2011/12/21更新

マーザ・アニメーションプラネット 木下秀幸さん インタビュー 〜前編 自分の得意分野を見つけて伸ばす〜

取材・編集協力/CGWORLD.jp リポーター/宮田悠輔 写真/大沼洋平

前回より引き続きお送りするマーザ・アニメーションプラネット株式会社木下秀幸さんのインタビュー。後編となる今回は、木下さんが手掛けてきた作品を取り上げつつ、仕事に対する考え方やCGアニメータとして必要な心構えなどを紹介していこう。

アニメータに必要な、動きの“観察力”と“イメージ力”

前編でも触れたように、業界に入ってからの木下さんは、ある程度の物量をスピーディーにこなしていくことでその評価を上げてきた。しかし、最初から効率的に作業を進められたわけではない。

「入った当時はもう無我夢中でやっていましたね。でもある時期から、もっと効率の良いやり方はないか、もっと簡単にできるのではないかと考えはじめました」

その具体例として『創聖のアクエリオン』(2005)の制作に携わった時のエピソードを語ってくれた。

「CGモデルのデータ量が非常に重くて、普通にプレビューするのにも予想以上の時間を要するという問題に直面しました。アニメーションを付ける人間にとって、プレビューが遅いことは致命的です。良い方法を思案した結果、データ量の軽いモデルを自分で作り、アニメーションを付ける際にはモデルを差し替えることで対応しました」

この方法のベースを、木下さんはポリゴン・ピクチュアズ在籍時に学んでいた。過去の仕事の経験が、アクエリオン制作時に役立ったという。また、UI(ユーザ・インターフェイス)まわりも、アニメーション付けがやりやすいように、MELを書いてカスタマイズした。効率的に作業を進めるにはどうするべきかを常日頃から考え、工夫を重ねていったのだ。

では、木下さんが考えるCGアニメータに必要な資質とは何だろうか?これについて、木下さんは“目がイイ”というポイントを挙げる。

「基本的に目がイイ人だったら、アニメーション制作は大丈夫だと思います。つまり物事をよく観察して、どこが悪くてどこが良いかを視覚的に捉えられる人ですね」

また、実際のアニメーション作業では、基本的な動きを、正確に違和感なく作れることが大事だと話す。

「たとえば人の動きであれば、腰と胸の関係性など、いくつかの基本となるポイントがあります。誇張表現を行う場合であっても、基本ができていないと、どこかで破綻してしまいます。基本をしっかりと理解しておく必要があります」

動きに対する基本的な知識や技術がベースにあってこそ、オリジナリティのある自然な誇張表現が可能になる、ということであろう。さらに木下さんは、動きの流れを“線”として捉えることも、大切なポイントだと続ける。

「動きの軌道を意識すると良いですね。たとえば、A地点からB地点に手を動かす場合、軌道は直線ではなく、弧を描きます。加えて動きを止めるときにも、理にかなった動きをさせることが大切ですね」

CGの場合、現実には芝居が不可能な空間や設定の基で、アニメーションを付けることがよくある。しかし、非現実的な設定であっても、視聴者に『理にかなっている』と感じさせる動きを付けることが大切だと、木下さんは語る。

「新人の付けたアニメーションに違和感がある場合、『その動き、自分でできる?』と問いかけるようにしています。とはいっても、宙に浮くアニメーションを付けた人に『じゃあ、宙に浮いてみろ』というような無理難題をいっているわけではありません。与えられた設定の基にいる自分をイメージして、不自然ではない動きを考えてほしいんです」

このように動きをイメージする力は、アニメータを志す人間にとって必要な素養の1つといえるだろう。

事前に収集した参考資料が、実作業を効率化する

アニメーションを付ける際には、“参考資料の収集などの事前準備”にも重きを置いていると木下さんは語る。

「実作業で必要以上に試行錯誤をしないように、イメージを固めるための事前準備を大事にしています。たとえば『Sonic Night of the Werehog ~ソニック&チップ 恐怖の館~』(2008)で幽霊のウーとスーがカメラを奪い合うシーンを手掛けたときは、まずプロの役者さんに作りたい映像のイメージを伝え、カメラを取り合う演技をしてもらいました。それを撮影した映像から動きのエッセンスを抽出して演技を決め、自分たちでその動きを実際にやってみて、尺に収まるように微調整を施し、CGに落とし込んでいきました。こうして丁寧に1つずつプロセスを踏んでいくと、アニメーション付けの実作業では悩むことがありませんから、とてもスムーズに進行できました」

当然ながらスケジュールやコストの問題があるため、このような事前準備をつねに行えるわけではないだろう。しかし、イメージを固めるための参考資料の収集に手を抜かないことは、多くの場合、オペレーションの効率化に繋がりそうだ。加えて、木下さんが普段から実戦している “自分へのメール”と、“一晩寝かせる”という習慣を紹介しよう。

「時間を有効に使うため、通勤時間などに思い立ったアイディアは、忘れないようにメールで自分に送っておきます。後からそのメールを読み返すと、新たな発見があったりしますね。また、イメージ通りに上手く作れないカットがあった場合は、一旦置いておき、別カットに進むこともよくあります。難しいと感じたことでも、一晩寝かせると頭の中が一度リセットされて、簡単にできるようになる場合もあります」

これは、ゲームでどうしてもクリアできなかったステージに、1週間たってから再チャレンジしたら、あっけなくクリアできてしまったときの感覚に近いという。つまり、一旦離れて時間をおくことで、熱くなっている自分と、一歩引いて事態を冷静に見る自分とが切り替わるため、難しいと感じていたことでも、意外と簡単に解決できてしまうのだろう。


『Sonic Night of the Werehog ~ソニック&チップ 恐怖の館~』(2008)では、主に戦闘シーンを担当した木下さん。劇中でウェアホッグになったソニックがジャイアントスイングをするカットは、個人的に印象に残っているそうだ。事前にイメージを練り上げてから実作業に臨んだため、一発で思い通りのアニメーションに仕上がったと語る。
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