2012/5/30更新

リポーター/尾形美幸

フィルムアカデミーの学生による、質量共に充実したプレゼンテーション

FMXでは例年、プロダクションだけでなく各国の教育機関も積極的な広報活動を行います。前述のプロダクション同様、セッション形式のプレゼンテーションを実施する教育機関もあります。とりわけ、FMXを主催するフィルムアカデミーの在学生達が自身の作品を紹介する「フィルムアカデミープロジェクト」の内容は質量共に充実しているため、筆者は毎年このセッション群を楽しみにしています。

同校にはコンセプト&アート、アニメーション&エフェクト、インタラクティブメディア、テクニカルディレクター(TD)など、多彩なコースがあります。その中で、同校が現在特に力を入れてプロモーションしているのがTDを養成するコースです。これはコンピュータサイエンスの学士号取得者を対象とした30ヶ月のカリキュラムで、ドイツ国内でも他に類を見ない試みだそうです。ドイツ以外の学生にも広く門戸を開いているため、授業は主に英語で行われます。TDコースの学生はアニメーションなどの他コースの学生を支援するツールやプラグインを開発し、作品制作のための本格的なワークフローやプロダクションパイプラインを構築することで、R&D(研究開発)に必要なスキルの修得を目指します。

「フィルムアカデミープロジェクト」のTDコースの学生によるプレゼンテーションでは、MAYAでのキャラクターリギング、Houdiniによるパーティクルのシミュレーション、MAYAからSoftimageへのデータコンバート、Arnoldでのシェーディングとレンダリングなどの実践過程や成果が発表されました。技術レベルの高さに加えて、聴衆にわかりやすく伝えるプレゼンテーション能力の高さにも感心させられる内容でした。

TDコースの学生によるプレゼンテーション。このスライドでは、MAYAでのキャラクターリギングの概要を紹介していました

TDコースの学生によるプレゼンテーション。左端の砂嵐はHoudiniによるパーティクルで、左から4番目のシェーディングはArnoldで制作されていました

アニメーションコースの学生によるプレゼンテーション。このスライドでは、コンセプトを組み立て、キャラクターのデザインを決定するまでの過程を紹介していました

アニメーションコースの学生によるプレゼンテーション。多くの映像やゲーム作品が、TDコースの学生とのコラボレーションを経て制作されていました

各国教育機関による、広報活動と学生獲得競争

Animation Sans Frontieresと、それを運営する4つの教育機関を紹介するブース。左手前のスペースには数台のiPadが設置され、学生作品を自由に閲覧できるようになっていました

スクールキャンパスとよばれるブースには、28の教育機関が出展していました。その中から、筆者が特に注目した2つの機関を紹介します。

1つはAnimation Sans Frontieresという、映像制作を学ぶヨーロッパ全土の学生を対象とした8週間の教育プログラムを実施する組織です。このプログラムは、フィルムアカデミー(ドイツ)、MOME(ハンガリー)、アニメーションワークショップ(デンマーク)、ゴブラン(フランス)という、ヨーロッパを代表する4つの有力校が協力して実施しています。ヨーロッパ全土から選抜された全16〜18名の参加者は、各校で実施される2週間ずつの講義やワークショップの全てに参加しながら、ヨーロッパのアニメーションマーケットについての知識を深め、各国のプロフェッショナルや若い才能と交流します。プログラムでは、テレビ、映画、ゲーム、インタラクティブメディアなど、多様な表現媒体を扱い、それらを結びつける展開(いわゆるクロスメディアやトランスメディア)についても教育していきます。ヨーロッパ全土から才能ある学生を発掘し、国境を越えて活躍できる人材を育てるとともに、その活動を通して各校の知名度向上や教育力強化も実現できる、可能性に溢れた試みのように感じました。

ニュージーランドから出展していたメディアデザインスクールのブース。Weta Digital との強力なコネクションや、即戦力教育を意識したプロジェクトベースのカリキュラムをアピールしていました

もう1つは、メディアデザインスクールというニュージーランドの教育機関です。多国籍の教育機関が並ぶスクールキャンパスの中でも、特に遠方からの出展で目を引いたので、話を伺ってみました。同校はニュージーランドを代表する映画やゲーム、グラフィックデザイン、Webデザインの教育機関で、世界50ヵ国以上から学生を受け入れています。最大の特徴は、ニュージーランドを代表するプロダクションであるWeta Digitalとの強力なコネクションで、同校の学生がWeta Digital のスタッフから制作現場の手法を直接学べる機会もあるようです。プロジェクト(作品制作)ベースの少人数教育を行っており、卒業生や在校生は『アバター』や『タンタンの冒険』、現在制作中の『ホビットの冒険』といったWeta Digitalが手掛ける大作映画の制作に関わっています。FMX期間中、同校はブース出展に加えて2度のプレゼンテーションも実施しており、カリキュラムや卒業生の活躍を積極的にアピールしていました。

FMXはプロダクションが優秀な人材を獲得する場であると同時に、教育機関が自校の存在をプロダクションにアピールし、FMXに参加しているモチベーションの高いプロフェッショナルや学生に対して、更にステップアップするための学びの機会を提案する場としても機能しているようです。

今回のFMX 2012のリポートは、特に人材育成というテーマにフォーカスしてお届けしました。ヨーロッパや北米、オセアニアの各国プロダクションと教育機関は、積極的に協力関係を結び国境を越えたリクルーティングや教育プログラムを展開しています。FMXは、それらの展開を促進するための重要なハブになっていると筆者は感じました。本稿が、各国の人材育成事情に対する読者の興味を更に高めることに寄与できれば幸いです。

来年のFMXは2013年4月23日〜26日に開催されます。より多くの日本のプロダクション関係者や教育者、学生が参加し、FMXの価値を体感されることを願っています。