2011/05/25更新

リポーター/尾形美幸

今回からスタートするスペシャルリポートでは、CG教育に関する特別リポートを不定期でお届けしていきます。第1回目は、5/3〜5/6にドイツ バーデン・ヴュルテンベルク州の州都である、シュトゥットガルトで開催されたFMX2011をご紹介します。

欧米の大手プロダクションが参加する、学生のための国際カンファレンス

FMXは“Film and Media Exchange”の略で、アニメーション、エフェクト、ゲーム、インタラクティブメディアを扱う、国際カンファレンスです。第1回は1994年に開催され、第16回となった今回は、過去最大規模での開催となりました。期間中の4日間に、連日約3,500名が世界49ヵ国から参加し、講演者は250名を超えました。地元ドイツを中心としたヨーロッパ各国に次いで、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドから、多くの専門家と学生が来場しました。FMXの知名度は、日本では決して高くありませが、近年目覚ましい成長を続けており、CG・VFX分野における、最も影響力のある国際カンファレンスの1つとなっています。

会場となったHaus der Wirtschaft(右)と、Gewerkschaftshaus(左)

Haus der Wirtschaft内にある、1番広いカンファレンス会場Photographer: Reiner Pfisterer

FMXは、ドイツの有力な映画の総合スクールであるバーデン・ヴュルテンベルク州立フィルムアカデミーが主催しています。そのため、学生への情報提供をとても重視しているのが最大の特徴です。参加者の約40%を学生が占めており、エントリーレベル向けの仕事内容紹介や、リクルーティング目的のセッションが充実している点が、学会色の強いSIGGRAPHや、専門家色の強いGDCなどの、他の国際カンファレンスとの大きな違いと言えます。

フィルムアカデミーのブース

セッションには、地元ドイツのローカルなプロダクションはもちろん、ピクサー、ILM、ディズニー、MPC、ダブル・ネガティブ、Electronic Arts、Crytekなど、欧米やアジアで多国籍に展開しているCG・VFX・ゲーム分野の大規模プロダクションも多数協力しており、とても中身の濃い、贅沢な内容となっています。そのため、プロにとっても情報収集とネットワーク(人脈)作りの重要な場と認識されているようです。セッションの参加費は、学生が参加しやすいようにとの配慮から、250〜300ユーロ程度(学生の場合は学割が適用されるので、さらに安くなります)に抑えられています。前述のSIGGRAPHやGDCと比較すると、セッション内容に対して参加費がとても安い印象を受けます。

ハリーポッターの最新作などを事例に、学生が学ぶべきポイントを解説

誰もが知っている有名なハリウッド映画のメイキングや、大手プロダクションによるセッションに、とりわけ多くの人が詰めかけるのは、SIGGRAPHやGDCでもお馴染みの光景です。今年のFMXでは、7月に公開されるハリーポッターシリーズの最新作を題材としたILMやMPCなどによるメイキングや、テーマパーク用のキングコングの立体視映像に関するWeta Digitalのメイキングが注目を集めていました。

ハリーポッターシリーズのセッション
Photographer: Reiner Pfisterer

キングコングのセッション
Photographer: Reiner Pfisterer

人気のあるセッションの開場前は、上写真のように
廊下が人で溢れかえっていました

S3D(立体視)のセッションに参加している人たち
Photographer: Reiner Pfisterer

ただし、これらセッションの内容には、FMXらしい傾向が見られました。最新事例を題材にしつつも、紹介されるワークフローや手法、技術は、多くのプロダクションで採用されている一般的なものであり、しかも、制作工程全体を俯瞰(ふかん)するような大枠の(大雑把と言っても良いような)説明に留められていました。エンジニアによる革新的な試みの紹介や、技術の新規性を誇るSIGGRAPHとは対照的な、アーティスト向け、エントリーレベル向けの内容となっていました。そして、セッションの要所要所で、その仕事を行うにあたって、学生に何を学んでおいて欲しいかといったメッセージが差し挟まれていました。

たとえば、ディズニーによる「Tangled」(邦題「塔の上のラプンツェル」)のメイキングでは、同社が培ってきた伝統的なプリンセス映画のスタイルを、最新のフル3次元CGアニメーションと違和感なく融合させるために、アーティストたちがどのような試行錯誤を行ったかを紹介していました。直線ではなく曲線を主体として構成されてきた手描きアニメーションの世界観やキャラクタの表情を、フル3次元CGで再現するためのアニメータたちの挑戦が、トライ&エラーの経過を織り交ぜつつ、解説されていました。

各社の採用事情を比較できるリクルーティング・プレゼンテーション

「リクルーティング・プレゼンテーション」と題されたセッション群では、3日間に分けて14のプロダクションが、職場環境や、仕事内容、採用基準などを30分〜1時間かけて紹介していました。

ピクサー、ディズニー、ドリームワークスといったアメリカのメジャーなプロダクション、Framestore、MPC、Double Negativeなどのハリウッド映画も制作しているロンドンのプロダクション、rise | FX、Mackevision Medien Designなどのドイツのローカルなプロダクションなど、多様な仕事内容と規模のプロダクションが参加していました。

大規模プロダクションの多くは、自社の華やかなデモリールを上映しながら、メジャーなハリウッド映画の制作に日常的に関われることを、積極的にアピールしていました。加えて、日々の仕事をこなすだけでなく、社員向けの充実したトレーニングプログラムのサポートによって、学びと成長の機会も十分に得られることを強調していました。これとは対照的に、ローカルな小規模プロダクションは、未経験の学生にも広く門戸が開かれていること、新人でも様々なチャンスが与えられること、仕事の全行程を俯瞰(ふかん)して見られることなど、規模が小さいゆえのメリットを強調していました。

スペシャリストを募集するのと並行してジェネラリストも募集していること、アーティストとエンジニアの橋渡しをするテクニカル・ディレクター(TD)の需要が多いこと、などは多くのプロダクションに共通する最近の傾向のようでした。

MPCのリクルータに、FMXでリクルーティングを行うメリットについてインタビューしたところ、つぎのように答えてくれました。
「私たちは、優秀な人材を常に求めています。とくに数学や物理をしっかり学習している人は貴重です。FMXには優秀な学生が多く集まってきます。また、他のプロダクションの多くの才能ある人々とのネットワークも構築できます。少人数のチームで来場して、多くの収穫が得られるので、FMXに参加する意義はたいへん大きいです」

プロダクションのリクルーティング用ブースが並んでいる

リクルーティング・プレゼンテーションでは、各社の採用事情を比較することができるので、学生にとっては、自分に合ったプロダクションを探したり、自分の強みや弱みを見直したりする、良い機会になるのではと感じました。また、プロダクションのリクルータにとっても、各社のリクルーティング事情やノウハウを知る、貴重な機会になっているのではないでしょうか。