階から、映画『War Horse』や『Battleship』などのプロジェクトに関わってきたことを強調していました。ニューヨークにほど近い距離にあり、映画『ICE AGE』シリーズなどの制作で知られるBlue Sky Studiosは、自分の最良の仕事(Best Works)と、他者に負けない自分の最大の強み(Best Advantage)をデモリールで示すようにと伝えていました。

Framestoreのリクルーティングハブ。多くのプロダクションが、ジュニアレベルから経験豊かなシニアレベルまで、幅広い人材の応募を受け付けていました

Blue Sky Studiosのプレゼンテーションの様子。プロとして働き続けるための心構えを丁寧に解説していました

Walt Disney Animation Studiosのリクルーティングハブ。同社のセッションでは、インターンシップやトレイニープログラムのメンターで、現役のアーティストでもあるスタッフ達が、過去のプログラム参加者のデモリールをレビューしました

ベルリンを中心に展開するRISE | Visual Effects Studiosのリクルーティングハブにて、PCで再生したデモリールをリクルータに評価してもらう応募者達。他のプロダクションのハブでも、連日このような面接が行われていました



前述のようなリクルーティング目的のプレゼンテーションに加えて、プロダクションによる人材育成をテーマとしたセッションも複数実施されました。How to Build and Maintain a Creative Staff(いかにして創造的なスタッフを育て、維持するか)というタイトルのセッションでは、Prime Focus WorldBlue Sky StudiosWalt Disney Animation StudiosSony Pictures ImageworksLucasfilm Singapore のリクルーティング担当者によるパネルディスカッションが行われ、スタッフの成長やキャリア継続のために組織はどうサポートするべきかをテーマに意見が交わされました。業界を牽引するプロダクションに所属するスタッフから、人材育成に対する考え方を直接聞ける貴重な機会に、多くの学生が真剣に聞き入っていました。「新たな経験を積めるチャンスを提供する」「シニアレベルとジュニアレベルの人材をバランスよく混ぜ、コラボレーションを促す」「パイプラインの複雑化で、アーティストが専門性に特化しすぎる傾向にある。たとえばアニメーターならカメラワーク、エフェクトTDならシミュレーションなど、第二の能力を磨くことで他のスタッフとのコラボレーションの機会が増え、さらなる成長につながる」といった意見が出されました。スタッフの成長のためには、本人の努力に加え組織のサポートも必要だという点では、パネリストの意見は一致していた点が印象的でした。

Prime Focus WorldBlue Sky StudiosWalt Disney Animation StudiosSony Pictures ImageworksLucasfilm Singaporeのリクルーティング担当者によるパネルディスカッションでは、人材育成をテーマに意見が交わされました

地元シュトゥットガルトを中心に展開する、Mackevision Medien Designのリクルーティングハブ。極めて実物に忠実な自動車映像の制作を得意としており、同市に本社を置くメルセデス・ベンツのプロモーションを多数手掛けています