2011/08/17更新

本連載ではゲーム業界の人材教育・キャリアパスについて、第一線で活躍されている方へのインタビューを通して、さまざまな角度から紹介していきます。第12回で登場いただくのは、イメージエポックでUIデザイナーとして活躍されている、石渡純さんと島洸生さんです。UIデザイナーという、業界でも確立途上のポジションで働かれているお二人に、仕事の内容や学生時代のエピソードなどについて伺いました。

仕事の内容を教えてください

石渡:弊社で6名いるUIデザイナーの先輩格として、さまざまなゲームのUIデザインに係わっています。2Dデザイナー(ドッター)として入社しましたが、当初からUIデザインに関心がありました。ロゴデザインの仕事を任されたことを契機に、次第にUIデザインにも係わるようになったんです。「Fate/EXTRA」から専任のUIデザイナーとなり、最新作「最後の約束の物語」も手がけました。

島:石渡さんの下で働いています。最初はキャラクタデザインや背景デザインなどを担当していましたが、「ワールド・デストラクション」からUIデザインを手がけるようになり、「Fate/EXTRA」「最後の約束の物語」にもUIデザイナーとして参加しました。最初はUIデザインについて、何も知らなかったので大変でした。今も修行の毎日です。

フェイト/エクストラ
(C)TYPE-MOON (C)2010 Marvelous Entertainment Inc.

(c)Imageepoch

UIデザイナーって何ですか?

石渡:ひらたくいえば、UI(ユーザ・インタフェース)をデザインする専任のアーティストのことです。UIといっても、さまざまな意味がありますが、ゲーム業界では一般的にメインメニューや、RPGのHPゲージ、MPゲージ、ダメージ数値といった、画面上に表示される情報類(※1)を指します。

(※1)これらの情報を総称して、HUD(Head-Up Display)とよぶこともある。

もう少し俯瞰すると、UIデザイナーとは「ユーザが快適にゲームを遊ぶための情報を、適切にデザインして、ゲーム画面に落とし込む仕事」と言えるかもしれません。もっとも、業界的に確立されたポジションというわけではなく、会社によっては2Dデザイナーが兼任している場合もあります。

UIデザイナーの魅力は何ですか?

石渡:ユーザはゲームのプレイ中に何千回、何万回とUIを参照するので、UIの完成度はゲームの操作性や快適性に直結します。一方、ほとんどのゲーム画面には、何かしらUIが表示されているので、UIは世界観を表現する要素の1つでもあります。つまりUIデザイナーには人間工学的な観点と、グラフィック的な観点の、両方が求められます。そのため、非常にプレッシャーが大きいんですが、評価された時は喜びもひとしおですね。

島:UIデザインは他のパートに比べて、ゲームを作りあげていく感覚が、強い印象があります。ゲームデザイナーやプログラマと意見交換をしながら、何度も作り直しを重ねて、熟成させていくんです。責任重大なポジションなので、大変なところはありますが、そこが一番の魅力ですね。

UIデザインの手順を教えてください

石渡:プロジェクトに配属されたら、はじめにプロデューサー、ディレクター、アートディレクターと、ゲームのコンセプトや世界観を話し合い、その内容に沿ったUIデザインを、コンセプトアートとして提示します。

たとえば今回のゲームは「モダン」であるとか、キーカラーは緑色だとか、フレームにアール・デコ風の装飾を使うとか、ざっくりとしたキーワードの部分ですね。その内容に基づいて、ゲーム全体の鍵となるUIデザインを提示するんです。

この作業と平行して、ゲームデザイナーがゲームの仕様を作っていきます。そこでバトル画面なら、こういった要素が必要だとか、ポイントとなる要素はこれなので、目立つ場所に配置してくださいとか、そうした指示がなされます。ゲームデザイナーから仕様書が上がってきたら、その内容に基づいて、画面レイアウトをデザインしていきます。

画面レイアウトが完成したら、プログラマに実装してもらうための指示書を作ります。このアイコンは画面の端から何ピクセル目に配置してくださいとか、この枠内には、これくらいの大きさの文字がいくつ入りますとか。このボタンを押すと、こんな風にエフェクトが発生したり、モーションデータが再生されますとか。そうした指示書をもとにプログラマと相談しながら、実装してもらいます。

これらが一通り終わったら、実際にテストプレイをして調整します。ただ、ゲームを作りながら仕様が二転三転するのはしょっちゅうなので、そのたびに作り直していきます。マスターアップ直前まで、バタバタしていますね。これまでに担当した開発の中には、数え切れないくらい作り直しをしたものもありますよ。

実際、快適なUIを作るには、社内の全セクションとコミュニケートする必要があるんです。たとえば背景デザイナーさんだったら、フィールド画面にUIが載ったときに、UIが沈んだり、逆に背景が殺されないように調整をとってもらったりします。キャラクタと背景とUIのバランスが悪くならないように、いつも気を使っています。

UIデザインの仕事ならではの特徴はありますか?

石渡:キャラクタのデザイナーなどと違って、得意なテイストがあったり、個性が強すぎるアーティストには向かない仕事かもしれませんね。UIには、ゲームの世界観に合わせたデザインが求められます。操作性の面でも、ユーザ視点に立った快適なUIを作る必要があります。そのため、自我や主張が強すぎると、衝突してしまいます。

UIデザイナーはアーティストの中でも、ゲームデザイナーに近いポジションかもしれませんね。弊社の制作チームは開発部とデザイン部に分かれており、UIデザイナーは開発部に所属しているんです。最近ではプログラマとアーティストの橋渡しをするTA(テクニカルアーティスト)(※2)という役職が認知されてきましたが、ゲームデザイナーと全セクションの橋渡しをするポジションのように感じることもあります。

(※2)TA(テクニカルアーティスト)については、第3回のテクニカルアーティスト対談を参照。

学生時代は、どんな勉強をされましたか?

