2011/07/27更新

取材・編集協力/CGWORLD.jp リポーター/宮田悠輔 写真/弘田充

コンポジターを目指す人へのアドバイス

質問を受ければ応じるが、自ら率先して後輩を指導することはないと話す吉岡さん。しかし、長年にわたりアニメーションの撮影や実写VFXを手掛けてきた経験から、もし手元に AE以外のツール、たとえばNukeやShake等のノードベースで合成作業を行えるツールがあるなら、異なる視点から考える上でも、使ってみると良いと語る。

Adobe After Effectsというソフトウェアは、合成(タイムライン的には縦方向)だけでなく、時間軸に沿った映像編集(同様に横方向)も行えるようにする設計思想の下で開発されているため、タイムラインベースで一連の作業を行う仕様になっている。これはAEに限ったことではないが、タイムライン(レイヤー)ベースで合成処理を行うツールの場合、合成結果は上位レイヤーの影響を受けることから、時に回りくどい操作を求められることがある。そうした時にノードベースの合成処理についても経験があれば、特定ツールの仕様に惑わされることが少なくなるに違いない。

「アニメーションの撮影では、本来コンポジットという処理が意味する“合成(融合)”ではなく、まだまだ"レイヤーを重ねた見た目"の域でしか対応できていないところが多いですね」

レイヤーベースのツールはタイムライン編集も行えるため、長尺作品の作業はしやすい。しかし、コンポジットをより深く知るための1つのアプローチとして、“重ねる”ではなく、ひとつひとつの合成処理を正しく、かつ明確に把握できるノードベースのコンポジットを正しく知っておくことも効果的だろう。参考「Digital compositing - Wikipedia

そんな吉岡さんは、就職活動についてどのように考えているのだろうか。

「知識や才能がいくらあっても、企業やチームが求める人間性(パーソナリティ)にハマらなければ内定には至らないと思います。新たな部署を起ち上げたり、大規模なプロジェクトが始動するといった大きなイベントがない限り、アニメーション会社に限らず、大半の企業での採用は既に存在しているチームへの人員補充が大前提だと思うので。つまり、いくら実力があってもタイミングが合わなければ採用には至りません。その意味では、あまり第一志望に固執せず、縁を大切にした方が良いのではないでしょうか」

憧れだったり、企業の規模や業界内での存在感などは、求職者がどうしても意識してしまうことだと思う。しかし、最終的には“自分が何をする/したいのか”が全てのはずだ。企業の合併や再編などが起こり得ることも考えればなおさらだ。目先のことに惑わされず、ひたむきにもの作りを続けることで、自ずと道が開けるのではないだろうか。

実写プロジェクトを通して学んだこと

(c) 徳間ジャパンコミュニケーションズ / (c) アミューズ
吉岡さんが最近参加したプロジェクト、Perfume『レーザービーム』MV(2011)。アニメーションだけでなく、こうした実写プロジェクトのCG・VFXも精力的に手掛けている。

吉岡さんはアニメーションの撮影以外にも実写VFX制作にも幅広く携わっている。今年もPerfume『レーザービーム』MVの3DCGを手掛けたそうだ。

「縁あって、関和亮監督のMV制作にはPerfume『Dream Fighter』(2008)を皮切りに、様々なプロジェクトに参加させていただいてます。実写VFXの場合、CGや合成の知識に加え、ビデオ信号や色規格に対する知識も求められるので、良い勉強になっていますね」

近年の実写制作では、DSLR(動画撮影機能を備えたデジタル一眼レフカメラ)に代表される驚異的なコストパフォーマンスを誇るデジタルカメラの登場によって、従来はフィルム撮影でしか成し得なかった美麗なルックを比較的手軽に実現できるようになった。これにより、Web動画でもフルHDサイズ(1,920×1,080画素 ※16:9の場合)のコンテンツが定着しつつある。さらに実写の場合は、撮影の段階からYUVとRGB信号の違いや圧縮コーデックなどのビデオに関する正しい知識が求められるわけだが、アニメーションのVFXを追求していく上でも、そうした知識の習得は欠かせないと吉岡さんは考えている。

「最近携わったMV制作では、キヤノンEOS 5Dなどのデジタル一眼レフカメラで撮っているので、YUV→RGB変換の際に適用されるカラープロファイルが変わることで色ズレが起きないように、CG素材を合成した後も同じ色味が保持できるよう気をつけています。CGやVFX作業の前段階で気をつけるべき事項が細々とあるわけですね。こうした知識は、実写に限らずフルCGコンテンツの制作にも求められるので、実写コンテンツには関わらないデザイナーも今後は身につける必要があると思います」


Perfume『レーザービーム』MV(2011)
(c) 徳間ジャパンコミュニケーションズ / (c) アミューズ

より円滑なクリエイティブワークを実現させたい

子どもの頃から抱き続けるアニメーションへの強い探求心の下、CGやVFXといったデジタル表現のスペシャリストとして、プロフェッショナルに徹した活動を続ける吉岡さん。最後に今後の目標について聞いてみた。

「みんなとは違う発想をしていきたいと考えています。CGの始まりもそうですが、何か突拍子もないような考えが、新たな時代を切り開いてきたという過去があるので。それと最近は、PCのもっと深い所を探求していきたいと考えています。C++など汎用的なプログラミング言語についても時間を見つけて学んでいきたいですね」

近年ビデオゲームの開発現場では、テクニカル・アーティストやテクニカル・ディレクターといったクリエイティビティと技術の架け橋となる人材の育成が急務だと考えられているが、吉岡さんの仕事スタイルにはそうした動きと相通じるものがあるように感じた。