2012/02/22更新

取材・編集協力/CGWORLD.jp リポーター/宮田悠輔 写真/弘田充

学生時代に、共同作業の感覚を経験しておいて欲しい

前編では、就職への戦略的アプローチとして、デモリールやポートフォリオに掲載する作品は1人で作るべきだと紹介した。しかし、将来プロとして働きたいのであれば、学生時代に集団での共同作業を経験して欲しいと元生さんは話す。


「CGに限らず、学生時代に共同作業に取り組む機会があれば、実践しておいて欲しいです。プロダクションに入れば、必ず共同作業が発生します。他人と苦しい思いを共有し、その先の大きな喜びを目指すという感覚を、実際に経験しておいて欲しいですね」

チームで何かを成し遂げる喜びを知る。これを経験している人間と、していない人間では大きな違いがある。チームスポーツの部活を経験している人ならば、周りの足を自分が引っ張らないために、どの部分を磨くべきか、どのようにスキルアップするべきか、考えた経験があるだろう。プロダクションにおけるスキルアップも、ベースとなる動機は同じといえる。

では、スキルアップに繋げるため、元生さんは実際に何を行っているのだろうか。

「それほど特別なことではないですが、映画を週に3本、必ず観ると決めています。CGを多用している作品はほとんど観ますし、それ以外の作品も、邦画洋画に関わらず幅広く観るようにしています。それらの情報を頭の中にストックし、いつでも引き出せるようにしておくといった感じですね」

また、ストーリーテリングの力を強化し、社会人としてのビジネススキルや教養を身に付けるため、本をたくさん読むように心がけてもいるそうだ。このように、クリエイターとしての情報感度を高める努力を日々続けている元生さんだが、テクニカル面に関しては、どのようなアプローチを実践しているのだろうか。

「最近NUKEを使ってみたいと感じています。社内でも同じような声を頻繁に聞くようになりました。ただし、DFではAfter Effectsで強固なパイプラインを構築しているので、リスクとコストを考えると簡単には導入できないと思っています。10名くらいの専門チームを編成して、導入に向けたR&Dなどができればベストかもしれないですね」

スタッフのモチベーションにも配慮した、チームマネジメントの実践

「自分の好きな言葉に『徒然草』の150段 “能をつかんとする人”があります。そこには『上手い人のところに飛び込んで、いっぱい恥をかきなさい』といったことが書かれています。学生時代に読んで、なるほどなぁと思いました。『恥ずかしいから』とか、『実力がないから』と自分で判断する前に、『実力がないからこそ、プロの中で自分を磨く』と考えるようにしました」

大学や専門学校でCGを学んでも、実際に業界へ就職する人間は多くない。昨今は業界に関する情報が充実しているため、それらの影響で業界を知り得た感覚に陥り、就職を諦める学生が多いのではないだろうか。しかし、情報だけで自分に向いていないと判断するのではなく、まずは実際に業界に入り、経験することが重要だろう。

「自分も最初は業界で働くことに対して、ビビりまくっていました。だから学生のためらう気持ちは理解できます。でも、中途半端なイメージだけで自分の可能性を殺さないで欲しいですね」

前述したように、元生さんは自身の経験も踏まえた上で、就職したら3年間は頑張って欲しいと、業界を目指す人達へのアドバイスを語った。

「3年間頑張れば、業界のことや、その中での自分の立ち位置などが見えてきます。中には3年未満で、キャリアアップのために転職される人もいますし、CG業界から離れる人もいます。ですが、一生CGをやっていくならキャリアは30年以上続きます。最初の3年間なんて、たいしたことはありません。大いに振り回されてみれば良いと思います。いずれその先に、自分がやりたいことや、自分に合ったものが具体的に見えてくると思います」

3DCG制作は昔に比べると高度化・複雑化が進んでおり、業界を目指す学生は、どこから手を付ければ良いのかと悩んでしまうことも多いだろう。しかし、思い切って飛び込んで来て欲しいと元生さんは語った。今後は日本でも高度なCG・VFXが作れる時代が到来することは間違いない。自分の肌で、それを直接体感して欲しい、という言葉で話を締めくくった。