2012/01/18更新
趣味ではなく仕事で描く絵の場合は、より多くの人の好みに合わせることも必要

ーー先輩・後輩で互いに学ぶ点はありますか?

三村:感性の違いもあると思うのですが、こんな描き方もあるのかと、参考にさせてもらっています。私はどちらかというと、絵の具で描いたようなベタっとしたタッチの絵が得意で、きの子さんのような透明感のある色使いは苦手なんです。

きの子:先輩たちの作品のレイヤーを見ていると、無駄がないと感じます。また、同じソフトを使っているのに、色の出し方や、ブラシの使い方などが全然違うんです。一見同じように見えても、仕上げの違いで、絵の雰囲気や印象が大きく変わってしまいます。

ーー今後の目標について教えてください

三村:入社した頃から、原画家になるのが一つの目標でした。そのため、今は最新作を良い物にすることが一番の目標ですね。それ以外はまだ考えられません。

彩色中の三村さん。彩色は、ペンタブレットとキーボードによるショートカットを併用して行う

きの子:私も原画家になるのが目標です。最近は彩色を褒められることが多くなったので、早く原画から彩色まで一人でこなせるようになりたいです。

そのえ:最初の頃、三村さんは絵の癖が強かったんです。個人的な好みが前面に出すぎていて、若い男の子を格好良く描くことが苦手でした。誰にでも好みはあるものですが、それが一般的でないと仕事に支障が出る場合もあります。たとえば「メガネ好きは多いけど、ヒゲのオヤジを可愛いと感じる人はそれほど多くない」とか。そのうち、自主的に休日に絵の勉強をするようになり、絵の幅が広がりました。趣味であれば趣味全開でも良いと思いますが、仕事絵になると、より多くの方の好みに合わせることも必要になります。

三村:流行のイラストを見て参考にしたり、自分で絵を描きためたりして、絵の幅を広げていきました。また、笑いや怒りを表現する際に、キャラクターの表情を崩しすぎる癖があったので、できるだけ抑えるように努力しました。

そのえ:きの子さんはキャラクターメイキングのセンスは良いんですが、ラフデザインがまだ弱い。ただし、ラフの線は荒くても、色を付けると良くなるので驚かされます。でも仕事上ラフでOKをもらわないと先に進めないので、きれいなラフを描くことが課題かな?

きの子:夢が叶えられるように頑張ります。

どこの学校に行っても、結果に結びつくかどうかは自分の努力次第

ーー学生時代にやっておけば良かったことや、学校への要望はありますか?

三村:時間があるうちに、もっとオリジナルの絵をたくさん描いておくべきだったな、と思います。課題しかやらない学生で、それ以外はほとんど遊んでいたので、もっとちゃんと作品を仕上げておけば良かったなと思いました。私が卒業した学校でも、CGの授業が始まったと聞いています。実際の開発現場で使われているファイルを見せてもらえたり、実践的なパス塗りの方法などを教えてもらえると、就職後に役立つのではないでしょうか?

彩色中のきの子さん

きの子:私もせっかく恵まれた環境だったのに、全然それを活かさずに遊んでばかりでした。時間を大切にして、オリジナルの絵をもっと描いておくべきでした。いざ仕事を始めると、なかなかオリジナルの絵を描く機会がありませんから。学校の先生方には、プロのグラフィッカーとして業界で仕事をされている方もいて、その点でも非常に恵まれていました。業界動向やトレンドなど、今後の作品作りに活かせる情報を聞く機会もあったので、もっと教えてもらえば良かったと思います。

ーーそのえさんは専門学校の講師もされていますが、コメントはありますか?

そのえ:「現場で役立つパス塗りを教えてほしい」「業界動向を知りたい」という声は、学生からもよく聞きます。今期、念願がかなって授業をもつことができたのですが、いざ始めると、自分の好きなように描けないのが不満なのか、卒業制作を言い訳に授業を欠席する学生が多くて驚きました。確かに卒制は2年間の成果を示す大切なものですし、仕方がないのかもしれません。他の授業も休みがちですし。また、ゲーム業界に進む意思がないのに、業界ゴシップだけを知りたがる学生が少なくありません。2DCG制作の授業では弊社の新人教育と同じ課題を行っていますが、どんどん出席率が低下していきます。描き方を教えようとした先生は大抵断念するという話を、卒業生から聞きました。僕も早くも断念しそうです(笑)。

逆に学生に対してメッセージを投げかけるとしたら、2DCGを学ぶ生徒には、絵を描くことに真摯になってほしいです。グラフィカーを目指すなら「絵を描くことを最優先にできるか?その上で、どうしたらもっと良い絵が描けるのか?」真剣に考えてほしいです。ゲーム作りは集団作業ですから、卒業制作などを通して、チーム制作を経験することも大事です。しかし、自分一人で良い絵が描けなければ、就職活動のスタートラインにすら立てないことも、また事実です。

絵描きがやるべきことはシンプルです。高いデッサン力を身に付けて、良い絵を描くしかない。ただ、必ずしも全員が、良い絵を描けるわけではない。パス塗り云々は、デッサン力ではなく、丁寧さがあれば、ある程度は身に付きます。そういう学生には、強力な武器になります。

学校では、プレゼンテーションの授業も担当しているのですが、シャイな学生が多く、プレゼンにならない学生もいます。プロデューサー職は何十人という聞き手を相手に話す必要もあるし、納得してもらうことが必要なポジションなので、せめて人前で面白いことの1つもいえないと、初歩のプレゼンすらできません。

講師の仕事はゲームを作ることよりも難易度が高いです。僕が教える内容は、自己流で身に付けたものもあるので、教える立場になって、はじめて体系的に意識するようになり、逆に授業を通して教えられることもありました。

ーー御社にとっての「デッサン力」とは何ですか?

そのえ:ゼロから絵を構築できる力。具体的にいうと、何の資料や情報がなくても、あらゆる角度から、あらゆるポーズのキャラクターを描ける力です。立体や空間を正確に把握し、描ける能力だと思っています。

一般的な静物デッサンや石膏デッサンの場合は、何らかの対象を見ながら描きますよね。そうではなくて、何もないところからでも、きちんとした絵が描ける。その上で実物を参考にすると、さらに細かいディティールが描ける。それが本当の力だと思います。

僕が美術の予備校に通っていたとき、講師の方から「手を上手く描ける人は、手を見ないでも描ける」と教わりました。確かに、言われてみればそうなんですよね。学生の皆さんも、一枚でも多く絵を描くことで、そうした力を早く身につけ、現場で活躍できるチャンスを見つけてください!

三村さんの入社前の作品

複数のキャラクターがいて、背景があって、パースが付いていて、小物なども丁寧に描けていて、空気感が伝わってくるものでなければ、総合的な画力は判断できないそうだ。

三村さんの入社後の作品

三村さんがキャラクターデザインと原画を担当する最新作「英国探偵ミステリア」

きの子さんの入社前の作品

採用時には、ラフデザインも確認する。「ラフデザインには、その人が本当に好きなものや、デッサン力、感性などがにじみ出てくるからです」と、そのえさんは語る。

きの子さんの入社後の作品