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Vol.4 SIGGRAPH2005特集 GRAPHICS HARDWARE 2005-CELLのパフォーマンスが明らかに

SIGGRAPHの併催イベントとして30日から開催されている「GRAPHICS HARDWARE 2005」は、ACM SIGGRAPHとEUROGRAPHICSの共同開催である。毎年、米欧交互に会合を催してきた。今年の目玉は、IBM、東芝、ソニー・コンピュータテンタテインメントで開発してきたCELLに関する発表が基調講演で行なわれることであった。


CELL、絞った分野で性能発揮か

IBM T.J.ワトソン研究所のBruce D'Amora博士が行なった基調講演「Cell Technology for Graphics and Visualization」で、どのようなプログラミングモデルでグラフィックス系のプログラムが組まれているかが解説された。まず、CELLプロセッサの能力が単精度では200GFLOPS以上、倍精度では20GFLOPSであるとされた(3.2GHz動作時)。単精度と倍精度の場合で能力差が10倍というのは、他のプロセッサに比べて大きい。プログラムモデルは、
(1)SPE(8つある演算プロセッサ)に置かれた関数をPPE(新設計のPowerPCから呼び出す)
(2)ブート時にSPEに処理を埋め込み、必要に応じてOSがSPE関数を起動する
(3)ユーザが作ったSPEライブラリをロードして実行する
(4)ストリーミングモデル(SPEに置かれたカーネルソフトウェアが、入力データを処理し連続的に出力する。必要に応じてカーネルも入れ替える)
があるとした。この中でストリーミングモデルが最もCELLに適しているとした。

ただし、現在使えるコンパイラは、自動的に並列演算を実現したり、自動的にカーネルの入れ替えを行なわせることはできないという。これらを目指したコンパイラは、IBMの研究所でプロトタイプが動作している状態という。D'Amora博士によれば「CELLはGPUを置換できない」といい、CELL自体はスキャンコンバージョンやテクスチャーマップではなくCGの上流の処理を行なった方がよい、とした。ソニー(SCEI)や東芝がCELLでスキャンコンバージョンを行なうことを試したようだが、十分な性能が発揮されなかったようだ、と述べていた。PS3にnVIDIA製のGPUが使われることも、この観測の正しさを補強している。

デモでは、2.4GHz動作のCELLプロセッサ2台を搭載したプラットフォームがレイトレーシングを行なう様子が示された。演算解像度は1024x1024ピクセルで、毎秒22フレームの描画を行なった。また、Aliasの布シミュレーションソフトウェアがCELL(2.4GHz)に乗ったものは、3.4GHz動作のPentium 4の2倍以上の速度を達成しているとの報告がなされた。

会場からCELLの「効率」についての質問が出され、これに対して「ゲーム用の物理シミュレーションではなく、本物の物理シミュレーションには多数のCELLを接続したプロセッサが必要」との答えがあった。また、「ボトルネッックは何か」との問いに対しては「効率が良いのはストリーミングモデルだが、この場合もSPEをそれぞれ独立に使う必要は無く協調動作がよい。PPEをクリティカルフロー(律速部分)に置かないようにすることが大切」との分析が示された。これは、SPE同士を直列に接続し、各SPEは処理の一部を担当して次段のSPEに処理を回す「パイプライン」型の利用を示したものである。CELLを複数台接続することで長大なパイプラインを構成することも可能となる。ただ、同博士が指摘しているように、PPEの関与はパイプラインをストール(一時停止)させることとなり極力避けなければならない。この点を自動管理するOSとコンパイラが完成していないため、当面はCELLのプログラミングは「職人技」に頼ることになる。


GPU以外の利用も模索

米国では、GPUを汎用演算に適用する動きが盛んで、GPGPU(www.gpgpu.org)という研究団体まで設立されている。昨年は、GRAPHICS HARDWAREがEUROGRAPHICS側で開催だったこともあり、GP2なるGPU利用を指向したワークショップがSIGGRAPH時に開催されたほどである。

しかし、GPUの利用については、GRAPHICS HARDWAREでは「興味の一部」として扱っているようで、より広いハードウェア化が議論されていた。発表を聞き、論文を読む限りでは、GPUの利用領域拡大の大きなネックとなっているプログラミングモデルの確定と、それに沿ったプログラミング言語の開発が完了していないとの印象を持った。演算の特定段階には抜群の並列性を持つGPUにマップ(写像)できるプログランミング思考、そして言語が開発されるまでにはまだ時間がかかりそうだ。もちろん、大学レベルでは実験的な言語が発表されているが、これらが全面的に受け入れられている状況にはない。当面は、既存言語(C、Cgなど)で、目的となるアルゴリズムを強制的にGPUに落とし込むしかなさそうだ。

GRAPHICS HARDWAREでは、iPACKMAN: High-Quality, Low-Complexity Texture Compression for Mobile Phones(Jacob Strom他)が最優秀論文賞を獲得した。Ericsson Researchに所属する第一著者らは、テクスチャーを、輝度情報と色情報に分け、巧妙な演算により軽負担で符号化・復号を行なうPACKMANを2004年のSIGGRAPHに発表している。今回の発表は、信号分離を見直し、画質を向上させたiPACKMANに関するものである。ハード、ソフトの資源が極めて限定される携帯機器での利用が見込まれる。

他に、MITとNokia Researchからリコンフィギュラブルプロセッサを利用して適正な負荷分散を図りレンダリング効率を高めた例などが示された。リコンフィギュラブルよりも、コンパイル時の静的な負荷分散に主眼があるが、今後、動的負荷分散に研究が進むことは確実と見られる。更に、グラフィックス演算に特有な「レンダリング途中での処理の種類の違い(数値演算指向か、メモリアクセス指向か、並列指向か、直列指向か)」をリコンフィギュラブルアーキテクチャで吸収する方向に進むと見られる。

会場には、Microsoft ResrarchのJim Blinn博士といったCGの専門家に加えて、カリフォルニア大学アーバイン校のNader Bagherzadeh教授といったリコンフィギュラブルアーキテクチャの専門家の姿も見え、CG用ハードウェアがコンピュータアーキテクチャの世界で興味を持たれていることをうかがわせていた。

(蓮憶人)

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