石渡:もともと2Dが好きで、何か2Dの技術を生かした職業につけたらいいなと、漠然と思っていました。ただ、専門学校に入学するころには、ゲーム業界全体が3D表現全盛になっていて、2Dだと仕事がないんじゃないかと不安になったんです。それで流されるままに、3Dコースの授業を選択してしまいました。そこではMayaを使った授業が中心でした。

ただ、やっぱりなじめなくて、自分だけ教室の隅でイラストを描いて、イラスト学科の先生のところに入り浸っていました。卒業制作もみんなが3DCGの作品を作る中で、一人だけ2分くらいの手描きアニメーション作品を作りました。就職もはじめはDTP関連の会社に入って、印刷物をデザインしていました。そこから別のゲーム開発会社を経て、弊社に入社したんです。

島:僕の場合は専門学校に入る前は、デジタルにまったく触れていなかったので、最初はPCに電源を入れるところから、手取り足取り教えてもらいました。ツールの使い方を学んだ時も、うまく使いこなせるだろうかと不安になったくらいです。アナログで絵を描いて、スキャンして取り込んで、ツールで彩色するといった方法で授業を受けていました。

うちの学校では当時3つのコースがあって、僕はキャラクタデザインコースを選択しました。ゲームのキャラクタを作ったり、本の挿絵を描いたりといったデザインに特化したコースです。卒業制作では、架空のゲームのキャラクタや世界観、背景などを紹介するWebサイトを作りました。

UIデザイナーになるには、どういった勉強をすれば良いですか?

石渡:エディトリアルデザインの知識や、センスが求められますね。弊社では新卒でUIデザイナーという可能性もあります。一般的なアーティスト志望でも、応募作品を見てセンスが感じられる方には、「UIデザイナーという仕事はどうですか?」とお声がけさせていただくこともあります。画面レイアウトに気が配られていたり、フォントのデザインまで神経が行き届いていたり、そうした応募作品を送ってくる人は適正がありますね。

島:日常のいろんなところに、興味をもってもらえると良いかなと思います。たとえば、自動改札の「止まれ」と「進め」のマークが、どんな風にデザインされていて、どんな効果を生んでいるか、といったことです。世の中には記号化によって情報をスムーズに伝え、行動の意思決定を促しているものがたくさんあります。そういった部分に、少しでも気を遣うようにすると良いですね。

石渡:最近ではWebデザイナーからUIデザイナーに転職する例も増えています。一般的なエディトリアルデザインと、Webデザインの違いはUIの有無です。Webデザインで培ったUIの知識は、ゲーム制作でも活かすことができると思います。さらに今後はゲームUIでも、これまで以上にFlashの技術が求められていくので、Webデザインの勉強をすることは重要かもしれません。

現世代機でUIデザインは変わりましたか?

石渡:これまで弊社の開発は携帯ゲーム機が主流でした。そのためUIデザインにおいても、プログラマと二人三脚で作り上げていく、昔ながらの手法が中心でした。しかし、これから現世代機でのゲーム作りが増えていくと、UIデザイナー側ですべて作り上げて、プログラマにコンバートだけしてもらう、などの作り方が増えていくと思います。そのためにはUIデザイナーがFlashなどの簡易言語を使える必要があります。

実は今でもプログラマにエフェクトやアニメーションのイメージを伝えるため、簡単なFlashアニメーションを制作し、参考資料として渡したりしています。そのため、Flashでスクリプトが組めるUIデザイナーは重宝がられます。これからは、そうした技術がますます必要になるでしょうね。

島:幸運にも僕は専門学校でWebサイト制作をからめた授業を受けていたので、簡単なFlashアニメーションなどは作ることができました。これからも必要であれば、そうした勉強をどんどんしていきたいですね。

石渡:また現世代機では3D立体視が使えるようになったりと、表現の幅が広がってきました。UIはゲームデザイン的な要素も含みますし、ユーザさんの目を引きつける意味でも重要ですが、一方で最近のゲームの中には、UIがほとんど画面上に表示されないものもあります。「UIがないことで目を引きつける」という意味合いも含めて、UIの基本的な位置づけは、今後も変わらないと思います。

海外版制作の苦労を教えてください

石渡:最近では海外向けローカライズが重要になっています。そこで大きな影響を受けるのがUIです。日本語と外国語では文字の長さが違うので、日本語で最適なUIを作ってしまうと、海外版制作の際に文字がはみ出てしまったり、極端に文字が小さくなってしまったりと、さまざまな問題が発生します。日本語版の開発段階から、ローカライズで多少レイアウトを変更しても、全体のバランスが崩れないようなUIデザインを行うことが求められています。

理想を言えば、できるだけ世界共通で認識してもらえるようなUIをデザインすることです。弊社でもそうした表現を、当初から意識して織り込むようにしています。ただ、実際にはなかなか難しいですね。

島:実はいまブラウザゲームの仕事をしていて、まさにその課題に直面しています。やはり文字数の問題が一番の課題です。マウスカーソルを合わせると、バルーンが出て、機能解説が表示されるなどの手法もあわせて使おうとしています。ただ、できるだけシンプルなUIになるように努力したいです。

アメリカは徹底的な実力社会です

石渡:まずは開発チームの人たちに評価されるようなUIをデザインしたいですね。そしてゆくゆくは、「UIといえばこのゲーム」とよばれるような作品を世に送り出していきたいです。

島:直近の目標としては、石渡さんに認めてもらえるUIをデザインしたいです。そして将来の目標としては、石渡さんと同じように、ユーザの皆さんにUIの良さを認めてもらえるようなゲームを手がけたいです。