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Vol.33 ロサンゼルスで開催された「SIGGRAPH2010」をレポート!

Emerging Technologies ・ The Studio ・ Art Gallery

今年のEmerging Technologies(E-Tech)とThe Studio、Art Galleryの会場は同じ一つの空間にまとめられ、作品展示やプレゼンテーションが行われた。例年に比べ、作品数は少ないながらも特色のある質の高いものが集められていた。それぞれのプログラムチェアーに今年の特色をインタビューしたので紹介する。

エマージングテクノロジー

Q:例年と違う点は?
15年にわたってこのエマージングテクノロジーというプログラムの運営に携わっていますが、今年は初めて委員長という責任ある仕事をすることになりました。私の印象としては、いい意味で同じです。エマージングテクノロジーの素晴らしい点は、毎年変わらず新しいものが見られる驚きがあるところだと思います。毎年同じように新鮮な驚きがあります。

Q:応募の件数は?
今年は世界中から130作品の応募があり、その中から23作品を展示しました。そのうち、約半分が日本からのものです。他の国の大学のプロジェクトに日本の大学が参加しているものもありますので、はっきりした数をいうのは難しいですね。日本の技術はもちろんですが、作品に垣間見える日本の文化も、E-Techの大切な一部となってプログラムに貢献しています。来年もぜひたくさんの作品が日本から応募されることを期待しています。




スタジオ


Q:スタジオとはどんなプログラム?
今年の委員長、Gene Cooper氏の代わりに来年(SIGGRAPH2011)のスタジオ委員長の私がお答えします。スタジオは2次元(2D)から立体出力、超ハイエンドから個人でも手が届くような価格のものまで、幅広い製品を実際に触って体験できる場所です。今年のスタジオは、エマージングテクノロジーとアートギャラリーと同じ部屋で、アートギャラリーとエマージングテクノロジーに挟まれたスペースと、部屋の外の通路になりました。

Q:スタジオでは何が見られますか?
まずスタジオに来てすぐ目に入るのが、Wacomがスポンサーの大きなプレゼンテーションエリアです。ここでは、2DCGソフトのデモを行いました。スクリーンとステージがあり、その前には参加者がデモを受講できるようにWacomのタブレットが複数設置されています。Photoshopの裏技などを最新のWacomのハイエンドタブレットを使って、プロのアーティストの指導によって学ぶことができるようにしました。これは大変人気があって、初日の日曜日でもたくさんの参加者があり、タブレットの設置された席に着けない人まで熱心に聞き入っていました。他にもプレゼンテーションのエリアがあり、プロのクリエイターや業界の方がデモを行いました。また、その後ろには、デスクトップコンピュータの並ぶエリアがあり、MayaやZ-brushのほか、いろいろな3DCGソフトを体験できるようにしました。また、部屋の外のエリアでは、ラピッドプロトタイプなど立体出力のデモなどが行われており、これも実際に体験することができます。3DCGでつくったモデルを、ここで出力することができます。今年は、複数のマテリアル、たとえばゴムとプラスチックなど、違った物質を同時に扱えるプリンタもあります。 毎年スタジオは新しいもの、おもしろいものを紹介しています。来場してすぐ目に入る、自転車のスポークに光る字や形が見えるデモも、スタジオで紹介しているものの一部なんですよ。




アートギャラリー

Q:今年のアートギャラリーの特色は?
今年のアートギャラリーのテーマは、”TouchPoint: Haptic Exchange Between Digits”です。多感覚、つまり視覚以外の感覚も使って鑑賞する作品に焦点をあてました。ギャラリーには、250作品の応募から14作品が選ばれて展示されています。日本からの作品も1点ありました。

Q:エマージングテクノロジーとスタジオとアートギャラリーの3つのプログラムが同じ空間を使ったのはよかった?
とてもよかったと思います。アートギャラリーも、エマージングテクノロジーも、スタジオもすべてデジタル技術という共通点があります。違う点は、エマージングテクノロジーは最新技術の研究、スタジオはそれを実際にどのように使うか、アートギャラリーはさらにその技術で何を表現できるかを扱うという点だと思います。すべて同じデジタル技術を使っていますが、その違った側面を見せているだけなのです。それを一度に体験できる空間になったということですね。

Q:作品展示の特色は?
今年はテーマに沿ってインタラクティブ作品だけを展示しました。静止画の作品は1点もありません。インタラクティブな作品の展示は、作品のみでは成り立ちません。鑑賞者がそこに来てインタラクションをして初めて、作品が完結します。また、インタラクティブな作品は、鑑賞者を結びつけます。知らない人同士が作品を囲んでコミュニケーションすることも多くあり、静止画などにはないおもしろさがあると思います。 展示する作品の数が数年前に比べ減りました。
以前は60点以上の作品を展示したこともありましたが、今年は少なくなった反面、テーマがはっきりしたと思います。これは去年からアートギャラリーのプログラムが『Leonardo, Journal of Arts, Sciences and Technology』と提携するようになったという理由もあります。SIGGRAPHアートギャラリーに展示される作品は、すべてLeonardoの特別号に掲載されることになりましたので、Leonardoの求める質の高さを持った作品が審査を通過し、展示されます。これは大変よいことだと思います。作品が学術誌に掲載されるということは、アーティストにとってとてもよい経歴になります。特に大学関係者の方には就職や昇進の役に立つでしょう。



