2011/08/24更新

取材・編集協力/CGWORLD.jp リポーター/宮田悠輔 写真/弘田充

デジタルコンテンツ業界の第一線で活躍する方々にキャリア遍歴を尋ねる本連載。第3回は、デジタルハリウッド在学中に作成したオリジナル短編CGアニメーション『扉』が、「第12回 学生CGコンテスト」や、SIGGRAPH 2007 の学生コンペ部門「Space Time 2007」などで受賞を果たし、現在は株式会社フレイムでリードデザイナーとして活躍中の山崎伸浩さんのケースを紹介しよう。

デジタルアーティストを志したきっかけ

ちょうど物心つく頃、世間では『ターミネーター2』(1991)や『ジュラシック・パーク』(1993)など、CGを使ったVFX大作が世界的な注目を集めており、その発展と共に成長してきた山崎さん。その中でも、1997年に発売された『ファイナル・ファンタジー7』(以下、FF7)の映像は自分の原点といっても過言ではないという。

「『スターウォーズ』シリーズはその典型ですが、スケール感のある近未来的なビジュアルに凄く惹かれます。同様に FF シリーズの映画的なビジュアルも大好きなんです。特に『FF7』のオープニングでミッドガル(最初の舞台となる都市)のヒキ画からカメラが寄っていくカットは、音楽とも凄くシンクロしていて大きな感銘を受けました。発売当時は中学3年だったんですが、その年頃ぐらいから将来のこととか漠然と考え始めるので、その意味では、CG 制作を意識させてくれた作品かもしれません」

また、山崎さんは NHKの『驚異の小宇宙 人体』(1989)にも大きな衝撃を受けたと語るように、科学番組なども好んで見ていたという。

「もともとサイエンスが好きなので、科学系の番組は小学生の頃からよく見ていました。そうした番組でも CG がよく使われていたので、少なからず影響を受けていたのかなと思っています」

そんな山崎さんはその後、東邦大学へと進学。物理学を専攻する。

「科学だけでなく絵を描くことも好きで、大学では美術部に所属していたんですよ。ですが、仕事にするという意味では研究職の方がイメージしやすかったので、理系の大学に進みました。美大という選択肢はまったく頭に浮かびませんでしたね(笑)」

大学の卒業論文では物理学の考えに基づいて、断片的な情報を元に正しい文字を思い出すプログラムという、人工知能に相通じるような技術研究を行っていたという山崎さん。そのまま研究者の道に進むかのかと思いきや、いざ就職活動を始める時期になると、1つの思いが自分の中に湧き上がったという。

「就活をするか、大学院への進学準備を始めるのか決める段になって、自分の将来を真剣に考えてみました。その時、“自分が本当に好きなことを仕事にできないのかな”と思ったのです。もともと絵画が好きだったので、これを仕事にできる方法はないのかと考えるようになりました」

そこで山崎さんは1つの賭けに打って出る。

「今でも覚えているのですが、ちょうど1週間後が〆切というイラストコンペがあったので、そこへの出品を目標に定めて新たに描いてみることにしました。絵画については、特に専門的な教育を受けたこともなく完全に独学でした。だから自分の実力がどれくらいなのか、世間的な評価を受けてみたかったというのもありますし、これでダメだったら僕の力はそこまでだから潔く諦めようと考えて、とにかく1週間全力で取り組んでみることにしました」

そう聞くと、行き当たりばったりな印象を受ける人もいるかもしれないが、山崎さんの行動は、あらかじめ「ゴールを明確にする」、「期限を定める」という2つの点において、むしろ合理的だったといえる。事実、山崎さんはこの時に挑戦した「ひょうご“IT&A”学生グランプリ2004」専門学校・大学・大学院生部門にて、見事に優秀賞を受賞。現在のキャリアへと繋がる大きな転機を迎えることになった。「この作品のテーマは?」あるいは「当社の志望動機は?」などと聞かれた際に「何となく」と答えてしまった経験のある人は多いと思う。しかし、山崎さんのように自身の行動目的を明確にすることは、作業効率やクオリティの向上に繋がるのではないだろうか。

「確かに当時の自分が出せる力は出し切ったつもりですが、“本当に受賞しちゃいました”という感じで、驚きました(笑)。ですが、これはもしかしたら頑張れば通用するんじゃないかと考えるようにもなりました。そこで今度は、両親に『1年間だけ就職を待って欲しい。さらなる力試しをさせてもらえないだろうか』と相談しました。すると、『お前の好きなように生きろ』みたいなことを有り難くいってもらえたので、次の計画に着手しました」

こうして山崎さんは、“絵を描く”ことを「好き」と「仕事」の両面からさらに追求していった。大学卒業後は、デジタルハリウッドに通いながら、映像コンテンツの制作で新たな勝負に打って出たのだった。ちなみにイラストコンペで受賞した『扉』という作品は、後に数多くの映像コンペで入選を果たすことになる CG アニメーション作品『扉』のベースになったのだそうだ。

"1つの賭け"に打って出た、初めてのコンペ応募作品『扉』(「ひょうご"IT&A"学生グランプリ」(※現在は終了)2004年度 専門学校・大学・大学院生部門 優秀賞を受賞)。10枚組みの連作で、印刷してクリアファイルに入れると、見開きで絵と文字が見えるような構成となっている。扉を開ける前と後とで、鏡のように対となる作品。後に制作された『扉』のベースとなる世界観が描かれていた。絵のクオリティだけでなく、見せ方まで意識している点から、本文で触れた山崎さんの本気度合いが窺える。

学校を選んだ際のポイント

大学卒業後、山崎さんはデジタルハリウッド(※以下デジハリ)の CG・映像本科で学び始めた。数ある学校の中からデジハリを選んだ理由は何だったのだろうか。

「まずイラストの学校という選択肢は考えませんでした。というのは、自分が好きなイラストを描く時は、決まって頭の中にある映像のワンカットを描き出す要領で描いていたからです。その創作を突き進めると、映像表現、しかも近未来的なファンタジー世界の表現に繋がりました。それには3DCGが必須だと考えたんです。イラストレーターを目指すなら、大学生の時の延長で独学を続ければ何とかなったかもしれません。しかし、CG の場合はソフトを覚えることから始める必要がありました。さらに、両親との約束や学費に充てた貯金の都合から(笑)、1年間で結果を出す必要もありました。それには、CG・映像系の学校で手法を学びながら、オリジナルの映像作品を作った方が良いと思ったんです」

前述の通り山崎さんの心には、デジハリに通う前から、大学時代に初めて挑戦したイラストコンペ向けに描いたイメージを映像化させたいという思いがあった。そんな山崎さんにとって、デジハリのカリキュラムは都合が良かったという。

「良い意味で課題が少なく、授業の空き時間はいつでも教室のPCを使えたのが良かったですね。極論かもしれませんが、ツールの操作などはその類の本を読んだりすれば独学でもできると思っています。だけど、作品を制作する時間を確保するのは意外と難しいんですよね。自分としては、創作活動は“習うより慣れろ”だと考えています。自分のペースで好きなオリジナル作品を作りやすい環境が用意されていたのが、デジハリを選んだ大きな理由ですね」

1年という限られた期間でゼロから 3DCG を学べ、なおかつオリジナル作品の制作を自由に行える学校という判断基準の下、学校を選んだ山崎さん。この時も、あらかじめ「ゴールを明確にする」、「期限を定める」という、山崎さんのポリシーが実践された。