大学・企業現場リポート ディジタル最前線

Vol.25 3次元CG長編映像制作を目指す先鋭部隊VEとは!?

総合エンターテインメント企業として更に強固な地位を確立するというセガサミーグループの意向を受けて、CG映像制作に特化した部署として誕生したセガVE研究開発部(以後VE研)。実力あるスタッフを内外から集め、約40名で2006年にスタートした。
フル3次元CG長編映像を創ることを最終目標とし、昨年12分の短編「ソニック ナイト・オブ・ザ・ウェアホッグ」を発表している。
現在は約80名を抱えるVE研の副部長 宮本桂氏と、R&Dセクション セクションマネージャー齊藤淳氏に今回の短編の映像制作について、人材の育成、今後の展望についてお話をお伺いした。


VE研がはじめて制作した短編映像「ソニック ナイト・オブ・ザ・ウェアホッグ」

今年4年目を迎えたVE研。当時社内に映像を創る部署を持っていなかったセガは、ゲームタイトルの中での映像制作に留まらず、劇場公開用フル3次元CG映像を創ることができる組織づくりを念頭にVE研を立ち上げた。

「はじめは社内の大型タイトルのインサート映像や、オープニング映像を創りながら、技術的なチャレンジを少しずつ重ねていきました。並行して環境を整え、映像制作の基盤づくりを行ない、2年をかけてようやく次のフェーズに移れる段階となりました」と語るのは、部署の立ち上げから携わる宮本桂氏。

2007年の年末から今回の短編「ソニック ナイト・オブ・ザ・ウェアホッグ」の企画に着手したという。まずはVE研の中でアイディアを集めて選定し、3ヶ月半をかけて2本の企画に絞っていった。

「業務を進めながらでしたから、みんな仕事の合間にアイディアを練っていました。力の入り方もさまざまでしたし、いろんなアイディアが集まって面白かったですよ。プリプロダクションの段階では、2本の企画を3ヶ月ぐらい同時に進めました。難関を経て勝ち残ったのが、今回の作品です。」

知名度の高いソニックを題材にするか、全くのオリジナル作品にするかという選択はあったようだが、オリジナルキャラクターだけで構成する展開と、ソニックを使ってその魅力を引き出す展開の効果を比較検討したところ、自ずと方向性が決まったという。
そしてソニックとオリジナルキャラクターを組み合わせることの面白さにも着目し、今回の企画に至った。
また、ゲームタイトル「ソニックワールドアドベンチャー」とも連動し、世界観を共有したり、短編映像のオリジナルキャラクターをゲームに登場させたりしている。

制作におけるこだわりと土台づくり

シナリオをつくらずに、ストーリーボードを制作しながらストーリーを決定し、絵コンテ、レイアウトに進んだ。
デザインはキャラクターデザイン、背景デザインを進めてモデリングに入った。キャラクターの設定はかなり詳細に行なったという。映像の中でのキャラクターの動きや表情は性格に依存するため、どんなものが好きか、どんな小物を持っているかなど性格について詳細に決めた。

「お化け3人の関係はもちろん、たとえばお化けになる前はどんな生活をしていたのか、家族構成は…など、ディテールまで決めました。こういった性格づけが、映像の中でのキャラクターの行動力をかなり左右するというアニメーターの意見がありましたので、丁寧に設定しました。

今回の作品に登場するキャラクターは漫画的なデフォルメがされていますから、キャラクターの世界観に合わせ、家の柱の形や床のテクスチャ、エフェクトの雨粒、髪の毛の物理計算に至るまで、すべてをデフォルメする必要がありました。」

物理計算によって表現できる動きであっても、作品に合わせた演出を加えることでこの作品の独特の世界観が生みだされたといえる。

モデリングしたデータは、シェーディングやセットアップに進んで行くが、今回はこの段階でLookdev.(ルックデブ)という部署が大活躍している。
この部署は、RenderManを活用したシェーダの開発を担当している。今回のキャラクタの質感の90%は、RenderManシェーダで表現した。基本シェーダの数が100通りほどあるというからその力量に驚かされる。
以前はほぼ全てのシェーダはRenderMan for Mayaが自動的に変換するMayaのシェーダを利用していたが、今回は4ヶ月を費やしてすべてのシェーダを1から構築したという。
シェーダとは、レンダリング時において陰影処理(シェーダ)をプログラムとして実行する技術だが、これを使用することでより繊細で自由度の高い映像表現が可能になる。

RenderManを使いこなしているスタジオは、まだまだ国内では少ないようだ。
シェーダ制作にはデザイナー的なセンスと、プログラミングの知識の両方が必要となる。そのようなスタッフを数名抱えていることから、VE研の層の厚さと長編映像制作のための組織づくりに本気で取り組んでいる姿勢が感じられる。
そのLookdev.を技術的にサポートしたR&Dセクションのマネージャー、齊藤淳氏は次のように語る。

「まず長編を創るためのパイプラインの構築に重点を置きました。そのためのプロジェクト管理やシークエンスリスト、ステータス、ショット一覧等の情報の管理システムをWebベースで構築しました。長編のための土台づくりをしっかりと初めからやろうと考えたんです。
そして、Lookdev.ではソニックの毛の表現や毛を生やすプラグイン、MayaとRenderManとの見た目を合わせるプログラムなどを丁寧につくりこみました。」

VE研においてR&Dセクションは、まさに要の部署といえる。大勢のスタッフが関わる制作の現場では彼らのつくったしっかりした土台とサポートがあってこそ、スムーズで魅力的な制作が進められるのだ。