Q:「タッチポイント」というテーマを選んだ理由は?
この多感覚というテーマを選んだのは、私の個人的なこだわりもありました。私の父は目が不自由です。また、私自身もプロダクトデザインという仕事をしているので、視覚以外の感覚、特に触覚にはとても親しみを感じています。SIGGRAPHはグラフィックスが主題なので、視覚にフォーカスがあてられていますが、その視覚というのは、他の感覚に支えられているものです。 たとえば、CGのテクスチャで絨毯のテクスチャがあったとします。
私たちがそれを見て、「あ、柔らかそうな感じの絨毯だな」と思えるのは、過去に実際に絨毯に触った経験があるからです。このように、視覚だけではなく、触覚や嗅覚、温度や聴覚などいろいろな感覚から、人間の感覚というのは成り立っています。今回のアートギャラリーでそのようなことを考えるきっかけになればと思いました。

Q:見どころとなった作品は?
砂を使った作品と、蛇のようなロボットの作品です。砂を使った作品は、 『Glowing Pathfinder Bugs』という作品で、砂の上に虫が投影され、砂場の表面の形状を変えることで虫とインタラクションできます。砂はだれもが子供の頃によく触った懐かしいマテリアルですよね。
また、蛇のようなロボットの作品は、『ADB』という作品で、中のモーターで暖かさが生まれ、本当に生き物のように感じられます。蛇のような形は怖くもあり、触ってみたいとも思わせる不思議な二面性があっておもしろいと思います。



Q:鑑賞者の反応で予想外だったことは?
意外に人気があったのが、『Echidna』という小さな作品でした。もしゃもしゃの針金の塊のような作品ですが、手をそばに近づけると音を出します。手の位置によって音が変わる反応のおもしろさを楽しんだ人が多かったようです。中には、両手を近づけてなんとか音楽を演奏しようとしている人もいました。随分小さい作品なのですが、展示の中で一番気に入ったという人が結構いました。

車椅子を使った作品も興味深かったですね。鑑賞者が実際に車椅子に座って仮想空間を移動する『Strata-Caster』という作品がありました。始めは壁にぶつかったりしていた人が、すぐにうまく動けるようになって仮想空間を鑑賞していました。実際に車椅子に乗ってみる人が多かったですね。現実の世界でいきなり車椅子に乗るのは抵抗がある人が多いと思いますが、仮想空間なら気軽に乗ってみようと思うようです。

今年SIGGRAPHに来場されなかった方には、展示を経験していただけなくて本当に残念です。インタラクティブな作品は鑑賞者が参加してこそ生きてくるものです。


Emerging Technologies ・ The Studio ・ Art Gallery

SIGGRAPHには大学などの教員で組織される委員会:Education Committeeがある。今年、CG-ARTSとエデュケーションコミッティは、「3D Animation Program Survey」を米国の教育機関に対して行うことになった。これは、3DCGアニメーション教育の実態調査で、Webで行うアンケートだ。SIGGRAPH2010の会期中にエデュケーションコミッティのブースでこのアンケートを紹介し、教育関係者に参加協力を求めた。この調査結果がまとまったときに、CG-ARTSが昨年度日本で行った同内容の調査結果と比較分析を行う予定だ。
http://education.siggraph.org/newsfeed/3d-animation-program-survey/view


Emerging Technologies ・ The Studio ・ Art Gallery

SIGGRAPH2011は、カナダのバンクーバーで8月7日から11日に開催される。「SIGGRAPH」が初めて米国の外にでる記念すべき年といえる。カナダは映画産業はもとより、ゲーム産業も活発な地域だ。
http://www.siggraph.org/s2011/

SIGGRAPH2010の最終日の夕方、最後に会ったのが、来年のコンピュータアニメーションフェスティバル委員長のJoshua Grow氏。彼は、近年フェスティバルで上映する作品は3DCGが圧倒的に多くなっているので、ぜひ日本のアニメ作品(もちろんデジタル作品)やゲームの作品をたくさん応募してもらいたいと話した。日本のアニメは世界に誇れる日本文化の一つ、多くのすばらしいアニメ作品をSIGGRAPH2011で世界中の人に見せたいと願いながらSIGGRAPH2010の会場を後にした。

取材・文:宮井あゆみ、青木美穂(アラスカ大学)

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