大学・企業現場リポート ディジタル最前線

Vol.26 SIGGRAPH2009にみる日本人の活躍を追う!CGとインタラクティブ技術の祭典SIGGRAPHとは?



今回で36回目となる「SIGGRAPH」が8月3日から7日まで、アメリカ・ニューオリンズで開催され、69の国と地域から1万1千人が来場した。2005年8月にハリケーンで大きな被害を被ったニューオリンズだったが、会場となったコンベンションセンターのあるフレンチクオーターは、ジャズ、R&B etc.の音楽の街として元気な姿で参加者を迎えてくれた。

CG技術の学会として始まったSIGGRAPHは、映像産業が盛んなアメリカという土壌を活かし、アカデミックな側面にエンターテインメント性が加味され、技術者とアーティスト、クリエイターが集う個性的で創造的な場として発展し、CG、VFX、インタラクティブ技術の分野で先導的な役割を果たしてきた。さらに今年は音楽やゲームという新たな側面を加え、大きな広がりを見せた。

ハードウェア・ソフトウェアの発達とともに急速な成長を遂げたCG技術の分野はいま、成熟期を迎えているといえる。さまざまな分野と融合し、用途が多様化するCGの進展と同様に、SIGGRAPHも変革の時を迎えているのであろう。

このようななか、SIGGRAPHがどのように変わろうとしているのか!?デジタル最前線では、日本人の活躍を追いながら紹介していく。

■「SIGGRAPH2009」の全体概要
■日本人の活躍が目覚しいエマージングテクノロジーに注目!
■アートとデザインの作品を3つの視点で紹介
■昨年から変革をみせるコンピュータアニメーションフェスティバル
■世界の最先端研究に触れる論文発表
■SIGGRAPHで何が得られるのか

「SIGGRAPH2009」の全体概要

SIGGRAPHには、さまざまな発表と体験、学習の場が用意されている。研究論文の発表やパネルディスカッション、コースと呼ばれるセミナーなどをはじめとした「セッション」、アート作品の展示や先端技術の展示や制作スペースを提供する場「ギャラリー&エクスペリエンス」、学生参加型のワークショップをコンテスト形式で行なう「コンテスト&コンペティッション」、最高峰の映像作品が集う「コンピュータアニメーションフェスティバル」、さまざまなCG関連企業が集まり製品発表をする「エキジビジョン」と…今年も多様なプログラムが用意された。

今回の実行委員長であるローネン・バーゼル博士は、今年の特徴について音楽、ゲーム、情報美学の3つのテーマを加えてSIGGRAPHの分野拡大を試みたと話す。特に、ゲーム関連は、専門の論文発表の場「GAME PAPER」を設けたほか、コンピュータアニメーションフェスティバルの「イブニング・シアター」ではオープニングにゲーム作品のリアルタイムデモンストレーションが行われた。また基調講演では、音楽の分野から映画における音響デザインのパイオニアで過去に2度のアカデミー賞受賞歴を持つランディー・トム氏、ゲームの分野から『Simcity』の開発者として有名なウィル・ライト氏を迎えている。今後のSIGGRAPHがゲーム産業や音楽産業を取り込んで、大きく変革、発展していきたいという意欲を示した結果といえる。

日本人の活躍が目覚しいエマージングテクノロジーに注目!

「ギャラリー&エクスペリエンス」のなかで、仕事、生活、遊びに変化をもたらす先端技術イノベーションのショーケースとして展示を行っているエマージングテクノロジー。

今年は、応募数112作品から選ばれた27作品と、5つの招待作品、そしてSIGGRAPHが提携しているフランスのラバルというフェスティバルから1作品の推薦を得て33作品で構成された。日本からの出展は近年では最多の17作品となった。

この部門のチェアー(委員長)を務めている桜井学氏に今回の特徴と、SIGGRAPHの魅力、日本の若手技術者の活躍についてお話を伺った。

「今回は技術のテーマごとに7つに展示をわけました。中でもユーザーと技術との接点(インターフェイス)をテーマとする「インプットインターフェイス」や「エクスペリメンタルセンソリーエクスペリエンス(実験的な感覚の経験)」などが特徴的といえます。」と話す桜井氏いわく、機械が人間の動きを如何に理解し融合するか、人間に自然に感じられる形で見せられるかという視点に着目した作品が多かったという。
また、日本勢が強かった理由ついて、日本人は技術への新たな発想力に優れていて、そのアイデアを形にする力、背景にあるリサーチ力の深さ、表に見えてくる見栄えの良さなどの面で勝っているのではないかと分析してくれた。日本人のバランスの良い感性が活かされた結果とも言える。