長期的な視野を踏まえた人材育成

立ち上げ当初は経験者が集められたが、現在では大学や専門学校から新卒などを採用して、長期的な発展を考えた組織編成も行なっている。今年度もデザイナーで1名、R&Dセクションで2名の新卒が採用された。
「新人には1ヶ月半から2ヶ月ぐらいかけて、すべてのセクションをまわってもらい、全タスクを知ってもらうという教育を行なっています。制作の全体工程への理解があったほうが、各セクションに戻って仕事をするときに良い結果を出すことができると考えています。」

VE研は完全な分業制をとっているが、各セクションのスタッフが全体の流れを知っているほうが連携もスムーズになり、仕事の効率性と質の保持の点で効果を発揮できるのだろう。

人を育てることに力を入れているVE研ではこの他、社員教育の一環として2つのワークショップを定期的に行なっている。1つはデッサンのワークショップ。仮想世界をつくりあげるCGは物を見る力、把握する力が大切だという考えから、月1回のペースで行なわれている。
もう1つは、インプロビゼーションというワークショップで、講師から与えられた題材をもとに個人やグループで即興劇を行なうというもの。

「インプロビゼーションは、アメリカのピクサー社が行なっていると聞き、取り入れることにしました。もともとはアニメーターに演技をより深く理解してもらうために良いと思って始めたのですが、今では他のセクションからの参加者も増え、スタッフのコミュニケーションに役立っています。」

ソフトウェア関係の勉強会も行なっている他、今後は写真撮影やライティングのワークショップを立ち上げたいと考えているという。そして、今後さらに人員を増やすことを検討しているため、部内のポータルサイトを利用した新人向けの情報提供のシステムを確立し、業務に必要な知識を学べるような仕組みをつくりたいという意気込みだ。

CG-ARTS協会の教育カリキュラムや書籍について

VE研の共有本棚には、CG-ARTS協会の書籍『コンピュータグラフィックス』『ビジュアル情報処理』『ディジタル映像表現』『入門CGデザイン』が置かれている。以前より協会の書籍や検定に理解のある齊藤氏は、
「『コンピュータグラフィックス』は、セガ内ではVE研だけでなくゲーム開発部門でも評価が高い本ですよ。CGに関する広い分野が網羅されているので、自分もリファレンス書として使ったりしています。

ここに書かれている内容をすべて理解していれば、スーパーCGエンジニアと言えますね(笑)。スタッフには自分がぶつかった問題を解決するとき、その方法はいくつもあるのだという引き出しを持ってもらいたいと思っています。なので、困ったときの一冊として活用してもらいたいです。社内でも良書だと評判になり、数十冊を一括購入しましたし、新人に配ろうか・・・という話もでています。」

今回初めて『ディジタル映像表現』に目を通したという宮本氏は、
「この本、面白いですね。本当にCG映像制作についていろんなことが書かれています。制作の全体工程もわかり、CG制作のための普遍的な基礎が解説されている点が良いと思います。
制作の現場ではついソフトウェアの使い方の本を選びがちです。CGの詳細な技術は日々変わっていくので、基本を理解しておけば応用力が身につき、変化に対応できると感じています。たとえばMAYAのマニュアル本のみで学習し、このメニューを操作すればこういうことができるといった覚え方をしてしまうと、ツールが変わった場合に、対応ができなくなってしまう。ソフトウェアが変わっても、変化することのない基本部分は、こういう本で押さえておいて欲しいです。学校でこういった基礎を学んできてくれると有り難いですよね。」

今後の取り組みと教育機関や学生へのメッセージ

VE研では今回の短編映像の成功をベースに、今後は長編制作に向けての活動をさらに進めていきたいという。

「長編の企画も動き始めましたので、なるべく早い段階で形にできればと考えています。子供からはじまって大人まできちんと伝わっていく内容の作品を創りたい!そう思っています。」と力強く宮本氏。

続いて齊藤氏は、「これからも表現上のさまざまな課題を解決する技術を開発して、その成果を世の中に創出していきたいと考えています。学術的に認められ、映像制作にも役立つものを発表していきたいですね。」

長編への土台づくりを確実に進めてきたVE研は、その先進的な取り組みを今後も積極的に公開していきたいという考えだ。

最後にこの業界を目指す学生の皆さんや教育機関の方々へのメッセージをお2人にお願いした。

宮本氏からは「やはりコミュニケーション能力が一番大切だと思っています。多くのスタッフで1つの映像を創り上げていくこの世界では、1人だけが高い才能を持っていても他の人と繋がらなければ、その良さは実を結びません。今までにも才能が皆と繋がって成果として花開くのを見てきましたから・・・。自分のやりたいことをきちんと説明でき、人が何をやりたいかがわかる人間、そういう人が伸びていきます。」

CG制作の現場では自分の作業にこもってしまう人も多いが、やはりコミュニケーションの重要性を理解してほしいという。

齊藤氏からは「CGの技術者にはやはり数学や物理の勉強は必須だと思います。反対に考えれば、CGのツールは数学や物理の法則を学ぶのに最適だと思うんです。たとえば数学で三角関数や行列を学習した場合、数式を実際にCGで描いてみせることで、目でみて体感的にその仕組みを理解することができると感じています。数値を変えることで実際の画像が変化するのが分かりますからね。
VE研のある大鳥居の近くの高校には、実際にMAYAやPython cgkitなどを使って数学を教えている先生がいるんですよ。自分も学生時代にそういう教育を受けてみたかったなあ、と思いました。」と教育機関へのメッセージを併せていただいた。

今年、待望の長編への取り組みがはじまるVE研。スタッフが一丸となってこれから夢に向かおうとしている良い空気が感じられる。これからもVE研の活動や、技術的な情報公開、発表に注目していきたい。

取材:篠原たかこ、尾形美幸
  文:篠原たかこ
写真:千葉惠子

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