桜井氏はさらに、日本の大学の研究環境を挙げ、おそらく以前は縦割りだった学部、学科の形態が、他分野ともコラボレーションできるようになってきた良い結果の現れなのではないかと話す。さらに、Webを活用する環境が一般的になってきた今、技術者が自ら研究や技術を発信する機会が増え、自ずと見栄えを良くする力やユーザビリティを考えた設計力が向上してきたのではないかという。



今後の日本の若手技術者に求めることとしては「ハード面での見せ方は良くなったので、ソフト面を充実してほしいですね。というのは…もう少しプレゼン能力を高めて欲しいとも思っているですよ。やはりこういった国際的な場で技術を紹介する際には、相手がどんな部分に興味を持っているかを推測して、臨機応変に対応できないといけない。マニュアル通りではなく、ユニークに応対していくと、相手から得られるものも大きいと思いますよ。」と話す。
せっかくの研究紹介の場だ。有効に活用し、相手からも情報を引き出して自分の糧にしてほしいということのようだ。
そう話してくれる彼も理工学部電気工学科でデジタル信号処理を学び、大学院1年が修了してからカナダに留学し、海外の授業のレベルの高さと日本との違い、考えを伝えることの重要さを知ったという。

SIGGRAPHに7年関わっている桜井氏。これからのエマージングテクノロジーについて、アートとテクノロジーが一堂に介されるこの場をさらに活用するために、会期中になんらかのコラボレーションの場が生まれるとよいと感じおり、今後その可能性も模索していきたいと話す。

最後にこれからの日本の技術者に向けて「SIGGRAPHには思いも寄らなかった出会いがあり、発想が広がる魅力に溢れていると思っています。技術者だけでなくアートやデザインに関わる人からの反応をもらって、自分を大いに広げてください。」とその思いを語ってくれた。

今後ますます注目されるエマージングテクノロジー。SIGGRAPHという場を舞台にどう融合し、進展していくのかこれからが期待される。

以下に日本からの主な作品を紹介する。

Baby-Type Robot: YOTARO
「学生CGコンテスト」の受賞作品として今年2月の文化庁メディア芸術祭でも展示された『YOTARO』。今回は人とのコミュニケーションの側面に配慮し、ベビーベッドの中に赤ちゃんがいる形に改良したとのこと。ベッドを覗き込んで赤ちゃんの顔を指で押すと、人間の皮膚のように色が変わったり、赤ちゃんの表情が泣いたり笑ったり変化する。額の汗や鼻水などがでてくるのには来場者を驚かせていた。 

Anthropomorphization of a Space With Implemented Human-Like Features
つけ替え型家電ロボット。冷蔵庫や電子レンジ、洗濯機などの家電にロボットのパーツ(目や手など)を貼りつけて便利に楽しもうという技術。ブルートゥースでつないだパーツが連動して動く姿が愛らしい。商用ディスプレイなど宣伝用に応用できると作者は考えている。


CRISTAL: Control of Remotely Interfaced Systems Using Touch-Based Actions in Living Spaces
Upper Austria University of Applied Sciences大学と東京大学、慶応義塾大学とのコラボレーション。リビングルームに置かれたテーブルで全ての家電を動かすことができるというもの。操作は直感的で、DVDを選んでテレビで再生することもできる。実際にオーストリアではショールームが用意されていていつでも体験が可能とのこと。

PhotoelasticTouch: Transparent Rubbery Interface Using an LCD and Photoelasticity
透明のゴムでできている顔を指で押すと表情が変化するユニークな作品。ディスプレイに装着された偏光フィルタで位置や強さを検出し、画像をリアルタイムに表示。液晶ディスプレイに透明ゴムという組み合わせでローコストに手触り感のあるインタラクティブな環境を制作している。


 
 

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